約束 




決して広くはない一室に、2つの影。
一人は机に向かい、一人は呆然と外を眺めていた。
机に向かう彼は、広げられた問題集にしきりにペンを走らせ、
窓際の彼女は、やはり呆然としていたのだった。


窓際に掛けられた風鈴が、時折風に吹かれて音を為した。
それは、彼女の幼い頃に作ったシロモノらしく、お世辞にも美麗とは言えないけれど、
ちゃんと音は鳴っている辺り、役目はきっちり果たしているといえる。
それなりに涼しげな雰囲気を漂わせるのだから、風鈴としては合格点だろう。


開け放たれた窓から風が部屋に入ると、
風鈴と共に、窓が揺れ、カーテンが靡き、壁にかかったカレンダーが揺れた。
カレンダーは、最近新しいページをめくられ、そしてその2日目のところには、赤いペンで無造作に丸印。
その横に、ちょこっと書かれた『BIRTHDAY』の文字。

それは実は、今日だったりもするわけで。








「ヒ・マ」





本日の主役。風子は、暇を持て余していたのだった。





「・・・初めに言ったはずだぞ。家に来ても、何もしてやれない、と」




メガネはしたままで、ふと顔を上げ、水鏡がそう言う。
それに、憮然として風子が、わかってるけど。と答える。



確かに、相手をしてもらえるなんて思ってなかった。期待はあったけれど。
暇を持て余すのは目に見えていたのだから、昼間は烈火達のところに押しかけて、
夕方ここに寄る事だって考えた。

でも。

やっぱり、来たいのはココで。居たいのもココで。
結局、夕方に烈火達のところに行って、祝わせることにしたのだ。




こんな誕生日を迎えるのは、もうすでに2回目。
それでも、去年はもうちょっとかまってくれたような気がする。

まあ、それは無理もないことなのだけれど。




出会って初めて迎えたバースデーは、風子が高校1年生。水鏡が高校2年生。
それなら、2度目のバースデーはどうなるのだろう?
もちろん、一つずつ学年が繰り上がるのだから。

片方は、仮にもジュケンセイしてたりしていた。





「いーじゃない、今日くらい。勉強サボったって」


「そのセリフを聞くのは何度目だと思う?
押しかけるたびに同じことを言っていると、わかっているのか?」


「・・・そーだっけ?」



まったく記憶にない。といった感じに、風子が言うのに、
また1つ、水鏡はため息をついて、思考をペンに戻していった。


訪れる回数は、昨年に比べれば、かなり減っていた。
それも、迷惑はかけたくないという一心。
下手に邪魔をして、留年なんてしてほしくもないから。

・・まぁ、そんな心配は、本当は微塵もなかったけれど。




「ヒマ。」

「・・・だから」


「ヒマなの。ヒ・マ!!」



口をついて出てくる「ヒマ」の二文字。
連呼して、ずずいと歩みよって。




「ヒマ!!」



また、念を押す。


その様子に、またため息をついて、
水鏡が、かけていためがねを静かにはずし、机に置く。

そのしぐさが、諦め、そして観念。
最後に、相手してやる。と言っていることは、もうずっと前から知っている。

だから、その水鏡を様子を見て、風子が、にこりと笑った。




「ねぇ、外行こうよ。外」

「・・・暑いぞ」

「ここもじゃん」


そんなやり取りに、少し笑って、相手にも促すように、風子が立ちあがる。



「行こう。どこでもいいの」

「どうせなら、もう行ったらどうだ。烈火の・・」

「それは夕方行くの」


水鏡が立ちあがったのを確かめて、ゆっくりと玄関に向かう。
扉を開けて、真っ青な空に、眩しそうに目を細めて。
まだくつを履く水鏡を振りかえる。言う。








「なんにもいらないからさ」








モノなんて、いつ壊れるかわからないものは。
欲しくないから。






「来年もね、同じトコ行こう」





簡単な約束しよう。
来年も、一緒に、同じ場所に行こう。







「・・・そんなことでいいのか」

「うん、いいの」




扉を閉めて、小さな音を立てて、鍵が閉まる。



「で、来年は。『また来年も』って言うの」

「・・・終わらないだろうが」

「それでいいの」







同じ約束しよう。

この先ずっと約束しよう。

いつまで経っても終わらない、そんな約束してよう。







「・・・というわけで、まず場所探し」

「――・・・勝手に探せ」

「はいはーい。んじゃ、迷子にならないでついてきてねー、みーちゃん

「・・・おい」




一歩踏み出して、走り出す。
1年に1度だけ訪れる場所を探して。
1年に1度だけ2人で行く場所を探して。





終わらない約束しよう。
終われない約束しよう。
終わらせない約束しよう。

来年も、また。一緒に行こう。



FIN.


ついに・・・3度目?(爆死)
3度目の、風子のバースデー。おめでとう。
そんでもって、stmimiの信念である『モノ以外のプレゼント』復活です(笑)
ついでに言うなら、いつになく暗いバースディ(爆死)

みーさん(誰や)ジュケンセイってことで、「卒業後」を心配する風子。
だから、「ずっと一緒」にいることを、約束させる・・と。
風子らしくないかなぁ・・・なんて思ってみたり(ならやめぃ)




ばっく