[[[ 林檎の法則 ]]]








目の前にあるのは、いつもいつでも勝手に押しかけた、見覚えの有りすぎる建物。
日曜の朝・・・といってもとうの昔に太陽はかなり高くまで上っていったそんな午前は、
やっぱり人通りも少なくて、彼女は、1人誰にも邪魔されずに、ずっとその建物を見上げていた。






空はどんより曇り空。
雨はまだ降らないけど、きっとそれも時間の問題。
リミットは雨が降り出すまで。
それまでに目的達成は出来るだろうか?


そんな風にふざけたようなことを心の中で唱えて、目標人物の家を見定める。
窓も扉も動く気配は全くなくて、それはまるですでに家の主がいないかのように静まっている。
いっそ押しかければコトは早いけれど、それでは、わざわざここにいた苦労が水の泡。





1度やってみたかった、待ち伏せ。
何にも言わずにおしかけて、驚かすのも楽しかったけど。
それももう、あんまり効かなくなってきた。
だったら今度はもう少し、驚かす手順を変えないと。

そう意気込んで来てはみたものの、目標(ターゲット)はなかなか現れる気配がなくて。




















今日・・・バイトだって聞いてたんだけどな・・・・・・。











そう遠くないバイトの場所から考えて、家を出るのはだいたいこの時間。
だとしたら、もうそろそろ出てきてもおかしくないのに・・・・。

そうこうしているうちに、時計の針はいつのまにか、半周してしまっていた。









驚いて、呆れる表情が見たい。
呆れた後に、ため息をついて、そして少し優しくなるあの表情が見たい。

いつからか、突然の出来事に抵抗の出来てきた彼のそんな表情を拝む回数は少なくなっていて。
だからこそ、今日は意地でも待ち伏せたかった。
久しぶりに、見たくなったから。そんな彼が。




見上げると、空はごうごうと音を立ててとぐろを巻いた雲で蓋われている。
リミットはもう寸前。
このゲーム、今日は私の負けかな・・・・?
そう思った。













ポツッ・・・・・





思った通り、小さな雫が空から舞い落ちて、道路に小さな水玉を作った。
それが引き金であったように、空から落ちる雫は大量なものになった。
まだ小雨ではあったけれど、まだ、冷たい雨ではないけれど。






今日はこれで、ゲームオーバー。



座り込んでいた植え込みの脇から立ちあがって、ぱんぱん、と気休め程度に土をはらう。
最後にもう1度顔を上げて、開いて欲しかった扉を見つめた。










同じような偶然なんて、何度もあるもんじゃないよね。






いつだっただろう。
同じような空の下で、あのときは自分の部屋で。
会いたいと願ったとき。
そのときは、遠くの車のクラクションと、強くふく風の音と共に聞こえた。君の声。




来て欲しかったり。待ち伏せしたかったり。
形は違っても、結局、本当に望んでいたのは同じコトなんだ。


会いたい。って。














「諦め悪いなぁ・・・・私も」




自嘲するように、でも笑ってそう言って、また同じ場所に座り込む。
バイトに出るときに会えなくても、帰りには会えるかもしれない。
それまで待つ根気があるかなんてわからないけど、それでも今は、待ちたい。

ぽつぽつと、肩に当たる雨が服にしみ込んでいくのを感じながら、それでも、風子は上を向いた。













願うだけじゃ叶わない事も、行動に起こせば、きっと叶うんだ。












少しずつ強くなる雨に負けないように、じっと上を向いて、部屋を見つめる。
諦めるまで、ゲームは終わらない。









そう思ったとき。ふと、雨がやんだ。・・・・・ように思った。












肩に感じていた雨の感触が一旦途切れ、変わりに何かにそれが当たるような音が響いた。
こもるようなその音、それは紛れもなく、傘が雨をはじく音。













「・・・・・何してるんだ」




頭上から、怒気をはらんだ呆れ声が聞こえる。
ずっと待ち望んだ声が。




「・・・・・別に?待ち伏せ」



くるりと振り返って、笑顔でそう言う。
振りかえった先には、ずっとずっと見たかった表情・・・いや、水鏡。





「会いたかったから。待ち伏せ」




そう言って、また笑った。
その言葉と、表情に。呆れたように、また照れたように。
少し黙って、水鏡がため息をついた。




「風邪引くぞ」

「大丈夫だって」




立ちあがって、土をはらって、水鏡の持つ傘の中へ入る。
水に濡れた髪が、風に触れて少し冷たかった。
髪に留まる雫を軽くはらって、水鏡を見上げて、微笑む。





願えば、そしてそのために何かを起こせば。

それはきっと叶うのだ。





「いったいどこ行ってたのさ。
バイトするには出かけるにも帰ってくるにも早いよ?」


「・・・・別に」


「別に・・・・・何?」


「おまえと・・・似たようなことをしてただけだ」











いつでも傍にあるように。

君が隣にいるように。

林檎が木から落ちるように。





それはいつのまにか当たり前になったいた。





林檎が木から落ちるように。


君の傍にいる。








FIN.


某フィンさん(おい)が主催の、烈火大感謝祭に送りつけた作品その2.
やっとでみーふーです。難産でした(死)
愛情込めすぎて、空回り。
思いってのは、深すぎるほど形になら無いみたいです(ダメじゃん)

すっごい、バランスの悪い作品で、
しかも何気に『The sound of silence』の続編?っぽいもの。
投稿するには最悪の背景設定です(死)
えーまぁ・・・・。
気に入っていただければ幸いってことで。



モドル