こん。と小さい音がした。

ざわついたところでなら、きっと他の雑音に掻き消されていたであろうそんな小さい音も、
静まり返った夜の静かな部屋の中では、必要以上に大きく響いて。
窓辺にたって、月明かりの浮かぶトラン湖を見下ろしていた彼の耳に、当然の如く届いた。









「・・・・・・・・・珍しい」


「それは人の顔見て最初に言う言葉じゃないだろ」




音のした方向――部屋の入り口の方に、その音に反応して振り向くと、
その場所にいたのは、ソラが思わず無意識にそう呟いてしまうそうな人物。
正直な気持ちを口にしたその言葉に、相変わらずの毒舌を吐いて、彼はずかずかと部屋に入り込んだ。




「ああ、悪い。あんまり意外だったからつい・・・・」


「・・・・・・・」


「で。何か用か、ルック」




用もなく来るなんてことをするような奴じゃないだろ、君は。
付け足すようにそう言って薄く笑って、ソラが窓から離れて、すぐそばにあったベッドに腰掛けた。

それに対してルックはというと、ずかずか言いたい放題のソラの態度が非常に不満らしく、
月明かりで見て取れるほどに表情は不機嫌だったけれど、
いつもなら繰り出す毒舌攻撃もほどほどに――というか無しに、
ただ黙って、手にしていたそれを、ベッド脇のテーブルに、音を立てて、置いた。




「・・・・・・・・・・ルック?これは・・・・」


「土産」


「はあ?」




一言完結に答えたルックに、珍しくソラが間抜けな声を上げた。
それに対しての返答は一切なく、ルックも近くに合った椅子に腰掛ける。

しばらく、理解し難いルックの行動にいかぶしげな表情を浮かべていたソラも、
そのまま悩んでいても仕方ないとばかりに、テーブルに置かれた土産なるものを手に取り、眺めて見た。




「――ルック。いちよう聞くけどまさかこれは・・・・・」


「見ればわかるだろ。酒だよ」


「こんなもの、どこから調達してきたんだ?」


「貯蔵庫」


「・・・・・無断で?」


「まあね」


「無茶するなあ・・・」




淡々と答えるルックに、ソラが苦笑してそれをテーブルに戻した。
相変わらず腰掛けて、下を向いたままこちらを見ようともしないルックの態度は不思議であったけれど、
不可解な行動の理由など考えたところでわかるものでもない。
そう割り切って、追求しない事にして、ソラはベッドから腰を浮かした。




「置いておいてもそのうち誰かに見つかって取り上げられるのがオチだし、今から飲んで証拠隠滅しよう。
持ってきたからには付き合ってもらうよ」


「好きにすれば」


「そうする。今グラスを出すから」




そう言って立ち上がり、部屋の隅に置いてある棚から、不揃いなグラスを2つ手に取る。
普段あまり使わない、手に取るのも初めてのようなそのグラスを、軽く布で拭って、
テーブルの上に、音を立てないように静かに乗せた。




「一体、どういうつもりでこんなもの持ってきたんだよ」




慣れない手つきで酒瓶の蓋を開けながら、軽い気持ちでそう問う。
しかし、やっとの思いで蓋を開けても、2つ分のグラスになみなみをそれを注ぎ終わっても、
ルックの口から、返答が帰る気配はなかった。

けれど、そんなルックの態度は少なくなかったので、
別段気にする様子もなく、ソラの対応は軽く肩をすくめて笑っただけに留まった。









「――じゃ。土産物を味わわせてもらうよ」





グラスを手にそう言って、一口含んで飲み込んで、はあ、と深く息をつく。
別段、美味しい、という印象は受けなかったけれど、決して不味いわけではない。
ただ、進んでそれを飲みたいと思うこともなかったので、一口飲んだだけのそのグラスを、
不自然にならないように、ソラがそっと、テーブルに戻した。




「飲まないのか、ルック」




ずっと下を向いたまま、ずっと無言のまま、グラスを手に取ろうともしないルックに、
無駄な問いかけかと思いつつも、ソラがそう尋ねる。
するとルックは、伏せていた目を少し上げて、酒の注がれたグラスを少し見て、
そしてまた伏せて、組んでいた腕を組み直した。



その動作の意味することは、「いらない」ということ。
先程の自分の素振りで、対して美味いと感じなかった事がバレたためか。
はたまた、最初から飲む気など欠片もなかったのか。
真偽の程は定かではないが、とりあえず飲む気は無いと言う事はよくわかったので、
自分の分も含めてグラスを片付けてしまおうかと、ソラがまたベッドから腰を浮かそうと手を掛けたとき、
突然、その声は前方から降りかかった。


























「よく殺さなかったな」















脈絡も何もない。
誰が、という主語も。何を、という目的語も。何も何も無い、限界まで言葉を省略したその言葉で、
ソラは、今までのルックの行動の真意が、全てわかったような気がした。
居城の中の誰しもがそうだったように。彼もまた――。


当人の口からそうと聞いたわけではないので、確証はなかったけれど。
多分恐らく間違ってはいまいその答えに、ソラが数秒表情を固くして、そして緩めて。
1度は浮かした腰を、また下ろして。そして、ルックの遥か後ろを見つめて、言った。








「―――――殺したかったさ」





感情の形容がし難い。幾つもの気持ちの交差するような言葉の面持ちで。
吐き捨てるように、ソラがそう言い捨てた。





「グレミオの仇だ。本当だったら、何の迷いもなく殺してた」


「なら、殺ればよかった」


「そういうわけにはいかない。ブラックルーンのせいだとわかった以上、ミルイヒに罪は無い。
それに―――今は少しでも戦力が欲しかった」





解放軍のリーダーという立場にいる限り、
一人の人間として、その場の感情に流されるわけにはいかない。
それは、リーダーとして当然の心構え。しかしそれは、まだまだ少年である彼には、余りに酷な代物。
それなのに、そうであるはずなのに。
彼は一向に、弱みを見せる事はなかった。





「よく正気でいられるな」


「・・・・さあ。正気なんて、とうの昔に無くしてるかも」


「・・・・・」


「冗談だよ」





黙り込んだルックに、小さく笑ってソラがフォローするようにそう言い足す。
これでも、何とかまともな完成は維持してるつもりだ、と、フォローになりきっていない言葉も付け加えて。





「少なくとも、ルックに心配されなきゃならないほど、辛い状況に陥ってはいないさ」


「どういう意味だよ」


「慣れないことはするな、って意味」


「・・・・・・たまには人の好意を素直に受けてみろ」


「そう、それでいいんだ」


「は?」


「ルックは、いつも通り捻くれてたら良いんだよ」





遠慮なしに言ったその言葉に、また不機嫌そうに顔をしかめたルックを見て、笑って、
ソラが一つだけ息を吐いて、また口を開いた。





「城中の人間が、下手に僕に対して気を使う」


「・・・・・」


「だから、一人くらいはいつも通りしてくれてたほうが、こっちとしても気が楽なんだ」





だから君は、いつも通り悪態ついてればいい。
付け加えそう言って、渇きを癒すために、置かれたグラスをまた手にとって、飲んだ。



一口、二口と飲んでいると、突然、ルックが椅子から立ち上がり、部屋を後にしようとソラに背を向けた。
用が済んだと思ったのか。それとも容赦無い言葉の応酬に腹を立てたのか。
どちらにしても、止めて止まるような人間でないことは百も承知しているので、止めることは一切しない。
無言でルックの背を見送って、そのまま終わるつもりだった。

だったけれど。











「ルック」






部屋を一歩出たその瞬間、そう、一言名を呼ぶと、ルックが一瞬ソラの顔を見た。
けれど、そのまま行ってしまいそうな気がしたので、目が合った瞬間を逃さずにソラが笑んで、
そして、言った。


















「・・・・・・・・・・ありがとう」
















多分、恐らく、もしかすると。
最初で最後の、礼の言葉。


まさかそんな言葉が飛び出してくるとは予測していなかったのか、
さすがにルックも驚いたように足を止めて、数秒止まって。
そして、またいつも通りの無愛想な表情に戻した。






「―――気味が悪い」




最後にそう言い捨てて、そして今度こそ、その部屋を後にした。

テーブルの上の、手付かずのグラスの中に、月明かりが落ちていた。












FIN.


『ヒノエんとこの「せんちひ」鑑賞会鑑賞権取得用坊とルックの小説』と見せかけた、
実質『これをエサに彼女を釣って、彼女にイラストを描かせよう計画用小説』第一弾(死)
んふふふふー。悪い奴だと笑わば笑え(つかむしろ罵ってくれても結構だ(笑))
だってね。だってね。
ロッテとか描いて(書いて)くれる人って本当にほとんどいないから。
こうやって「(実力行使してでも)書(描)ける人に書(描)いてもらえ」っていう言葉を、
一生付いていくと心に決めた人から教わったんだもの(謎死)
そんなわけで、私はこれの代わりに坊とロッテ貰いました。ふふふーv(悪魔だ)

作品解説。
お分かりでしょうか。お分かりですよね?(不安らしい)
グレミオの仇。ミルイヒ将軍の勧誘成功当日夜です。
最期が歯切れ悪すぎるのはカンベンしてください(ぺこぺこ)

ミルイヒ・・・・・奴は心の底から憎んでおります(レオンの次に(待て))
スカーレティシア侵攻の際には、リセット覚悟でしっかり仇を取りました。すっきりv(死)
が、仮想空間内の現実ではリセットなんて有得ないので。坊はかなり辛い思いしたでしょうね。
・・・・という思いを込めて書いてみた。
書いておいてナンだが、ルックはこんな粋なことしないと思う(死)
ついでに言うなら、未成年の飲酒はまず私が許さないのでルックの行動は許せない(待て)
でもまあ、こういうときはやっぱ酒かなー・・・とか思ってしまうあたり、まだまだ私は甘いですな(謎)

ところで・・・・。こいつら仲良いの悪いのどっちなの!?(お前が言うな)


ぷりーずぶらうざばっく