泣けなくなったそのときから

貯め込んだ涙が溢れてしまう前に

 

 

強≠弱

 

 

ぽんぽん。

頭に鈍い衝撃。というより、重み。
それを感じた水鏡が、ふいと上を向き、その犯人に目をやる。

ぽんぽんぽん。

それに気にする様子もなく、なおも続ける犯人に、
はぁと息を吐いて、彼は彼の者の名を呼んだ。

 

「風子」

 

どういうつもりだ。とでも言いたげな視線を受けて、
やっと手を止めた風子が、悪びれる様子もなく、にこりと笑う。

 

「いい子いい子」

 

ふざけるわけでもなく。馬鹿にした様子もなく。
言いながら、彼女はまたも手を伸ばす。

ぽん。ぽん。

彼の頭に、軽く、また重みが加わる。

 

彼のため息が重みを増して、諦めの色が伺える。
再度、またもう1度。
何度も、飽きることなく、手は動き続ける。

何を言ってもムダだと感じた頃に、その手が、ふと止まった。

 

「泣かないんだね」

 

沈黙の中で響くそんな言葉が、彼の耳に、妙に残った。

 

「・・・何故、泣く必要があるんだ」

「うん」

 

今の疑問文は、決して『Yes』で答えるものでもないのに、
彼女の口から発せられたのは、この一言だけで。
彼は、まともな返答を求めるのも。それ以上の答えを求めるのも。
全てムダだと割り切って、また、手元のモノへ意識をやった。

先程の不可解な行動を止めた彼女の重みが、彼の背中にかかる。
また流れる沈黙の中で、独り言のように、彼女は呟く。

 

「泣けないのはね、強いんじゃないよ」

 

返事を求めるでもなし、誰かに聞かせるけでもなし。
ただ一言呟いて、少し黙って、続ける。

 

「だから、泣いていいんだよ」

 

言って。呟いて。今度こそ黙り込む。
狭い空間に流れる、虚無と沈黙に、
彼女はやがて、安らかな吐息を吐き始める。

彼女の重みを感じながら、残された彼は、言葉を意味を繰り返す。
強さと勘違いした、弱さを思って。

 

 

 

 

あぁいつのまに 人は涙を失って 叫ぶ声も消し去って

間違った強さを抱いて 生きてきたのでしょう

 

どこだここ。だれだこいつら。なんだこれ。