[[[ 月夜 ]]] 夜の帳が下りていた。 「晴れましたね」 雲が過ぎ、月が再び光を放ち始めた空を見上げて陽子が言った。 「帰りますか?」 振り返ってそう尋ねると、机に腰掛けている六太が、 何やら考え込むように腕を組んでいるのが見えた。 「帰らないんですか?」 言葉を変えて、再度尋ねる。 「帰る」 今度は割とあっさりと、六太が答えた。 「でも、あと1回月が雲で隠れたらな」 冗談めかして続けた六太の言葉に、陽子が笑った。 「あの月はもう、3度隠れて顔を出しましたよ」 「そうだっけ?」 小さく笑いながらの陽子の言葉にとぼけるようにそう答えて、六太も笑った。 「すぐそばに大きな雲がありますね」 笑うのを止めた陽子が、空を見上げながら惜しむように言った。 「やっぱり、隠れたあと、もう1回月が顔を出したら帰ることにする」 陽子の言葉を聞いた後、しばらく考えてから六太が言った。 振り返った陽子の顔が、微笑んでいた。 「もう1度、お茶を入れましょうか」 言って、陽子が部屋を出ていった。 見上げた空の月には、ほんの少し雲がかかっていた。 夜が、静かに過ぎていく。 FIN.
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