時間を下さい・・
    
すべてを理解し、受け止める事のできるように
 
なにもかも忘れてしまえるような時間を・・・・








 時の流れゆくままに  


 

 

すべてが済んだと思われた夜。
柳を護りきり、見事優勝を果たした夜。
空は冴えわたり雲は欠片も見せない。
星と月のみが見せる空の風景。



    「みんなと騒がないの?」



“お祝いパーティー”
自分には似合わない。
そう割り切って部屋を出た。



    「あいにく・・、騒ぐのは嫌いなんでね。」



口から出るのは相も変わらず毒づいた言葉。
わかってはいるのに他に思いつく言葉はない。



    「私も・・、
     どちらかというと静かなほうが好きね。」



そう言って隣に座る。
少し肌寒い夜の風は、
部屋の熱気で暑くなった体を冷やしてくれた。



    「綺麗ね・・・・・。
     こんなに澄んだ空を見るのは久しぶり。」
  


何かを懐かしむように、ただ空を見上げる。
何も言わない、何も聞こえない。
時だけが過ぎ、横を通る風だけが場所を実感させる。



    「昔・・・・。
     母とよく空を眺めたわ。」



400年という遠い昔。
時に縛られるという地獄。
今だからこそこんな安らぐ顔をできるのだろう。



    「昔は、流れ星もよく見えたのにね。」
             


光る星すら見えにくい現代(いま)。
街の灯りが全てをかき消す現代。
どんな光も、全てが作り物と思える。



    「こんなところで見ようと思うのがまず間違いだ。」



返す言葉に感情はない。
他人を思いやる気持ちも何も・・・。
しかし、その言葉に対する返事は、
静かに呟いた同意の言葉だった。



    「そうね・・・・。
     もう、あの時とは時代が違うもの。」



時が何を変えていったのか。
その流れに流されながら、人はどう変わっていくのか。
生きてきた時間の量で、変わるものはあるのだろうか。



    「でも、空は変わらないわ。
     輝く星も、流れる雲も・・・・。」



時代の流れがなんだというのだ・・。
変わらぬものは数限りなくあるはずだ・・。
そう言う気持ちがひしひしと伝わってくる。



    「随分と前向きなんだな・・。」



自分の意思とは関係無く流れる時。
止めたくてもできない時の流れ。
そのことを誰よりもよく知っているはずなのに・・。
それをきちんと受け止めている。



    「そうでもないわよ。」
 


小さく苦笑い。
自分を理解し、自分と上手く付き合っている証拠。
自分に嘘もつかず、素直に生きている証。



    「今はもう、星に願いを託す気も起こらないわ。
     すべてが・・・、無意味だと悟ってしまったから。」



幼い頃、星の下でかけた願い。
時の流れでその無意味さを悟った悲しみ。
“悟る”悲しみは・・、他人にはわかるはずもない。

 

   「でも、これ以上望むものなんて思いつかないけどね。」



一度は離れることを余儀なくされたあの頃。
守るためと分かっていながら手放した我が子・・。
今は自分の目の届く場所にいる。
それだけで十分なのだ。
   


    「無欲・・・だな。」



自分も人のことは言えない。
ただ、どうしても譲れないものはある。
姉の敵。
しかし、それは“譲れない”だけ。



    「水鏡君にはなにかあるの?」



あるだろうか・・。
自分に何か“望むもの”が。
欲しいと思うものが・・・・・。


   
    「そうだな・・・・。」



沈黙が悩む時間をくれる。
一言呟くだけで少し長くなる。



    「時間・・・・。」



精一杯考えた“望むもの”。
全てを生み出すのが時間なら、
忘却の彼方へ葬り去るのも時間。



    「今までのことを・・・・。
     忘れ去るための時間が欲しい。」



“忘れる”・・・・・。
すなわち、辛い事、哀しい事から逃げるということ。
本来ならば、なにがあろうとそんな事はしたくない。
しかし、苦しんだ時は長く・・、全てに疲れてしまうほど。
   





                                楽になりたい・・・・・・





心の声を否定する気持ちはどこにもない。
ただ苦しみから逃れたくて、
楽になりたくて・・・・・・・。



    「確かに、時の流れは悲しみを和らげてくれる。」



いつもより静かな声は、
自分の経験からくるものだろうか。



    「でも、全てを消し去るわけじゃないわ・・・。」



顔を上げて見つめるその先に、
いったい何を見ているのだ・・・。



    「大切なのは・・・。
     全てを受け止める“心”を作ること!」
                              


その強い瞳に、
いったい何を写してきたのだ。



    「・・・逃げていても、なにも始まらないのよ。」



何もかも投げ出し、全てに背を向け、逃げる術はいくらでもある。
しかし、それは一時のもの。
後に残るものは・・・、何もない。



    「・・私が言える言葉じゃないわね。」



一度は死に行く事で全てを終わらせようとした。
“生きること”に疲れていたから。



    「それでも・・、今は全てを受け止めているだろう?」



死ぬことで運命から逃げようとしてない。


   
    「とりあえず、今はハッピーエンドでいいんじゃないのか?」



得たものも、失ったものも・・・。
それぞれで、なにかを教えている。



    「・・・・・えぇ。」



なら、今は・・。
今だけは、
“幸福な終演”で。
1つの幕を下ろそう。

   










     時間を下さい・・・・

     もう、すべてを投げ出す気にならぬよう

     受け止められるだけの心を作れるよう

     逃げ出さないための強さを得るために

     
     時間を下さい・・・・・・・・・・・・・・・




                               

FIN.

 

私の運命を変えた(笑)、初めてのみーかげ(水鏡×陽炎)小説です。

別に、初めは「みーかげを書こう!」・・・っていう意思を持って、これを書いたわけではなかったんですな。
なんてゆーか・・・・・、「いつの間に!?」・・・・って感じ?(爆死)
その証拠に、原本(?)にはみーふーを仄めかす文があったのです。消しちゃったけどね(笑)
ここが全てのはじまりで。みーふー意外でここまでハマったのは、今まででこれだけです。スゴイね。

ただ、みーかげは『親子』のような関係だと私は思ってます。
陽炎は、水鏡には体験できなかった、『親』という存在を唯一感じられる人であり、
尚且つ精神年齢的に合うってのがまた・・・・(死)
それこそ、ちょっとつっこんだ話の出来る、よき話し相手・・・くらいだと思ってる。
日本茶片手に縁側で談話してくれんかなー・・・と密かに思う私(爆死)

題材が・・・また重いですね。
別に、何を考えて『時』というものにした・・ってワケじゃないんだけど。
ただ、この二人を見て、まず思いついた言葉だったから・・・かな?
どーしても、ダブる。ここらへんが(どこだよ)

そんなわけです。
これ読んで、ちょっとでもみーかげに興味持ってくれたら嬉しいですな。
そして、今回のタイトルは、フィン嬢に頂いたアイディアを元に、stmimiがいじったものです。
毎度迷惑かけてます。ごめんよ、でもありがとう♪

 

モドル