例えば私が機械だったなら、どれだけ楽だったことだろう。
「聞いたわよ、不破」
部活開始直前の部室。
道具の運び出しを手伝ってくれていた不破に、有希がからかうような言い方で声をかけた。
必死に、わざと楽しそうに装っているような、そんな声。
「呼び出されて、告白されたんですってね」
「・・・・小島に言った覚えはないが」
「シゲが嬉々として言いふらしてたわよ。さすがに相手の名前は伏せてたけど」
あんたも隅におけないわね。おちゃらけてそう続けた。
それに対し不破は、困っているのか何なのかわからない表情を浮かべて黙り込む。
そのほとんど変化しない表情の意味を読み取るのはとても難しい。
少し潜めた眉には、どんな意味があるのだろう。
「シゲも、どっからそんな情報仕入れてくんのかしらね」
「人の口に戸は立てられぬというからな。誰かが噂でもしていたのだろう」
「あんた・・・・自分のことなのにやけに冷静ね」
「思ったことを口にしただけだが」
「はいはい。あんたはそういうやつよね」
ひらひらと手を泳がせて、軽くあしらうようにそう言った。
むっとしたのか、さらに眉間のしわを強めた不破を見て笑った。
自分でもわかるくらい不自然な笑顔に、不破が気づかなければいいと思った。
「やっぱり、告白されると嬉しいものなの?」
あんたでも、と、嫌味のように付け加えた。
面と向かって言う勇気が出なかったから、ボールを数えるフリをしながら。
「よくわからん」
「・・・・何それ。自分のことでしょ?」
「嬉しくないわけではないが、別段嬉しいというわけでもないな」
「矛盾してるわよ、それ」
そう言って笑った。
笑ったけれど、その気持ちはわかるような気もした。
たとえ好きだと言われたとしても、はいそうですかで全て終わってしまうのだ。
嬉しくないわけじゃない。でも、嬉しいわけでもない。
あなたは好きでも、私はそうじゃないの。それでおしまい。
たぶん、不破もそうなのだろう。
でもそれは、なんて。寂しい。
「どちらにせよ、今はサッカー以外のことに目を向けるつもりはない」
「・・・・いつのまにかサッカー大好き人間になっちゃって」
「考察のためだ」
「はいはい、そういうことにしときましょう」
また、茶化すようにそう言って、数を数え終えたボールを運んでくれと頼んだ。
わかった、と一言返して、ボールを抱えて不破がグラウンドへと歩いていく。
その後姿を見ながら、泣き笑いみたいな表情を浮かべているのが、自分でもわかった。
あなたが好きです。はい、そうですか。
例えば相手が私でも、そんな風に返すだろうか。
返すの、だろう。
例えば私が機械なら
こんな感情を抱え込むこともなかったのに。
例えば私が機械なら
こんな感情で思い悩むこともなかったのに。
例えば私が機械なら
こんな感情に、気づくことすらなかったのに。
私のことを見てくれない、そんな姿を知ることもなかっただろうに。
機械になれない私は、気づき思い悩み抱え込んでしまった。きっともう戻れない。
その背中をぽんと叩いたら、君は私に気づいてくれるのだろうか。
後姿に向かって腕を構える。
ロケットパンチは届かない。
FIN.
―――――――――
有→不。
有希の切ない片思い。ありえないとか言わないで。
有希の片思いは、絶対叶わないような気がする。この場合。
不破は「好きだ」といわれても、「はいそうですか」で終わってしまうような印象があります。
冷酷なんじゃないんですよ。ある種の冷静なのです。うん。
(2004.04.03)
ぶらうざばっく