[ ブラインドデート ]




7月7日。世間一般七夕。
短冊に願いを書き連ね、笹に吊るすと叶えてもらえる日。
実に気前のいいカミサマもいたものだ。
皮肉交じりに思ってしまうのは、錬金術師の性質ゆえだろうか。
しとしとと降る雨をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えていた。



「晴れそうにないわね」


手にしていた2つのカップのうちの1つをエドワードが肘をつくテーブルの傍らにおいて、ホークアイは彼が腰掛けているのとは逆向かいの椅子に腰掛けた。

しとしとと雨が落ちる窓辺に飾られた、小さな笹。
実に子供染みた風習だと見た瞬間思ったけれど、
こういう風習を重んじるのはさほど悪いことではない。
比較的小振りな笹の枝。
色とりどりの笹飾り。
願い事が書き連ねられた短冊。
そもそも、タナバタと言うのはどんな日だっただろうか。


「この分じゃ見れないでしょうね、天の川」

「ついでに織姫と彦星もね」

「ふふ・・・『ついで』?」

「人の睦言にはさほど興味がないもんでね」



睦言。と、少しからかうような口調で繰り返し呟いて、ホークアイがカップを口に運んだ。
少し可笑しな言い回しだっただろうかと口にした後に後悔して、照れ隠しにエドワードもカップに口をつける。
まだ湯気を立てるコーヒーは、心地よい香りを漂わせていた。



「この時期はいつも、雨か曇りだったような気がするわ。
最後に晴天で七夕を迎えたのは、いつだったかしら」

「俺は覚えてないね。気にした事も無いし」

「夜空を見るのは嫌い?」

「首、痛いし」

「仰向けになって見ればいいわ」

「ホークアイ中尉もそんなことするんだ」

「時々ね」



そう言って、ホークアイが控え目に笑んだ。
その表情があまりに綺麗で――直視出来なくて。
そっと視線を逸らしながら、誤魔化すようにぐいっと残りのコーヒーを飲み干した。



「雨が降ると天の川が増水して、2人は会えなくなるというけど。
本当かしら」

「隣町は晴れてるって」

「じゃあ、隣町の彦星達はちゃんと会えたわね」

「街ごとにいんの?彦星とか織姫って」



冗談めかしたホークアイの言葉に答えるように、エドワードがおどけて言う。
しばし、小さな笑い声が部屋に響いた。



「この時期はまだ梅雨が明けきらないから。
天候がすぐれないのも無理無いわね」

「・・・・・もしかしたら、それだけじゃないかもよ」

「どういうこと?」



窓の外の降りしきる雨を眺めながら言ったエドワードの言葉をの意味を掴みかねるように、ホークアイが尋ねる。
その言葉に、やはり窓の外を眺めながら、若干視線を下げて、エドワードが言った。



「もしかしたら、彦星が自主的に曇らせてんのかもってこと」

「彦星が・・・?」

「そ」

「なんでそんな・・・・」

「見せたくないから」

「睦言、を?」



そう言って、ホークアイが笑う。
それを聞かぬフリをして、エドワードが続ける。



「織姫を」

「織姫・・・?」

「正確に言えば、織姫の笑顔とか、そんなん」

「なんでまた・・・」

「もったいないから」



きっぱりと言いきって、窓の外に向けていた視線をやっと、ホークアイに向けた。



「どうせだったら、織姫の笑顔を一人占めしたい、とか。
そんな魂胆なんじゃないの」

「欲張りな彦星ね」

「そりゃ、天帝のお叱り受けて引き離されるくらいだから」

「なるほど」

「別に誰も覗きゃしないっつーのに」

「心配性なんでしょう」

「・・・・ま、気持ちはわからんでもないけど」

「そう?」

「まあね」



そう言って、もう1度カップを持ち上げた。
持ち上げてから空になっていたことを思い出して、また下げる。
なんとなく手持ち無沙汰な感じがして、頬杖をついて、また外を見た。
つられるように、ホークアイもしとしとと降る雨に目を向けた。
そんな彼女を、横目で盗み見た。

いつもとは違う穏やかな表情。
時折浮かぶ笑顔。紡がれる冗談めいた言葉。

1つ、1つ。
全て普段では見られない、もの。


一人占め、したいと思う。
愛したものの一挙一動、全て一人占めするために天候をも操る、
彦星とまではいかないけれど。



「あー・・・・中尉、ってさ」

「何?」

「今みたいな話、他にも誰かとしたり、する?」

「今みたいな、って。織姫とか、彦星とか?」

「そう、それ」

「・・・・しないわね。普段は、仕事の話ばかりよ」

「・・・・・・・そっか」



仕事、はあくまで仕事。
笑顔で語られる仕事は、そう多くないはず。
となれば。



「・・・・・・一人占め、かな。いちお」



ぽつりと呟いた言葉は、
小さな雨音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。







笑顔、言葉、1つ、1つ。
自分だけのものであればいいと思う。




FIN.

―・―・―・―・―

今日が実は7月8日で、1日遅れだということは気にしてはいけません。
鋼の世界観の中に、七夕はないだろう、とツッコむのも禁止。厳重注意!(何で)

エド→アイ風味。
これです、これが好きなんです、私(笑)
あからさまに口調が変だったりしても気にしない(気にしろ)

ここ最近、七夕に笹飾りをしなくなって寂しいstmimi。
短冊に願い事、書きたかったな・・・・。