久しぶりに見た仲間の顔は、驚き及び戸惑い。
そのうちの1人、やや困惑。

覚悟の上で出てきたのに、何故か一瞬、怖くなった。













[[ 
ここ、そこ ]]














その日1日の練習終了後、チームメイトの問いかけを軽くかわしてやって来た、公衆電話。

あたりを見渡せば、運がいいのか悪いのか人っ子一人としていやしない。
会話を聞かれる心配がないことに重点を置けばいいのかもしれないが、
そのせいで、相手によけいな弱みまで見せてしまいそうな点を考えれば状況は悪い。
どちらにしても、相手に下手な強がりが通用しないのならば、人がいないことは喜ばしい事なのだろうが。





悔しさというバネに、背中を押されてやってきた。
かつての仲間を敵に回し、今自分は、のしあがろうとしている。

全ては覚悟の上。
驚かれる事も、相手が戸惑うことも、全ては承知の上。
もちろん、敵と見なされ、かつてのように接してもらえない事すら、全て。


それほどの覚悟で。
自分のために、自分のやりたいことのために、ここまで来たのに。








いざ目の前にして、一瞬心が揺らいだのは、気のせいだろうか。

















「なっさけなぁ・・・。なんやホームシックみたいやん」





自由を求めて故郷を飛び出してから手に入れた、第2の故郷。
そこで出会った仲間や、思い出を今更懐かしむなんて。







残り少ないテレホンカードを挿入部に差し込んで、暗記済みの番号を軽やかに押していく。
たかが10度残ったカードが、この長距離に何分持ってくれるのだろう、と
鳴り続ける呼び出し音をバックに考える。
こんなことなら、誰かに小銭の数枚借りてくればよかったと思っても、後の祭。


数回目の呼び出し音が途中で切れて、受話器から響く、懐かしい声。












『はい、小島ですけど』







両親が出る場合を考えていた割に、最初に受話器を取ったのは、しっかり目的の人物。
あまりにあっさりしすぎていて、それ以上に、つい最近まで聞いていたはずの声が余りに懐かしすぎて、
返す言葉が浮かんでこなかった。







『・・・・・・もしもし?誰?』





いつまで経っても返って来ない返事に、受話器の向こうの有希が、
多少怒りを含んで、不機嫌にそう言う。
このままでは切られかねない、と焦るものの、中々言葉が浮かばない。
とりあえず、名前・・・・・だろうか。言うべきは。









「あー・・・・・・・小島ちゃん?やでな。俺や、俺」



『――――私の知り合いに、「俺」なんて名前の人、いないけど?』








やろな。と内心ツッコミながら、シゲの顔が綻ぶ。
見えるはずも無いのに、何故か受話器の向こうの彼女がからかうように笑っている様が見えたようで。
まるで変わらぬその態度に、必要以上に、救われたような気がした。






「なんやねんな、わかっとるくせに。素直になるのは大切やでー、小島ちゃん」


『大きなお世話よ。だいたいお母さんとか出たらどうするつもりだったのよ。
それこそ、さっきみたいなのじゃ「不信電話が来たー」とか言って切られてたわよ』


「そうなったら、小島ちゃんが出るまでかければよかったんや」


『あんた以外からの電話、妨害するつもり?』


「イエイエ、ソンナ滅相モナイ」


『・・・・いまいち信用できないんだけど』


「あ、ひど。誠意込めて言うたのに」


『日頃の行いが悪いからじゃないの?』


「何言うてんねん。最近晴れが多いんは、俺の善行のタマモノやで」


『何よそれ』







受話器の向こうで、彼女が笑う。
それに少しずつ救われるように、シゲの言葉もテンポよく紡がれる。
何てことない会話、聞きなれた声、笑い声。
全てが嫌に懐かしく思えて心地よくて、しばらくの間意味の無い会話を繰り広げていた。

本来言いたかった事すら、今はどうでもよく思えて、
もう本当に残り少なくなっている度数を見ながら、切り出す事を諦めた瞬間。
小さく息をついて、先ほどまでの笑いを帯びた声のトーンを少し落として、有希が切り出した。














『――――で、何があったの?』

















「・・・・何って何や?」


『とぼけてもダメ。何かなきゃ、あんたが電話なんてしてくるはずないもの』







脈絡なく切り出されたその言葉に、どうにかはぐらかして見ようとするものの、彼女には全く通じない。
こういうときの勘が嫌に良いのは、称賛すべきなのだろうか。
どうにも逃がしてくれそうにない強い口調に、深く息をついて、観念したように、シゲが口を開いた。







「―――――えぇ読みしてるでな、ホンマ。感心するわ」


『それはどうも。で?』


「別に何でもあらへん。ポチ達に会うたんや」


『それで?』


「それだけや」


『――――びっくりしてたんじゃない?』


「・・・そうやろな」


『前に比べて努力家になってるシゲに』


「って、そこかい!」






一言、からかうように言った有希の言葉に、
性と言うかなんというか、即座にツッコミを返すと、彼女が笑った。
シゲの方はというと、シリアスな場面でいきなりボケた有希の行動の意図が読めず、
表には出さずに、少しふてくされる。

少しだけ有希が笑って。笑い声が止んだ後。
また声を落として、言った。



















『あんたは、やりたいこと見つけたんでしょ』










そのために動き出した貴方を、誰も責められない。









『だからあんたは、その目標のために頑張ってればいいのよ』










例え進む道が違っても、辿り着く場所は、同じなのだから。





















「・・・せやな」







望んでいた言葉が全て、受話器から聞こえてくる。
単純過ぎて、自分でも理解しきれていたはずなのに、
いざ人に、言葉にして、口に出されると、必要以上に心が軽くなる。






「・・・おおきに」





擦れた声でそう言って、少ないカードの残数を見る。








「・・・切るわ。もうないねん、カード」




『そう。それじゃ、おやすみ』




「・・・ほなな」











受話器を耳から離して、切ろうとした瞬間。
あ。と一言呟いたらしい有希の声に、もう1度、受話器を当てる。









『あのさ。シゲ。わかってると思うんだけど』


「なんや?」


『何があっても絶対に、こっちに帰ってくるんじゃないわよ』


「・・・・」


『少なくとも、そっちでやれることを全部やり尽くすまで』


「・・・わかってるて」


『で、帰ってこなくていいから』



















時々、遊びには来なさいよ



























例え遠く離れていても、君の居場所は、ここにも、ある。






FIN.


1周年ありがとう記念シゲ有希SS.
いろんな所がおかしいんですが、まず何よりおかしいのは。
数ある(あるのか)メインを差し置いて一番最初に書きあがった。ってことでしょうか(爆死)

よくは知らんのですが、選抜のメンバーで合宿あったんだよね?
んで、そのとき、大阪選抜の藤村サンが、東京選抜の面々に会った日の夜。の話(分かりにくい)
シゲが桜上水を離れる。っつーネタは、ゴミ箱にも1個あるんだけど。中身は全然違うね。
だって、有希嬢の言ってることが、まるで逆(笑)
でもまぁ、どっちとも本心だとは思うのですよ。人間って複雑だから。

つーわけで。シゲ有希でした。
どーでもいいけど、万踏越んときも、一番最初に書きあがったの、確かシゲ有希だったんだけど?(爆)
もしかせんでも、書きやすさナンバーワンですか?(笑)
そして、いっつもシゲが弱くなるのよね。なんでやねん(笑)
いや、ギャグんときは最強なんだけど(笑)

そして、このSSで一番のポイントは『公衆電話』だと思われます(しかも緑の(笑))
携帯じゃ、何か嫌なのよ(妙なこだわり)



モドル