いつものように石版の前でぼんやりとしていたら、いつものようにリーダーがやって来た。
すぐに出かけるから、ロッテを連れてビッキーのところに来いを言われた。
面倒だと言ったのに、あっさり無視された。
多少腹は立ったけれど、仕方がないのでロッテを探した。
けれど、彼女はいつもの場所にはいなかった。














:::カエルの子













彼女は、このフロアのどこにも居なかった。
念の為、いろいろ聞いてまわって見たけれど、3階には居ないようであった。

珍しい事も有るものだ。
ルックはそんなことを思いながら、そしてもちろん文句を言いながら、
4階へと続く階段へと歩みを進ませた。


彼女がこの3階にいないのは、せいぜいミナが居なくなったとき。
そんなときは必ず、いろいろな人にミナの消息を尋ねているので、
誰の目にもとまらない、ということはまず有得ないのに。
それでも、今日に限って彼女の姿は誰の目にも止まっていなかったのだ。








4階。
とりあえず、2つずつ部屋をしらみつぶしに当たっていく。
そしてついでに、その部屋の主にも尋ねてまわる。
しかし、返る返事は全て『知らない』の一言。

2階。1階。
同じように探して、それでも見つからない。
万人に共通して返る、聞き飽きた『知らない』の声がいい加減二桁を軽く越えた頃、
彼の心の許容範囲は、とうに越えてしまっていた。





冗談じゃない、何で僕がこんなこと・・・・。

何度も何度も、そんなことを呟く。
呟いて事で彼女が出てくると言う訳でないことは百も承知。
それでも、言わずにはいられなかった。














何で今日に限っていないんだよ。

いつもは3階で暇そうにしてるくせに。

いつもは猫を探してあれだけ目立ってるくせに。



そういえば、今日は朝から1度も見ていない。

顔も見ていない。声も聞いていない。

他の奴らも、同じようなことを言っていた。

「朝からずっと見ていない」って。



まさかとは思うけど、一人でどっか行ったとか?

ミナが居ない。とか言って、一人でカクに行くぐらい、あいつならやりそうだ。















そこまで考えて、ルックははっとした。
姿の見えないロッテに対して腹を立てていたはずなのに、
いつのまにか、心配しているような形になっていたから。

そのことに気がついて、それがどこか悔しくて。
ルックはその意識を振り払うように2,3度軽く頭を振った。



別に心配なんてしてない。
ただ・・・・これだけ探して見つからないことが、気に入らないだけなんだ。

どれだけ探しても、どれだけ尋ねても。
返る答えは全て『知らない』の、途方も無い堂々巡りが。



















そういえば、あいつはいつもこんなことをしてるんだ。
ふと、そんな風に思った。



姿が見えないのも、気がつけばどこかに行ってしまっているのも。
もうすでに日常茶飯事なのに、彼女はいつでも探している。
本拠地を走り回って、必死になって、本気で心配して。
姿が見えないというだけで、すごく不安がって・・・・・・・・・・。





案外、あの猫が放浪好きなのは、飼い主に似たのかもしれない。
今のこの状況を思って、そんなことを思いつく。
それでなければ、飼い主があの猫に似たんだ。

おかしな話だが、ヘンに確信が持てた。



















地下。
外へと続く出口をくぐると、憎いくらいの青空だった。
そこにいた案内役に尋ねて、それでもまた『知らない』と返される。
この分だと、猟師組に聞いても無駄のような気がする。

またも無駄足となったことに、はあ、とため息をついて、ルックがくるりと踵を返す。
仕方がないから、ネルに言ってロッテを諦めてもらおう。そんなことを思いながら。




2歩3歩。
もう入り口をくぐろうかと言うとき、あ。と呟くクロンの声が聞こえた。
何事だと思って振りかえると、頭上から聞きなれたあの声が響いた。









「ルック!!やあっと見つけた!!」

「ロッテ・・・・・・・・“見つけた”・・・・・・・・・・・・?」

「そこに居て!動かないでよ!!」




2階の窓から顔を覗かせていたロッテは、そう言い放つと顔を引っ込め、
そしてその後、遠くに走る音が響いた。
恐らく彼女はここへ来ようとしているのだろう。

それはともかくとして、今の彼女の発言は・・・・・?




「もー、探したんだからね!」




エレベーターも使わずに、階段を駆け下りてきた彼女は、
ルックに怒り気味にそう言って、乱れた息を整えていた。




「探した・・・・・・って、どういうこと」

「ネルに、出かけるからルック呼んできて欲しい言われて、ずーっと探してたの!」

「・・・・・ちなみに、今までどこに居たの」

「へ? ビッキーのとこ」

「・・・・・・・なるほど」




つまり、姿の見えないロッテの捜索をルックに頼んだものの、
いざビッキーのところに行けば彼女はしっかりそこにいて。
仕方がないのでロッテを探しているであろうルックの捜索を、またロッテに頼んだ。
・・・つまりはそういうことなのだろう。


今までの努力が全て無駄なものだったと知って脱力して。
それでいて、ずっと姿の見えなかった目標物が、何事もなく無事で居た事で嫌に安心した。
この本拠地の中に居て、そうそう危ない事が起こるはずはないと、わかっているはずなのに。

これでは、猫探しに翻弄するロッテをバカには出来ない。
不本意ではあるけれど、否定は出来ないその言葉を飲み込んで、ルックは無言で歩き出した。
その後ろを、ロッテが慌てるように追いかける。




「あんなとこで何やってたの?珍しいよね、ルックが外出るなんて」

「別に」

「クロンと何かしゃべってたみたいだし。もしかしてルックも何か探し物?」

「さあね」

「今からは無理だけど、帰ってきたら私も手伝おっか?」

「・・・・・・いらない」




せっかくの親切に断りを入れたルックの態度に、不満そうにロッテがふてくされる。
この様子だと、ルックの探していたものが自分だということは、どうやら知らされていないらしい。
あいつもなかなか食えない奴だ。今更ながらにそう思った。

しばらく放っておけば、諦めてその場所に来るであろうことくらい、簡単に予想出来たろうに。
ロッテに探しに行かせる方が、ややこしいことになるくらいわかっていただろうに。
ここまでくると、あいつはロッテがビッキーのところに居た事を知っていたんじゃないか、
とまで考えてしまう。
何の為に、とまでは言わないけれど。


・・・敢えて言うなら、いつでも猫を探してるロッテの気持ちを分からせる為・・・・か?



ネルが本当にそんな事を考えているのかなど、ルックにはわからない。
それでも、ネルがそんなことまで考えていなかったとしても。
ルックにはわかってしまった。
姿の見えないことへの不安。当ても無く探し回ることの心細さが。





















「早く行こう。ネル達が待ってるよ」

「・・・・・・・・・・今度」

「え?」




ネル達がいるであろう、地下2階へと続く階段の手前。
ロッテが小走りをしようとしかけたとき。
ぼそりと呟いたルックの言葉が聞こえ難かったのか、ロッテがくるりと振りかえる。
ルックはというと、ロッテの方はちらりとも見ずに、それどころか立ち止まったロッテを追い越して、
そして追越際にまた、ぼそりと続きを呟いた。






「今度・・・・ミナが居なくなったら、一緒に探してやってもいいけど」





そう言って、階段をたんたんと駆け下りた。
後ろから、驚いたように声を上げたロッテの声が聞こえた。


























姿が見えずに不安なときは、一人よりも二人で探そう。


寂しい思いをしないように。






FIN.

段々書きやすくなってきました、ルクロテv(←嬉しいらしい)
相変わらずロッテはマイキャラと化してますが(ダメじゃん)

この作品は、とても私の理想が盛り沢山です(謎)
ロッテとビッキーは仲良しっぽいし(遊びに行ってる辺り)
坊は黒っぽいし(さり気なくルックの言葉を無視してる辺り)
ルク→ロテっぽいし!(そうか?)(痛)
ああ、Tでもビッキー連れて歩けたら良かったのにな・・・。
坊とルックとロッテとビッキーとビクトールとフリックが一緒のパーティー。
あー、理想なのになー・・・・(帰って来い)

タイトルの由来は、『カエルの子はカエル』って言葉より。
レックナート様の子はルックだし、ロッテの猫はミナ。
やっぱ飼い主に似るんだって、絶対(前者は飼い主じゃないと思うに一票(謎)

モドル