えい、という掛け声がした後、
ワンテンポ遅れて何かが落ちる音がした。
振り帰ると、地面に座り込むロッテの姿があった。
「・・・・・・・」
「わ、私だって好きでこけたわけじゃないんだから!
そんな顔して見なくてもいいじゃない!」
ルックの表情から彼が何を言わんとしているのかを察したロッテが、ルックが口を開くより前にそう言った。
幸いにも足をくじくなどはしなかったらしい彼女が、服の土を払いながら立ち上がり、また歩き出す。
「何やったら、あんな何もないとこでこけたり出来るんだよ」
「・・・・・・・・・おまじない」
「おまじない?」
躊躇いがちに小さく言ったロッテの言葉を、ルックがバカバカしいと言わんばかりに反復した。
人が何をしようと興味はないし、それをとやかく言う気は毛頭無い。けど、それにしたって。
「何、それ。何でそんなんでこけるわけ?」
「・・・・ちょっと、着地に失敗したの」
「着地ぃ?」
「着地」
きっぱりと言い放って、もうちょっとだったのに、と悔しそうに呟く。
ルックはというと、彼女の『おまじない』がどんなものなのかが予想すら出来なくて、頭を悩ませていた。
「それ、一体どんななんだよ」
「簡単だよ?あそこから、ここまで跳ぶだけ」
「・・・・・・・・・・は?」
あそこ、と言いながらロッテが指差したのは、エレベーターのすぐ前。ここ、と言って指差したのは、地下に続く階段の少し前。
「・・・・・バカバカしい」
「何でそんなこと言うのよー!真剣にやってるのに!」
「尚更だよ」
「ひっどーい!」
「そんなおまじないで、ご利益なんかあるわけないだろ」
「無くてもいいの!」
「は?」
「出来るかどうかっていうのが大事なんだから!」
主張するように、ロッテが強くそう言った。
そこまで跳べたら大丈夫だと、根拠もないのにそう決めた。
ご利益とか、そんなものが欲しいんじゃなくて。
ただ、『こうしたい』『ああしたい』っていうものが成功する、『幸先の良さ』が欲しかった。
「だから、どんな簡単なことでもやり遂げるのが大事なの!」
「で、今日は失敗したんだ」
「・・・・・・・そうなの」
「幸先悪いね」
「・・・・・・誰か怪我したらどうしよう」
「・・・・・・・」
「いつもは、ちゃんと着地だって出来てたのに・・・・」
「・・・・別に、君がそのおまじないとやらを失敗したからって、
誰かが怪我するとは限らないだろ」
「そうだけど」
「仮に誰か怪我したって、そいつの自業自得だよ」
「・・・でも」
「気に入らないなら、やり直せば」
「もしまた失敗したら・・・・・」
「うるさいな。そんなの、やってみないとわかんないだろ」
「・・・・・」
「いいから、さっさとやれば。早くしないと置いてかれるよ」
「え、あ、ちょっと待って!すぐやるから!」
そう言って、慌ててロッテが先程降りたばかりのエレベーターの前に立った。
手に持っていたロッドを置いて、小さく深呼吸。
軽く助走をつけて、強く地面を蹴って、飛び立った。
辿りついた先は、さっき着地に失敗した、
『おまじない』の成功ライン。
「出来た・・・・」
「良かったね」
「うん!」
「じゃあ、さっさと行くよ」
「あ、待ってよルック!」
「遅い」
そう言って階段の先に消えていったルックを追って、
急いでロッテが、階段を駆け下りていった。
FIN.
タイトルに特に意味は無い(死)