『一人でも―――大丈夫だな?』
人への心配。
唯一。かけた言葉。
[[[ 言葉 ]]]
5枚のディスクが揃い、一度分かれた仲間と合流。
開かれた、最終決戦の場への道。
個人差はあれど、皆も少なからず緊張を覚えるのか、
いつもとは少しだけ違う空気が流れていた。
一人乗りのエレベーター
また、別々になる
一人になることに恐怖があるわけではない。
あるとすれば、自分以外の者の様子が・・・わからないこと。
どこに誰が乗るか
そんな、どうでもいいような事でモメている後ろで、
水鏡は一人、立ち尽くしていた。
一歩下がって、その様子を傍観。
一つのエレベーターの取り合いをしていたかと思えば、
挙句の果てにジャンケンなどはじめている。
その様子を少々呆れながら見て、小さくため息をつく。
ふと、以前自分の言った言葉が。そのときの様子が、思い出された。
『一人でも―――大丈夫だな?』
以前の自分からは考えられないような、人に対する心配の言葉。
それでも、何の抵抗もなく、すんなりと口から出てくれた。
別に、弱いとか。頼りないとか。思っていたわけではなかった。
ただ、心配だった。それだけ。
「(今は・・・もう必要のない言葉だ)」
心で呟いて、目線をさらに低くする。
そう、もう必要ない。彼女は、強くなった。
何も言わなくても、自らの道を見極めている。
――なら、僕はどうだ?
自分の力に、自信がないわけではない。
しかし、恐らく次の相手は――師。
『大丈夫だ』と、自分にかけることは・・・出来ない。
死ぬ。かもしれない。
生きて帰れるとは・・・限らない。
今死んだら。
・・・残るだろうか。未練。
冗談にならない自分の言葉に、少し苦笑する。
珍しく弱気な自分は、この上なく頼りない。
・・・・情けない・・な
気分が悪い。そんな感覚に襲われる。
それを自分の中に抱え込むと、余計に辛くなる。
余裕が消える。言葉も消える。
雑音が、消えていく。
「大丈夫」
不意に、そんな言葉が耳に入る。
伏せていた視線の先に、笑顔が現れた。
「大丈夫。大丈夫大丈夫!」
「風・・・子?」
語尾に疑問符をつけて、やっとの思いで呟く。
消えたと思っていたはずの音は、拒絶されずに耳に届いた。
時同じくして、雑音が蘇る。
暗かった視界に、光が差す。
「大丈夫!柳助けて・・・帰ろう!絶対、大丈夫だよ」
「・・・どこからくるんだ。その余裕は・・・」
抱え込んでいた何かが、少し軽くなる。
錯覚していた感覚が、見る間に消える。
そのことを自覚しつつ、少しだけ悪態をつく。
「・・・・だって、そうでしょ?」
根拠はない。
・・・しかし、何故だろう。そう思えるのは。
『大丈夫』、その一言。
・・まるで呪文のように、気持ちが軽くなる。
笑顔でそう風子が問う。
それに無言で、微かな笑顔を返す。
その笑顔を見て、また一層の笑顔を風子が返す。
「・・・これでチャラ」
「?」
突然の言葉に怪訝を表情に表してみる。
「・・・・天堂地獄の時の。これで、チャラ!」
「・・・緋水・・・・とかいう女の時の・・か?」
そうそう、と呟いて頷く。
別に悪いヤツじゃなかったけどね、と再度呟いて、少し目を伏せる。
「・・・結構さ。安心しない?『大丈夫』ってやつ」
少し照れくさそうにそう言って、まだモメる烈火等の方へかけよる。