チョコレイトテイスト
*************************************************
闇の降りる部室。
(もちろん電気はついてるから明るいけど)
そこには、引き止められた人間と、引きとめた人間の姿が二つ。
「さ、召し上がれ」
ずらりと並ぶ菓子の山を目の前にして、有希は上機嫌でそう言った。机の上に所狭しと並べられたものたちは、どれもこれもどこかが失敗しているように見えて、それらがまだ試作品であることを言外に物語っている。
「・・・・・確かに俺は味見役を引き受けた」
「そうね」
「しかし、この量とは聞いていない」
「当たり前よ。言ってないもの」
さらりと言ってのけた有希に、言われた人間―不破は一瞬言葉に詰まって(呆れて、ともいう)机の上の菓子達に目をやった。
ケーキ。マドレーヌ。クッキー。パイ。
各種取り揃えた、と言っても過言ではないその種類の豊富さに、軽い眩暈を起こしそうになる。
引き受けた以上今更断ることは不可能だし、もちろん彼女はこれら全てを食べさせるつもりだろう。もちろん、一口二口で許してはくれるだろうけれど。
「これほどの量があるなら、何故他にも味見役を頼まん」
「あんまり呼びすぎると、逆に足りなくなるじゃない」
「そもそも、何故俺なのだ」
「・・・・美味しい、不味いの判断だけじゃなくて、どこが悪いとかいうのを細かく教えてくれそうだったから」
「そうか」
「そーよ」
言い捨てて、慌てるように有希が机の上の菓子の1つを不破の前に差し出す。言葉では何も言わないけれど、視線の意味する言葉は『早く食べろ』の一言。
「この量を学校まで運ぶのは大変だっただろう。
何故家で母親や兄に頼まなかったのだ」
「何でお兄ちゃんにあげるためのお菓子の試作品を、お兄ちゃんにあげなきゃいけないのよ」
「・・・・・・なるほど」
「それに、お母さんにこれだけ食べられるわけないもの」
「小島の母親だけではなく、一般人には無理だと思うが・・・」
「いーからさっさと食べる!残したら承知しないから」
「・・・・努力しよう」
そう言って、目の前に差し出された更を手に取る。
まずはクッキー。次はカップケーキ。そしてマドレーヌ。
並べて見るとものすごい眺めだが、実際一つ一つ食べてみると対した量ではなかったらしい。
どれもこれも、種類はあれどそれぞれ1つずつしかないのだし。
クッキー。カップケーキ。マドレーヌ。
そのへんまでは、味見役は楽勝だった。
しかし、段々と大きくなる対象物。
マドレーヌの次はパイ。そしてその次のケーキ。
そこまで来たところで、彼の胃袋はかなりやられていた。
それでも何とかパイまでを完食し、残すはケーキのみ。
これで最後と呟いた有希に差し出されたケーキは、誰の目から見てもわかる、チョコレートケーキ。
「実はこれが一番不安なのよね。
良いアドバイス期待してるわよ、不破」
「・・・・・・」
もはや返事をする余裕もない不破は、無言でそのケーキと対面し・・そして一口頬張った。自信がないと言う割には、焼け具合も味もなかなかのしあがりのそのケーキを(苦しいながらも)存分に味わって、ごくんと飲み込む。そして、期待に満ちた視線を送ってくる有希を見て――言った。
「味は悪くない。焼け具合も調度良い。・・・が、少し甘すぎるな」
「・・・・・それは不破の好み云々じゃなくて?」
「それもあるだろうが、それを差し引いても少し甘すぎるだろう」
「そっか・・・・・・・やっぱり入れすぎたみたいねチョコ。
ちゃんと本の通りの分量で入れたと思ったんだけど・・・・・」
「別に分量に問題はないだろう」
「・・・・じゃあ、何だって言うのよ」
本のせいではなく作った人間が悪い、ともとれる不破の言葉に怒りを覚えたように、有希が少し怒りを灯した視線で不破を睨みながらそう問う。その問い、不破は少し考えるようにどこかを向いて―――そして、答えを見つけたような表情をしてから、行きついた答えに自分自身納得しているように頷きながら、言った。
「小島が作ったからだろう」
「――悪かったわね」
「悪い意味ではない。小島が作ったものだったからこそ、本来の味よりも甘いよう感じられたといっているだけだ」
「・・・・・・なーによ、それ」
「言葉の通りだ」
「わかんないわよ、それじゃ」
「とにかく。これから何か作るのであれば、その点も考慮するべきだな」
「本に書かれてあるのより、チョコの分量減らせってこと?」
「そうだ。しかし、贈る相手によっては分量を減らす必要はないだろう」
「・・・・・・・・・・・本当に何なの、その言い分」
「・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず美味かった。
これといって改良する点はないだろう」
あ、逃げた。
突然話題を変えた不破の言動に、不可解な謎を残された有希が悔しそうな顔をした。でも、ここまで付き合ってくれたのだからということで、それ以上追求するのはやめておいた。やっぱり、言葉の真意は掴めなかったけれど。
「ま、いいわ。今日はありがとう、付き合ってくれて。
お礼代わりに、あんたにもクリスマス、何か贈るわ」
「そうか」
「多分さっきのケーキになると思うんだけど、
不破に贈るケーキはチョコの分量減らした方がいいのね?」
「・・・・・・・・そうだな」
「・・・・ふーん・・・・・・・」
やはりそのことが腑に落ちなくて、有希が納得しながらも首を傾げた。天井からの灯りで、俯いて影になっていた不破の表情が、照れていた――ように見えた。
ただでさえ甘いチョコレイト。
それを作ったのは君なら、それはもっと甘くなる。
だって、チョコレイトとハッピーは、甘いものでしょう?
FIN.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『実は強がってる でもでもね
チョコレイトとハッピーは 甘いものでしょ』
capsuleの歌います「プラスチックガール」より引用。
てゆーか元ネタ。
なかなか面白い歌で、結構好き。ラジオで聞いて一目ボレしたのさ。
アルバムも出ているらしいので買いたいのですが、近くのCDショップにゃ置いておりませんでした。・・・・どこにあるねん!(マジで)
『チョコレイトとハッピーは甘いものでしょ』の言葉にいたく納得。
だってほら、ファンには嬉しいCP小説って、甘いじゃん?(謎)
*************************************************
|