:::知らない 時折、どうしようもなく物悲しくなるときがある。 それは何の変哲の無いいつもと同じ、しかし雨の降っているときや曇りの日に多かった。 外から光の入らない薄暗い部屋に、二人で居るとき。 雨の日は、いつにも増して口数は少なかった。 君はとても他人の気持ちに敏感で、いつもと違う雰囲気を、いとも簡単に感知する。 知らないフリを出来るほど、器用でも無神経でもない君は、 いつでも僕と同じ気持ちを背負って、同じように悲しんだ。 何に対して悲しんでいるのかも知らないのに、僕が辛い思いをしている事を悲しんだ。 そんな君はきっと、そのことで僕がどれだけ救われているかも知らないだろう。 素直に泣けない僕の弱さを知っているから、ここで泣けと彼女は言わない。 その代わり、泣きたいときは泣けばいい、と言った。 その言葉だけで大分救われたということも、きっと彼女は知らない。 彼女は何も知らないくせに、いろんなものを残していく。 そしてその分、いろんなものを取り除いていく。 それは後悔であったり、辛い思い出であったり。 たくさん、たくさん救われた。 でも、それでもまだ救われきれていないことを、彼女は知らない。 空は、今にも泣き出しそうな厚い雲で覆われていた。 降り出す前に帰ると言った君を下の玄関まで送った。 また明日と言って走り去った君は、1度も振りかえらなかった。 もし、その遠ざかる背中を見ることが辛いといったら、君はどんな顔をするだろう。 そんな自分への問いかけの答えを、僕は知らない。 ついに雨は降り出した。君の背中も見えなくなった。 地面に出来た水の跡も、頬を伝った水の雫も、全部雨の所為にした。 そのことも君は知らない。もちろん僕も教えない。 他人の気持ちに敏感な君に気づかせる事無く泣く方法を、一人に慣れた僕は知っている。 君は何も知らなくていい、ただ笑顔でいればいい。 FIN? どっちかってーとゴミ箱行きっぽい代物なんですが、最近烈火の更新少なかったんで表に(ずるいな) |