目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


だって今日が、その日。













[[[ 
今日この佳き日に ]]]














鳴る前の目覚まし時計を止めて、ベッドから起き上がる。
はっきりと冴えた頭に、自分の予想以上の気持ちの高ぶりがとって見れた。
例えば遠足の当日とか。遊び行くその日とか。
楽しみで楽しみで。なかなか寝つけない割には、朝にはいつもより早く目が覚める。そんな感じ。
だから多分、今日のこの朝も、そんな気分なんだろうと思った。




すぐ傍のカレンダーには、今日の日付に赤いペンの丸印。








服を着替えて、壁の掛け時計を見上げた。
時間まではまだまだあるのに、この分だと、用意だけが早々と済んでしまいそうだ。
でも、じっとしてはいられなくて。気持ちだけがはやる。
用意が済んでしまえば、更に気持ちは焦るのだろう。必要もないのに。

そんな事態は、自分にも心臓にも悪そうなので、出かける準備は直前にしようと決めて、
手にしていたカバンをベッドにむけて放り投げた。





閉めきっていた窓を開けて、真っ青に晴れた空を見上げた。
どこから見ても同じ空なのに、明日から見上げる場所が違うんだと思うと、なんだかすごく愛しく思えた。
この窓枠に手を掛ける事も、なくなる。
帰ってこようと思えば、すぐに帰って来れるけど。
でも多分、滅多に来ないんだろうなと考えると、余計にそう思った。


居心地のいいこの部屋とも、今日でお別れ。
荷物なんかが全部置いてあるから、そんな気は全然しない。
どうせ近くなのだから、少しずつ運べばいいだけのこと。
いきなり全て持ってこられても困る、という言葉の後押しもあったから、流れは自然とそうなった。


寝起きしたベッドや、使いなれた机はここに置き去り。
明日から、ご主人はいなくなるんだよ。と、小さくそれらに語りかけて、自分でも自覚する。
私はここからいなくなるんだ、と。













今日のこの日に、この部屋の住人はいなくなる。

この世から、「霧沢風子」が消えて無くなる。













この部屋の扉を開けて、この家の玄関をくぐってしまえば。
帰る頃には、私は別の人間。ううん、名前になる。

だから今日は、霧沢風子の最後の日。




本当は、格式ばったことは大嫌いだから。何もするつもりなんかなかった。
なのに、その話を柳にしたら大ブーイングにあって・・・・。
気付いたときには、日時から場所から全て決定済みで。
満面の笑顔で説明を繰り出してくる柳の前で、2人して石になったのはいつだっただろう。
そんなに遠い過去でもないのに、今ではひどく懐かしい。

確かあの後必死の説得を試みて、観客・・・というのだろうか。
その人数を、いつものお決まりのメンバーだけにさせたのが、唯一の救い。
あのとき渋った柳の表情を思い出すと、一体どれだけ呼ぶつもりだったんだと怖くなる。


でもあの子は私達のためにやってるんだとわかってるから、やっぱり嬉しかった。




だから、私は幸せになるよ。
神様に誓うより。あんた達に誓う。












空を見上げたまま何時間もそのままでいた。
ふと気がついて、時計を見上げれば時間は言われた2時間前。
少し早いかもしれない。でも、じっとしてるよりはずっといい。



投げ出したカバンに必要なものを詰めて、部屋の扉を勢いよく開けた。
遅刻すれすれで飛び出してた高校生の時みたいに、そのままの勢いで階段を駆け下りて。
いつもみたいに、いってきますと叫んで、玄関の扉を開ける。

これを閉じたら、もう霧沢風子は帰ってこないよ、と。
閉じる前にドアに話しかけて、小さくバイバイと呟く。

家の前の道路を、走り出す。
角を曲がって家が見えなくなる前に振りかえって、今度はありがとうと呟く。

走りながら、貴方はどうしてるだろうと考える。
もう起きてるかな?起きてるよね。
起きてなかったら、たたき起こそうって考える。
どうせ明日からは、私がたたき起こされるんだから。って考える。






ああ、ダメだ。やっぱり嬉しいんだ。私。

何をしても、考えても。

やっぱり辿り着くところは同じだよ。














緩む表情を、必死で押さえながら走って、見えてきた貴方の家。
でも、今日からは私の家でもある家。
いつも見てた貴方の名前が書いてある表札。明日から、私の名前も書かれるんだね。
隣のお姉さんにからかわれそうだ。
そう思って、また笑った。


貴方の部屋のチャイムを鳴らす前に、無意識に時計を見る。
さっきから時間気にしてばっかりだね。やっぱり楽しみにしてるな、私。
早過ぎる訪問に、扉開けた途端、貴方がどんな表情するかすぐわかるよ。
でもわかってくれるよね。
嬉しくて楽しみで。仕方なかったんだって。



そんなことを考えながら扉を前で立ち尽くしてたら、隣の部屋の扉が開いて、お姉さんが顔を出した。
予想に反して、言われた言葉はおめでとう、で。ありがとうって話をしてたら、今度は目の前の扉が開いた。
顔を出した貴方の表情が予想通りで、なんか笑えた。
貴方の首にかかった、私と同じリングを見て、涙が出そうになった。

















ねえ、知ってた?

今日のこの日に。私は貴方の妻になるんだって。

遠い日の約束が。今やっと、果たされるんだって。



約束だったよね。幸せにしてね。









幸せに、なろうね。







FIN.


やっぱり自分はみーふー好きだと再確認。
ここぞというネタは、全部こっちに回したくなる。愛だね、愛(笑)

またまた結婚式前とかいう、未遂2度目でございますが。
でも、当日直前だから、結婚話って銘打っていいよね?(笑)
あー。でもマジでこんな風だったらよかったのになあ。何も文句言わなかったよ、私(笑)

あとあと読み返して見ると、意外と短かったりつじつまあってなかったりしたんですが(おい)
愛はこもってます(笑)
いつものように空回り。でも、好きだから許してね(待て)

微妙に関係あるけど(あるのか)BGMはドリカムでした。
アルバム収録曲。『今日この佳き日』。
名曲だと思ってます。是非聞いてみてください。マジ。



モドル