::: 外出願望









それは某天魁星の部屋。
日が傾いた夜風の冷たい日の事。








「ネル・・・・・」



珍しく彼の部屋を訪ねたロッテが、躊躇いがちに彼の名を呼んだ。



「何かな?」



呼ばれた方のネルが、にこやかに返事を返す。
はい、と出した茶の湯気が、ふわり浮かんで、風に吹かれて消えた。

言葉が詰まるロッテが、とりあえずカップを手に取り口に運ぶ。
茶を楽しんでいる間も、どう切り出そうか悩んでいるらしい、難しい表情。
恐らく、茶の味など微塵も感じていないだろう。
何を言おうとしているのか、訪ねて言うほどに大事な事なのか。
全くもって見当のつかないネルは、ロッテの言葉を急かす事も無く、
傍らで静かにロッテを見守っていた。

しばらくして、ようやく言葉がまとまったらしいロッテが、ネルに向きなおし、
意を決したように、口を開いた。




「2,3日はここで休養するんだよね?
でも、私あんまり疲れてないし、それとちょっとやりたいことがあるの。
だから明日一人で本拠地から出て・・・・」


「ダメ。」




ロッテの考えに考え込んだ言葉は、
最後まで言い終わらぬうちに、ネルの言葉によって一蹴された。




「・・・・・そこを何とか・・・・・・・・!」

「ダメだよ、ロッテ。君が危険なんだ。もし何かあったら・・・」

「じゃあビッキーと行く。何かあってもテレポートで帰れるよ?」

「ダメ」

「じゃあ、瞬きの手鏡貸して」

「もっとダメ」

「ネルー・・・・・・」




取りつく島も無いネルの淡々とした返答に、ロッテが力無く項垂れる。


飽きた。
飽きたのだ、正直言って。

毎日見合わせる同じ顔。同じ風景。同じ部屋。
大した変化があるわけでなし、娯楽があるわけでなし。
やる事が見つからない日など、1日ぼーっとして過ごすしかない。
戦争目的の本拠地に娯楽を求めること自体間違っているのかもしれないが、
極度の退屈は、結構深刻な問題である。

たまには外に出たい。自由に歩き回りたい。
パーティーとして歩き回る事はしばしばあるが、自由行動などないに等しい。


だからたまには・・・・と切り出してはみたものの、結果はこの通り。
そう簡単には許されないとはわかっていたものの、
ここまでくると悔しさを通り越して哀しくなってくる。




「私一人でも大丈夫だよ?」

「ダメ」

「・・・・メグか誰かに頼んで一緒に・・・・・」

「ダメ」

「ちょっとカクの町に行って帰るだけでもダメなの?」

「ダメ」

「・・・・・船でここの周り一周は・・・・・・?」

「そんなことして楽しいかい?」

「・・・・楽しくない」




折れる気配のないネル。
どれだけ妥協しても、許可の下りる見込みは、無い。
自分のことを思って心配してくれているのがわかるから、
文句を言う気はさらさらないが・・・・。やっぱり、悔しい。

下手に外出して、怪我でもしたら大変だから。
一人で出かけて、道にでも守ったら大変だから。
多分、心配する要素はこれくらいなのだろう。
でも、怪我しても回復が出来るような人間がいたら問題ない。
地図くらい頭にしっかり入ってそうな人間なんて、いくらでもいる。
もし万が一戦闘になっても、実力のある人間が一緒なら・・・・・・。


そこまで悩んで、気付いた。
ああそうか。いるじゃない、条件ぴったりの人間。








「ルック!!」

「え?」



突然叫んだロッテに、ネルが戸惑いながら後ろを振り向いた。
どうやら、ルックが部屋を訪れたのかと思ったらしい。
それが間違いである事を伝えて、その上で、ロッテは言った。



「じゃあ、ルックと一緒に行く!」

「ルック?」

「そう!ルックなら魔力が強いから戦闘でも頼りになるし、
道とか全部覚えてそうだし、回復も出来るから安心でしょ?」

「それは・・・・・そうだけど・・・・・・・・」

「絶対大丈夫!ちゃんと帰ってくる!だから・・・・・・お願い!!」



最後の頼みと言わんばかりに手を合わせて、ネルに拝み込む。
正面で、ネルがため息をつく声が聞こえた。



「――――わかったよ、ロッテ。僕の負けだ。
ただし、長くても3日以内に絶対戻ってくる事。もちろん無事に戻る事。
帰ってきたら僕に知らせる事。どれだけ疲れてても、戦闘には連れていく。
・・・・それでいいね?」

「うん!ありがとう、ネル!!」




出された厳しい条件に文句を言うこともなく、
嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、ロッテは部屋を出て行った。
この分だと、明日の朝には彼女の姿が見られないだろう。そう思った。






日の傾いた夜風の冷たい日の事。
こうして、どこかの天間星は、自分の知らぬ間に交渉材料に使われたのだった。








FIN.


坊とロッテしか出てこない。けどルクロテ?(何故疑問形)

どうして私がルクロテ2人きりの小説を書くとあんな暗くなるのかと考えたところ、
場所が常に本拠地だからだという答えに辿りつきました。
何故本拠地以外の場所でのネタが思いつかないのだろうと考えて、
おいそれと外出させてもらえてなさそうだからだと結論付けました。
しかしその結論や答えはとても都合が悪いので、都合いいように設定でっち上げv(死)
これで今後、彼等がどこで何してようと問題なし☆(そうか?)

しかし1つ問題が。
3日以内に本拠地に戻れる範囲というのは、どこからどこまでなんだろう・・・?

 

モドル