―――っくしゅんっ





漂う沈黙の中に響いた、寒そうな小さいくしゃみ。





―――っくしゅんっくしゅんっっ






2度続けて鳴り響くこれに、部屋はまた一瞬、静かになった。








[[[
暖房 ]]]









「あ・・・はは。な・・んか、寒い・・ね。」



照れを隠すように、途切れ途切れに風子が言葉を紡ぐ。



例年より、冷え込む今日。
外では強い風が吹いている。


つい先日まで、暖かい太陽の光りが暑く感じられたのに、
その光さえ、今は届いても暖かいとは思えない。
秋を通り越し、一気に冬にでもなったのではないかと錯覚するほど、外は寒い。
部屋から眺める風景も、突然冬の情景になったような気がする。

外もそうだが、部屋の中も寒かった。
風が吹かぬ分、外よりは暖かいかも知れないが、
やはりお世辞でも、暖かいとは言えない。


外が暗いわけではないので、電気もつけない部屋の中。
電灯からの熱もないので、部屋はさらに冷たさを帯びていた。

部屋の隅に位置する両人。
広いとも言えぬ部屋だが、端々にいれば、人の温かみすら伝わらない。



結果。
この部屋は寒かったのだ。





「寒い・・か?」


そう寒いとも感じないのか、
水鏡が読んでいた本から、不思議そうに顔を上げる。


「・・・寒くないの?」


そして風子が、逆に問い返す。

窓際に位置している風子が、寒いと感じるのも無理の無い事。
しかし、だからと言って、壁際にいる水鏡が寒くないはずがない。




みーちゃん、寒いのに強いほうなのかなあ・・・・。



辿り着いた結論は、説得力にいまいち欠けたものだったが、
とりあえず、その場はそれで納得することにした。




「そういえば、小金井が今度どっか行こうって言ってたよ。」


寒さを紛らすために、とりあえず沈黙だけは避けようと、
風子が必至に話を振る。


「唐突だな・・・。行きたい場所とか、考えてるんだろうな。」


何の脈絡も無しに思いつかれる小金井の要求に、
毎度付き合わされているためか、心なしか面倒そうに言い返す。


「うん、なんか学校で行ったトコがすごくよか・・・・っ、くしゅんっっ。」






再び、身体が正直に寒いと叫ぶ。


微かに聞こえる風の音が、一層強まったように思えた。
窓から見える木々が、激しく揺れる。

風の音と共に、一層寒くなったような気がした。




「あ・・・なん・・か、本当に寒・・・・っくしゅんっっ。」


耐えきれない寒さに、自分の腕を強く抱く。
少しでも暖かくなるように、身体を小さく縮める。



「・・もーやだ。」


止まらないそれにうんざりするように、小さく呟く。


寒そうに身体を震わす風子を見かね、水鏡が静かに立ちあがる。
音もなく、ゆっくりと歩いて、風子の後ろに座りこむ。


「・・・どーかしたの?」



意味のわからない、水鏡の行動を不思議に思い、風子が後ろを振り返る。


「前、向いてろ。」

「?」



相変わらずわけがわからず、疑問符を浮かべながらも言われた通り前を向く。
ひたすらに何も無い壁を眺め、
何をするのか、考え得るだけのことを思い浮かべる。

それでも、やはりわからなかった。


「ちょっとみーちゃん。いったい何や・・って。」




全て言い終わらぬうちに、風子の言葉は一瞬止まる。
そして、動きも止まる。

動かない。いや、動けないのだ。



「あ、あの・・・。みー・・ちゃん?」

「寒いんだろう?」



うろたえる風子を気にもせず、水鏡が不敵にそう呟く。
直接は見ることが出来なくても、嫌味に笑う姿が目に浮かぶようだった。

そう、今風子に水鏡の顔は見えていない。
見えないのだ。



何をしているのか。そう問い終わる前に、言葉は止められた。

原因は、突然伸びた腕。
頭の横を、かすらない程度に近く、ゆっくりと滑らす。
その動きを乱すことなく、肩を両腕でしっかりと抱く。


言葉は止まる。
動きも止まる。
もちろん、思考さえも止まった。



そして、動けない今に至る。
落ち着かない鼓動も、身近に感じる吐息を意識する度に早まっていった。


ええい、静まれ心臓っっ



呪文のように繰り返しながら、小さく深呼吸を繰り返す。
まとまりきらない色々な考えの中、何故か振り解こうとはしなかった。



「・・・・ねえ、みーちゃん。」


何かを伝えようと、後ろを振り向こうとする。


「前向いてろ。」


また同じセリフで、振り向く事を止められる。
前を向きなおし、そして小さく笑う。


「みーちゃん暖かいね。だから寒くなかったんだ。」



外は寒い。
部屋も寒い。


でも、ここは寒くない。暖かい。





無理に解こうとはしない。
だから当分はこのままで。
暖かい。だから安らぐ、安心する。
だからずっとこのままで。


せめて、眠りに落ちるまで・・・。




FIN.


なんだかとっても、現実逃避がしたくなってます(死)

この小説は、みずき嬢にリクされて書いたモノでございます。
リク内容 『狼なみーちゃん』 (泣)
そもそも、このリクを受ける事になった過程は、
彼女のイラストを貰い、なんだか貰いっぱなしは悪いような気がして、お礼の意を込めてリク権を進呈したのです。
つーわけで、キャンセルなどできるはずもなく・・・・(泣)
難しいには難しかった。けど、書きあがるのは早かったね(自分なりに)

だいたい、お礼だと言うのにこんなものをもらってしまった彼女に同情すべきですな。
リク内容に背きまくっちゃってまあ・・・(死)
どこが狼なのだろう・・・・・(それ言っちゃお終い)
みずき曰く、「しっぽと耳がはえて、パタパタしてるくらい」・・・だそうな(笑)
締めとか、特にわけわからんわ・・・・。

とりあえず、みずきからのリク小説でした。次回までには精進します・・・・(あるのか?)



モドル