まっすぐ。
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「ホークアイ中尉!」
後ろから聞こえた声に振り向いた。
廊下のずっと向こうから、走ってくる見慣れた顔を見つけた。
「エドワード君」
廊下のずっと向こう、つまりは5、60m近くはあろうかという廊下を全速力で走り、自分の目の前に来るなり肩で息をしながらしゃがみこんだエドワードを、ホークアイが見下ろしながら名を呼ぶ。と同時に、いつも一緒のはずのアルフォンスの姿を探したけれど、どこにも見当たらなかった。
「エドワード君。アルフォンス君は・・・・・」
「ホークアイ中尉!大佐どこ行った!?」
見当たらないエルリック弟の所在を尋ねようとしたホークアイの言葉をさえぎるようにして、呼吸の整ったエドワードががばっと顔を上げながら叫ぶ。被ったセリフに、一瞬場に妙な沈黙が流れたけれど、それを気にする事無くエドワードが立ち上がり、苛立ちも含んだ視線でホークアイを見上げた。
「どこにも居ないからアルと手分けして探してんだけどさ、
ホークアイ中尉は大佐がどこにいるか知らない?」
「・・・・ここに来るまでに、見かけなかったの?」
「見なかったから聞いてるんだよ!」
「大佐なら、ついさっきあの角を曲がったと思うけど」
言いながら、あっち、と指されたホークアイの指の先を追うと、
そこにあるのはつい先ほどエドワードが通りすぎたばかりの曲がり角。
「見事に通りすぎたわね」
「〜〜あのボケ大佐ーーっ!いつも通り司令部でふんぞり返ってろよ!」
「本人も多分そうしたかっただろうけど、今から外せない会議なのよ。
今から2,3時間はかかるわ」
「2,3時間・・・・・・・」
思わぬ足止めを食らうことになってしまったエドワードが、ふらりと眩暈を起こしたように体を揺らす。さすがに倒れ込みはしなかったけれど、悔しそうに脱力して、重いため息をついた。
「・・・こんなことなら、全力疾走なんかしないで全部の廊下、ちゃんと見て歩けば良かったな」
「確かに、あの早さで走ってたら周りなんか見えなかったでしょうね・・・」
「こっちも必死だったからね」
「頼んで、会議を中断してもらいましょうか?」
「・・・・・・・・・・・・いいよもう。3時間待つ」
「そう?」
「司令部行って、不味い茶で旅の思い出話でもしてるよ」
言いながら、悔しそうな面持ちで歩き出したエドワードに続くようにホークアイも足を踏み出し、二人は並んで司令部に向かう。その道中も、時折思い出したように悔しそうな声を上げるエドワードに、彼のあきらめの悪さが筋金入りなのを確認する。
そういえば・・・・。
ふと思い立って、ホークアイがエドワードに声をかけた。
「エドワード君。視力は?」
「は?
・・・・悪かないけど、それが?」
「さっき、あの距離で私だとわかったでしょう。よほど視力が良いんだろうと思って」
「あー、あれか・・・・。別に視力どうこうじゃないよ。
見覚えある髪型だったから試しに呼んでみたらビンゴだっただけだし」
「そう、私はこの髪型だけで認識されてるのね」
「え゛っ。いや、別にそんなわけじゃ・・・・・」
少し嫌味を帯びたホークアイの言葉に見事なまでに焦るエドワードを少し笑って、ホークアイが小さく「冗談よ」と付け足す。しかしエドワードは、失礼と言えば失礼だった自分の言葉を深く反省して、他の理由を捜して頭を捻らせて――そして思いついたらしい言葉を、苦し紛れに呟いた。
「・・・・・姿勢。ホークアイ中尉、こう・・ぴしーっ!と立つだろ。
あの姿勢意外と目立つし。あとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・オーラ、とか」
「オーラ?」
「ホークアイ中尉!って感じのオーラ」
「オーラねぇ・・・・・」
「だからオレ、髪型変えたホークアイ中尉を人ごみの中から探し出す自信あるよ」
「それなら、私もエドワード君を探し出す自信はあるわね」
「何で?」
「いつでもアルフォンス君が一緒にいるでしょう?」
「オレはアルのおまけかっ!!」
素晴らしく的確に入れたツッコミの後、ふてくされるようにそっぽを向いたエドワードを見て、少しからかい過ぎたかと思ったホークアイが、前を向きながら静かに呟いた。
「さっきはあんなこと言ったけど。私もやっぱり、髪型で確認するわね」
「・・・・・・髪、もし下ろしてたら?」
「歩き方」
「?」
「歩き方でわかるわ」
「・・・・・歩き方あ?」
怪訝な声を上げたエドワードに、頷きながらホークアイがもう1度同じ言葉を呟く。
そう、歩き方。そう言って、また続ける。
「まっすぐ前を向いて歩いてるような、そんな堂々とした歩き方」
「堂々、ねえ・・・・・・」
「自分ではわからないでしょうけどね」
「まっすぐ前を向いて・・・か。
別にオレは、振りかえる過去が辛すぎて前ばっか見てるだけだよ」
そう言って苦笑したエドワードに何と声をかけるべきかが瞬時には判断できず、ホークアイがぐっと言葉を詰める。自然とそこで会話が止まって、二人は無言で廊下を歩いた。足音が大きく響いていた。
不用意なことを言ってしまった。悪いことをした。と、ホークアイが自分を責める。
誉めるつもりで傷つけていたなんて、笑い種にもなりはしない。
いつもの鋭い表情に更に拍車をかけて、彼女は持っていた資料をきゅっと握った。
そんな彼女の様子を見て、エドワードが大げさにため息をついた。
「自分がどんな歩き方してんのかなんか興味無いけど。
後姿見ただけで自分だってわかってくれるような人がいるってのは、良いことなんじゃないの」
「エドワード君・・・」
「だからしばらくは、また前ばっか向いてるよ。
前向いて歩いてたら、ホークアイ中尉が人込みから見つけてくれるらしいしね」
「・・・・前を向いて歩くのはいいけど。ちゃんと足元も見て、躓かないようにね」
「大丈夫だよっ!」
ムキになって答えるエドワードの子供らしさの残る対応に救われて、沈黙の降りたその場にまた賑やかさが戻った。司令部まで、あと少し。
fin?
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ところでアルはどこ行った?(爆)
『目の前に続く道を 僕らしく歩いていく うしろから君が見たときに 僕の背中だとわかるように』
槇原敬之で「Turtle Walk」より元ネタ頂きました。
やっぱりこの人の歌詞はいいなあ。大好きだ、マジで。
後姿見ただけで誰だか分かってもらえるのって、やっぱ嬉しいことだと思うんだよね。
私なんかがよく友人に、『歩き方が独特ですぐわかる』と言われます。
嬉しいんだけど、その『独特な歩き方』が気になって仕方ありません(笑)
さて、エドアイ2作目の小説となりますが・・・・・・わかりました、基本形態(もうかい)
この二人、多分姉弟っぽいのがいいんだ、私。もしくはエド→アイ。むしろ両方(笑)
本編2巻の中頃で、エドと中尉が話してるシーンがあるのですが。
そのときのエドの幼い話し方がすっげえツボったのですよ(そして何度も読み返している)
エドが、大佐や少佐やアルに対するものと違った対応の仕方で中尉と話してたのがかなりツボ。
(あの状況下から見て、ショックが大きすぎて口調変わった・・・っつーのも考えられますが)
彼女の前では、エドがまるっきり『子供』って感じがして可愛いし。
仲の良い姉弟。うん、これでいこう(自己完結)
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