■ 共同体 ■






麗らかな陽の差すテラス。
向かい合って座る見目麗しい彼等は、
端から見ればカップル以外の何物でもない・・・と思われているだろう、と思う。
別に自惚れているわけではないけれど、実際勘違いされることだってしばしば。
そのことを自覚しているからこそ、『あいつ』が少し気の毒になる。
目の前の少女が、そのことを自覚していないからこそ、余計に。



「有希」

「何?何か見たい映画でも見つかった?」

「そうじゃなくて」

「違うの?あんまりのんびりしてると、私勝手に決めちゃうわよ」

「・・・・・・有希」



机の上に広げられた、現在上映中の映画の一覧表から目を離さず言った有希の態度に、郭は重いため息をついた。

天気良好。気温も適当。まさに外出日和のこんな休日。
こんな日に、彼女はどうしてこんなところでこんなことをしているのだろう。
自分の彼氏もほったらかしにして。



「有希。普通、映画は彼氏と行くもんだと思うけど」

「友達と行ったって、観るものは同じよ」

「あのね・・・・・」

「・・・・・・・・・しょうがないじゃない。予定があるって言うんだから」

「それにしたって、もう少し気使ってやりなよ」

「いいじゃないのよ、別に!
ここまで来といて、今更ぐちぐち言うの止めてくれる!?」

「無理矢理連れ出したくせに、よく言うね」

「同じことよ」



きっぱりと言い放って、有希が少し笑った。
そのさっぱりとした笑顔には、罪悪感とか悪意とかいう類が、全く見えない。
彼氏をほっぽって他の男と遊びに行く・・・などと言うと、まるで悪女のようだ。
そんなバカバカしい考えが頭を過って、自分の思考回路に苦笑した。
そんなこと、有り得ないと知っているから。

男とか女とか。そんなものを超越した存在。
多分、彼女の『友達』の自分は、そんな人間だから。


それにしたって。



「毎度毎度、浮気だ何だって噂に振りまわされるのは、さすがに気の毒だけどね」

「噂は噂でしょ?私、あんなもの欠片も信用してないもの」

「有希はいいとしても、あいつだってそうだとは限らないでしょ」

「いーのよ別に。私のことほったらかしてる分、存分に慌てて貰うんだから」

「・・・・・確信犯」

「褒め言葉だわ」



そう言ってまた有希が笑って、
机の上に開かれていた雑誌を閉じて、立ち上がった。
どうやら、観たい映画が決まったらしい。郭も続けて立ち上がる。



「・・・・・確かに、ちょっとは困らせてやりたい気持ちもあるんだけど」



店から出て、躊躇いがちに有希が言った。
歯切れ悪く途切れたセリフに、郭が不思議そうな顔をする。
有希がまた、続ける。



「私がヒマで、あんたもヒマだった。
・・・・・・それだって、ちゃんとした理由でしょ?」

「――― まあね」

「だったら、それでいいじゃない」



そう言って、有希が笑って、映画館の方向を向いて歩き出した。
有希の単純な言葉に呆気に取られながら、郭も続いて歩き出す。
恋愛映画じゃ無いように、と。心のどこかで祈りながら。








男とか女とか、超越したような。
時折、ダシに使われたりとか。
ヒマだからの一言で、どこかに出かけられる。


そんな関係も、いいかと思う。





FIN.
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郭有希。
『他の人の付き合ってるけど仲良さげな感じ』とのリクでした。どうもありがとう!
ちなみに『あいつ』については限定してません。
お好きな人間、当てはめたって下さいv

・・・・つーか。私結構郭有希好きだわ(唐突)
全然ネタ考えてなかったくせに、書き出したらぱかぱか終わった。
郭の口調がニセモノっぽいのは置いといて(置くなよ)、この話の雰囲気は結構好きだわ。
こんな感じで、記念モノ以外でも簡単に書けるようになりたいな・・・・!(無理っぽい)

 

モドル