A.S.A.P.
届かない。
こんな時程、この身長と目標物を届かない位置まで上げた人間を恨むことは無い。
普段なら高いところの物を取るときなどはアルフォンスに頼むなり何なりしていたけれど、
あいにくこの場には彼一人しかいない。
仕方なしに、ずりずりと近くにある椅子を運び、ちょうど真下の位置に持ってくる。
こんなものを使わなければ、上にある物を取る事もできないのかと、
悲しむなり、空しくもなることもしばしば。
しかしそんなことを言っていても始まらないということで、
調度良い位置に置いた椅子に手をかけ、その椅子に足をかけ、上る。
と。そのとき。
がちゃりという音と共に扉が開き、廊下から見知った顔が3つ部屋へ姿を見せる。
そして、その中でもいち早く彼の存在に気付いて視線を合わせた人間は、一言。
「・・・・・・・いつも見下ろしている人間と目線が合うと言うのは、おかしな気分だな」
「ちっさい言うなっ!!」
こうして、怒りにかられた彼の手にあった目標物は、
見事ロイを避けて壁へと激突を果たした。
「身長のことでバカにされるのはそう少なくないだろうに。
いい加減慣れたらどうだね、鋼の」
「慣れるか!!!」
未だ怒りの晴れぬエドワードが、ロイの言葉にいちいち反応して、応戦する。
それを横からアルフォンスが宥めてはいるものの、どうやら聞いてはいなさそうだった。
しきりにぶつぶつ呟いては、気にいらなそうな顔をしている。
「別に好きでこんな身長やってるわけじゃない」と。
「そう拗ねなくとも、あの椅子に乗っただけで私と目線があったということは、
あの椅子の高さだけ背を伸ばせば私と並ぶということだ。
君くらいの年齢なら、まだ成長が止まったと言う事はあるまい。
この程度なら、心配せずともすぐに伸びだろう」
いつになく思いやりのあるロイの言葉に、少し機嫌がよくなり――そうになった、が。
やはりというか何というか、傷を抉る言葉はしっかり残されていた。
「その身長が、遺伝のせいでもない限りはな」
「遺伝・・・・・・・・・」
「ああ、遺伝だったら絶望的ですね」
「・・・・・遺伝・・・・・・・・・!」
傷を抉るような言葉に青ざめたエドワードに、さらにホークアイの冷静な言葉が突き刺さる。
椅子に座りながらも、もはやどこか違う世界へ逝ってしまっているエドワードを見て、
ロイは意地悪気に笑って、また付け足した。
「冗談はともかく、君はまだ成長期だろう。
これから伸びる可能性は多分にあるのだから、
いちいち身長に関する言葉に反応して、勝手に怒るのはいい加減止めたまえ」
「うるさいよ」
「別にそう差があるわけでもあるまいに。
せいぜい3、40・・・・・」
「それ以上言うな!!」
ムキになって制止をかけるエドワードに、ロイが小さく肩をすくめる。
彼はこういう点において全く成長しない。
「私とまでは行かなくとも、彼女くらいの身長なら、すぐに追い越せるだろう」
「そうですね。あの椅子に乗って大佐と目線が合うのなら、
私との身長差はその半分くらいですから」
「・・・・・・・半分」
「あと数年のすれば、君も彼女を見下ろすくらいまでは伸びるはずだ」
「見下ろす・・・・・」
「大佐くらい身長が伸びたとしても、僕より大きくなることは多分ないでしょうけど」
「―――それはそうだ」
冗談めいて言ったアルフォンスの言葉に、ロイとホークアイが小さく笑う。
しかしそんなアルフォンスの言葉は届いていないのか、エドワードは真剣な顔でロイを見、
そして次にホークアイを見て、先程まで自分が乗っていた椅子を見て、
最後にまた、ホークアイに目をやった。
椅子半分で追いつける。
椅子1つ分で追い抜ける。
・・・・・・出来るだけ早く、身長伸ばそう。
心の中で、決意表明。
FIN.
A..S.A..P. = as soon as possible。つまり『出来るだけ早く』ってこと。
英語の辞書引いてると、偶然こういうネタになる言葉が見つかるから好きです(笑)
この身長差語らずしてエドアイは語れない・・・とまではいかないでしょうが(いかんのか)
かなりイジリ易くて楽しいですね、やっぱり(笑)
ただでさえ身長が低いの気にしてるエドですし。
まだ成長期なんだし、まだまだ伸びるとは思うけどね。
でも、先の話じゃなくて、今が問題なんだよな、こういうのって。
というわけで、エドアイ第3段でした。
微妙にこのページの最後にカウンタが張りつけられてるのは、
本当にこのカップリの小説読んでくれてる人がいるのかの調査のためです(爆)
適当に気にせずブラウザバックするなりしてお帰り下さいマセ。でわ。