: うしろの正面 :
着替えを済ませて外に出る。 夕日に染め尽くされた空が見える。 その向こうで、1人校門で立ち尽くす姿が見えた。 腕を組み、俯く姿。 ここからはよく見えないけれど、多分目も瞑っているのだろう。 それほど疲れたのか、それともただひまを持て余しているだけなのか。 どちらにしても、帰りは遅くなると言った自分を待っていてくれていることだけは明白で、こそばゆいような申し訳ないような、そんな感情が湧いて出た。 走り寄ろうかと思う。 思いついて、止める。 なるべくそっと近付く。 足音を消して、近付く。 俯いたまま、目を瞑る不破にそっと近付き、 後ろから手を回して、目隠しした。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 一瞬、驚いたように不破の体が小さく跳ねあがった。 笑いそうになるのを必死に堪えて、黙り込む。 声を上げたらすぐにバレてしまうから。 必死に黙り込む。沈黙が続く。 やがて沈黙にも飽きて、不破が小さくため息をついたのは、 数秒その不自然な体勢が続いた後だった。 「もう用は済んだのか」 「・・・・もうちょっと、違った反応出来ないわけ?」 目隠しをしていた相手の名前を呼ぶわけでなく、 目隠しされていたことに対して文句を言うわけでなく、 平然と普通の対応をした不破に対して、不満そうに有希がそう洩らす。 つまらない、とでも言いたげにため息をついて、小さく笑った。 「やっぱり、すぐわかった?」 「ああ」 「何で?」 「この時間、他の人間はそう残っていないからな」 「・・・なるほど」 それは盲点だった。 納得するように神妙に頷きながら、言う。少し、残念そうに。 すぐ自分だとわかってくれたことは嬉しかったけれど、 その理由を聞いて少しがっかりした。そんな風に。 「じゃあ、今度は部活中に挑戦してみるわ。 風祭か誰かと協力して、ね。 そうすれば、ちょっとは戸惑うでしょ?」 「無駄だな」 「・・・何でよ」 「どちらにしろ、すぐにわかる」 「へ?」 「小島の手を見間違うことはまずないからな」 「・・・・・・・目隠ししてたら、見えないのに?」 「感触でわかる」 「・・・・・・・・」 「・・・・小島?」 「あんた、時々すごいこと言うわね」 「・・・・・そうか?」 後ろの正面、だあれ? 見えなくても、すぐにわかる。君なら。 FIN.
スランプ脱出計画実行中。 |