「五月晴れやなぁ・・・」
そう呟くシゲの頭上には、9月の空が広がっていた。
。。。彼の休日。。。
「時期が違う、時期が」
ご丁寧につっこんで、水野は辛そうに頭を抱え込んだ。
時は休日。天気は晴天。
さぁ、絶好のサッカー日和!!・・・なのだが、今日は休日なので部活は休み。
なのに何故、ここにはこんなにお馴染のメンバーが揃っているのだろう。
水野は、自分の後ろで群れるお馴染メンバー・・・。
シゲ。不破。風祭の面々に、さらにため息を深くした。
「だいたい、お前等なんでここにいるんだよ」
駅前で偶然ばったり出会ったこの3人に、当然の質問を水野は投げかける。
その言葉に、質問を受けた3人は改めて顔を見合わせ・・・。
「いや〜、偶然やなぁ。不破、ポチ。
まさかこの時間に駅で会うとは思うてへんかったわ」
「同感だ。偶然とはそうあるものなのだな、風祭」
「えっ!?あ、えーっと・・・。そ、そうだね」
わざとらしく偶然を装うシゲと、話を合わせる不破。
そしてあからさまに話を振られて驚いた風祭に、水野はきっぱりしっかり言葉を紡ぐ。
「どこの世界に、10時きっかりに3人揃って出くわす偶然があるんだ(怒)」
そういいながら指差す時計は、10時を少し回ったところだった。
お前等、絶対待ち合わせてただろ。いや、待ち合わせてたよなっ!
そう言い放つ水野にも、(風祭はおどおどしていたけれど)彼らは平然と虚空を見つめていた。
あぁ、どうしてこんなことになったんだろう。
昨日のことを思い浮かべても、原因となりそうなことは少ない。
というか1つしかない。絶対あれだ。他には考えられない。
そう思いながら、水野の思考は前日の回想へと流れていった。
「明日?買出しに?」
そう言い返す水野に、日誌から目を離さずに、彼女―小島有希は頷いた。
「そ。今日、いろいろ切れたから。買出しに行きたいのよ。
でも量がハンパじゃなくて・・・・荷物持ちが欲しいの。
あ、もちろん用事があるなら他にヤツに頼んで・・・・」
「行く」
そう?と、やはり日誌から目を離さない有希の返事を、
平静を装いつつ水野は聞き、内心喜びにうち溢れていた。
普段、部長という立場上部活を抜ける事が出来なかった水野は、
思えば放課後の買出しに(有希と一緒に)行った事がなかったのだ。
これは好都合。しかも邪魔者なし。
そんな喜びで一杯の彼は、待ち合わせ時間だけを告げ、有希が部室から居なくなったことも、
そんな彼らの会話を文字通り草葉の陰から見ている輩が居た事も、
部室から出てきた有希に、「なんや今頃帰るんか〜?送ったるで」と言って、
ちゃっかり彼女と下校を共にした謎の人物(バレバレ)が居た事ももちろん知らない。
そんなわけで、何にもしらない水野氏は、
草葉の陰から覗き見し、ちゃっかり有希と下校を共にした輩の計らいで、
『徹底的に邪魔してやろう』同盟が結成されていることも、当然の如く知らないのだった。
「どしてんタツボン。ぼーーっとして」
シゲ(・・と書いて首謀者と読む)の一言で現実世界に戻ってきた水野は、
あからさまに不機嫌さを表情に押し出して、はぁー・・っと息を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・帰れ」
「「は?」」
水野の言葉に、シゲと不破の声が被る。
そんなこともおかまいなしに、水野のセリフは続く。
「帰れ。なんっっか嫌な予感がする。絶対何か企んでるだろ。
どうせただの買出しなんだぞ、荷物持つにされたくなかったらとっとと・・・」
「何言うてんねんなタツボンv俺ら仲間やねんから苦しみは分ちあわなvv」
ワザとらしいシゲの言葉に、周囲に一瞬北風が吹き荒れる。
寒っ!まさかこの男のこの口からこんな言葉が出てくるとは!
あんまりな表現ではあるが、あのニコヤカな笑みでこれを言われた方はたまったもんじゃない。
「うそ臭いんだよ、その顔はっ」
「・・・だいたい、俺達が休日をどう過ごそうと俺達の勝手だろうか」
来ました2番手は不破。
確かにその言葉は正論だ、だがしかし、裏を返せばそれは水野にも言える事で。
頼むから、ほっといてくれ・・・・・・・。
と思う気持ちも優先される権利があるのだが。
彼の尊重など、彼ら2人にかかれば簡単に無に帰されるのであって。
2人の言葉の攻撃に、水野はただただ頭を抱えるだけだった。
「み、水野くん!あ、えっと・・・じゃ、邪魔はしないから、ねっ。
お店で騒いだりしないし、ちゃんと荷物持つからさ・・・!!」
いや、だから。
買い物の邪魔しないのはわかってるんですケド。
1人健気に水野の慰めに回る風祭。
あぁ、なるほど。こいつはそのためだけに巻き込まれたんだな・・。
そんな悲しい事を思いつつ、水野は風祭の慰めの言葉にさえも撃沈を食らう。
あぁ、どうしよう。
もう10時も15分を過ぎた。そろそろ彼女はやってくる。
どうしようどうしようどうしよう。
今彼の頭の中にはこの言葉だけが並んでいるのだけれども。
思っただけでどうにかなるほど、この異色コンビは甘くない。
かくて、運命の10時20分。
電車に乗り遅れた・・・・と申し訳なさそうに走ってやって来たマネージャーに、
笑顔で言われた言葉は、彼の胸に突き刺さった。
「何?皆で行くんだ?」
――――合掌。