サクラチル
季節の変わり目に吹く強い風に乗って、
花びらは地面一面に桜の絨毯を作り、散っていった。
「あっけないもんね」
もうすっかり花の散った、枝ばかりの桜の木を見上げて、
ぽつりと有希が呟いた。
「ここ数日、風が強かったからな」
「そうね。桜吹雪、綺麗だった」
「あのペースで散り続ければ、こうなるのも当然だ」
有希の隣に並ぶようにして歩いていた不破が、
彼女の言葉に木を振り返りながらそう言った。
「まだ春は始まったばっかりなのに」
「仕方あるまい。桜とはそういうものだ」
「そうじゃなくて」
「?」
「まだ春は始まったばっかりなのに、もう花が散って・・・。
終わるのが早過ぎるなって、思ったのよ」
「・・・・・・・?」
「あー・・・・・だから!」
いまいちわかっていなさそうな不破の表情に、
有希が困ったように眉をひそめて、説明を始める。
「春って言うと、一年の始まりって感じするでしょ?」
「そうだな」
「で、桜はその春に花が終わっちゃうでしょ?」
「そういうものだからな」
「それが、何か寂しいなと思ったのよ」
「?」
「まだ始まったばっかりなのに」
言いながら、少し細めの幹に手を当てて、隙間から青い空の覗く枝を見上げた。
「もう終わりだなんて、寂しいじゃない」
そう言って、幹に体を預けて、下を向いた。
「・・・・・・確かに、桜の花は散ったが」
「・・・・うん?」
「桜は、花が散った後に葉が出る」
「・・・・・・」
「それは、生きている証拠ではないのか」
「・・・・・・あ」
「まだ、終わったわけではないだろう」
花が一番綺麗な時期が過ぎたとしても。
一番華やかな季節が過ぎたとしても。
青々とした緑を背負う木はまた、来年も花をつける。
「来年もまた、花は咲くのだろうな」
「生きてるものね、ずっと」
「そうだな」
花が落ちても、たくましく生きる木は、常に美しい。
FIN?教室から見える桜の木が、葉桜になって寂しい記念(記念なんか)
葉桜の何が嫌かって、虫がたくさんつくところ。恐怖。