プラスチックガール
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司令部に忘れ物をしたまでは良かった――んだと思う。
すぐに気付いて戻ったのも、良かったはずだ。
難を上げて言うなら、忘れた物とそれを見つけた人間と・・。




「エドワード君」



アルフォンスには先に行かせて、司令部へ急いでいたエドワードに、聞きなれた声が降り注いだ。下を向いて全力で走っていた足を止めて、顔を上げて確認する。廊下の少し向こうにいたのは、思ったとおりのホークアイ中尉。



「良かった。今追いかけようとしていたところなのよ」



そう言って1歩2歩と近付いてくるホークアイ中尉を目の前に、エドワードの脳裏に、嫌な予感が過った。
ある種の、確信めいた嫌な予感。

2歩3歩。
迫り来る嫌な予感に動かない(動けない)エドワードにさらに近付いて、目の前まで来たホークアイが、手を出してと小さく告げる。言われるままに両手を前に出したエドワードの手のひらに小さな音を立てて置かれたのは、灰色をした小さ目の袋。

予感的中。
嬉しくないそのことに、エドワードががっくりと頭を垂れた。



「デスクの上に置いてあるのを大佐が見つけてね。
良かったわ、思い出して取りに戻ってくれて」

「・・・・・・ホークアイ中尉・・・・・・・」



項垂れたまま、目線だけ上げてホークアイを見るようにしてエドワードが彼女の名を呼ぶ。そして消え入るような小さい声で続けて言った。



「もしかして中身・・・・見た・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・私は見てないけど・・・・・・」

「“けど”!?」

「大佐が面白がって話してるのは聞いたわね・・・・・」



躊躇いがちに言ったホークアイの言葉をとどめに、エドワードはついにその場に座り込んだ。悲しみの声・・・というかむしろ、怒りの雄叫び上げながら。

エドワードの忘れ物。
それは、小腹が空いたとき用の、菓子袋だった。



「あんのクソ大佐〜〜〜〜〜〜っっ!!」



屈み込んで、手のひらの袋を握り締めて悔しさに打ち震える。

あの大佐のことだから、それはもう楽しそうに好き勝手なことを抜かしたに違いない。やれ子供だのやれ幼いなどと。
それはあくまで予想にしか過ぎなかったけれど、事実そうなったであろうという絶対的な自信はある。だから余計悔しくて、それでいて情けなくて、文句を言いに行く事も出来ない。

溜まりに溜まった不満と怒りを振り払うように、大きく息を吸って、大げさなため息をついた。



「・・・・・悪いね、ホークアイ中尉。
こんなもんのためにわざわざ足運ばせてさ」

「私も用事のついでに来ただけだから、気にする事ないわ」

「それでも手間かけさせたのは事実だし・・・・」



言いながら、手のひらで潰されていた袋を開けて、中身を探る。
思いきり握りつぶしたせいで中身は見事なまでにボロボロになっていたらしく、無残な元菓子をかきわけてエドワードが取り出したもの。それは、何とか原型を留めている一口サイズのチョコレート。



「こんなんで悪いけど、お礼ってことで」



そう言って、ずいとホークアイに差し出した。



「そんなことしなくてもいいのに」

「良かないね。
ホークアイ中尉こそ、これくらい素直に受け取ればいいだろ」



ホークアイの言い分をさらりと跳ね除けて、断固とした態度でエドワードは鋼の右腕を差し出し続ける。やがて、この状態の不毛さに白旗を上げたホークアイが、ついと差し出された礼のブツを受けとって、そっと軍服の胸ポケットに仕舞い込む。
そんな、根負けしたホークアイの様子を見て、勝者エドワードは嬉しそうに笑って言った。



「これで貸し借り無しね」



言いながら彼の浮かべた笑顔は、『にこり』というより、『にやり』の方が正しかったかもしれない。



「・・・・そうね」



一杯食わされたような、そうでないような。
そんな気になったホークアイは、そのことを悔しがるというよりむしろ楽しんで、滅多に浮かべない綺麗な笑顔でそう言った。



「じゃ ま、オレ行くわ。ありがとホークアイ中尉」

「ああ、気をつけて」



くるりと踵を返したエドワードに敬礼しながらそう言って、その背を見送る。小走りに駅へ向かっている辺り、電車の時間が近いのかもしれない。そんなことを考えて、自分も用事の真っ最中だった事を思い出して、ホークアイも留めていた足を踏み出した。
――とそのとき、前を走っていたエドワードが振りかえり、声を張り上げて言った。



「大佐に、『覚えとけよ』って伝えといて!」



言い終えて笑顔で敬礼して、また彼は走り去っていった。

どんなときでもこういうことは忘れない。
そういう、すぐに意地を張ったりムキになるところが、持ち物より子供っぽさを強調しているのだろうと思ったけれど、下手に口をすると怒られそうなのでその言葉は封印することにした。
彼のそういうところは、短所であり長所。
子供扱いされることを嫌う彼にとっては皮肉極まりないが、その子供っぽさ故にすっかり毒気を抜かれたホークアイは、いつものポーカーフェイスもどこへやら、エドワードの消えた方を向いて優しく微笑んでいた。



菓子と一緒に貰ったのは、気持ちまで和らぐような時間と笑顔。


与えられた仕事に向かう前に、
彼女は胸のポケットに仕舞ったばかりのチョコレートを取り出して、口の中に放り込んだ。甘かった。




FIN.
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誰だおまえら(待て)
やっぱり書きなれてない人達の小説は難しいですな。
しかも、毎度の事のようにカップリングじゃねえよこれ(ダメじゃん)
登場人物が二人しかいないだけじゃん。あー、ダメだなあ;

同じ『プラスチックガール』を題材にしたというのに、
笛の「チョコレイトテイスト」とはえらい違いだ。
しかもこっちはタイトルまで拝借しているというのにまるでイメージ違ってきてるし(ダメダメ)
でも、ホークアイ中尉は「プラスチックガール」と呼ぶのが何かしっくりくる感じがする。私の気のせいだろうか。だったらヤだな(謎)

このカップリの基本形態はまだ掴みきれておりません。
どうなるのかわからない、未発達カップリング。
どうよ、口コミで広げてみる気になったかい?(逝け)

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モドル