::移り、変わり:: かなり前の話ではあるが、冬になって制服が冬服に変わった。 俗に言う衣替え。 学校全体が何となく暗い色に染まり、 暖かな服装とは裏腹に段々と寒くなるこんな時期。 そんな、制服が夏服から冬服へと変わったとき、 彼女は、冬服を纏った水鏡を見て、ぽつりと呟いた。 「やっぱみーちゃんは冬服似合うね」 「そうか?」 「てゆーか、夏服が似合わない!」 「・・・・・・・悪かったな」 至極真面目な顔でそういった彼女に、恐らく悪気は無い。 至極真面目に思ったことを、至極真面目に呟いたのだろう。 そんな彼女のタチの悪さを、本人はともかく水鏡はよく知っている。 「みーちゃんは、半袖より長袖が似合うんだよ。 半袖が似合わないってわけじゃないけどさー・・・・・」 「何を根拠に・・・」 「見た感じ」 「・・・・・・・」 至って真面目な、そして簡潔な彼女の言葉に、 そろそろ諦めてきた水鏡は、何を言うこともやめて無言を決め込む。 そんな水鏡の態度が気に入らないのか、風子はふてくされたような表情を示して、そして言った。 「いちおー誉めてんだし、怒んなくてもいーじゃん」 「おまえの言い方が悪いんだろ」 「はいはい ゴメンナサイ!」 「拗ねるな、風子」 「別に。拗ねてなんかない」 どこがだ・・・・。 言い方にトゲのある風子の様子を見て、水鏡が嘆息する。 はっきり言って水鏡に非はないし、言ってしまえば誰も悪くないのだけれど、風子にこういった態度を取られると、どうしても自分が悪いような気分になる。 仕方無しに、水鏡がどうにか機嫌を直せないものかと頭を捻らせていたとき、ふっと、横を向いていた風子の視線が前を向き、どこか遠くを見るようなものなった。 「・・・・・・みーちゃんは、あと2回衣替えしたら終わりなんだね」 「・・・・・風子?」 「夏が来て、夏服になって。もっかい冬が来て冬服になったらおしまい。 ・・・・・・・・あと1回しか、夏服着てるとこ見れないんだ」 「・・・・・・・」 「・・・・そう思ったら、 夏服着てるみーちゃんも捨てたもんじゃないかなー・・・・」 冬が過ぎて夏が来て、また冬が来たら、おしまい。 『学生』の象徴たる制服を着る機会は、おしまい。 あと1回。 もちろん夏は長く、その間何日も何ヶ月も着るけれど。 時期を1つと数えるなら、たった1度きり。 時が過ぎるのは早いから、それはきっとすぐに過ぎる。 そう考えるのは、辛かった。 「そんな理由で好かれても嬉しくない」 「あとちょっとしか見れないと思ったら、なーんか見たくならない? 希少価値、ってゆーか・・・・・・」 「希少価値・・・・・・おまえは人を何だと思ってるんだ」 「みーちゃんはみーちゃん」 「・・・・そんなことを聞いてるんじゃない」 呆れた風に呟く水鏡に、風子がにこりと笑いかける。 どうやら機嫌は直ったらしい。 有り難いけれど、全く有り難くない。 「・・・・・・・・制服を着る機会はあと少しかも知れないが」 「・・・?」 「似たような服なら、毎年着るだろう」 「・・・・うん?」 「やはりお前は、それを着た僕を見るんだろうな」 「・・・・・・・・・・そっか」 「ああ」 「―――じゃあ、夏服のみーちゃんに希少価値はないね」 「そうだな」 「ってことはやっぱり、冬服の方がいーなー・・・」 「・・・・・・・知るか」 呟くように水鏡が言った。小さく、風子が笑った。 1つ2つ3つ。 あとどれだけ季節を越しても、 やっぱり、君と一緒に季節を移り変わるのでしょう。 FIN. お、終わった・・・・・・・・(力尽き) |