丸いトレイには香り漂う紅茶の注がれたカップが2つ。
うっかり口にして火傷などせぬようにと少し温めな今日の紅茶はストレート。
疲れたときは甘いものがいいというけれど、今日の紅茶はストレートが一番美味しい。
甘いものは、横に添えたチョコレートで補うことにした。
取り落とさぬように慎重に、けれど心なし急いで、目的の部屋に向かって、ノックなしに扉を開けた。
見えるのは、デスクに向かい、振り返る事すらしない彼の背中。
「アスラン、お茶が入りましたよ」
そう言って、書類か何かで散雑になっているデスクの少し空いた隙間にカップを置く。
それを視線だけで確認して、アスランは手にしているものから目を離す事無くラクスに礼を述べる。
忙しいのだと彼は言う。
寝ても仕事。覚めても仕事。
本当ならこんなことはしたくないのだが仕方がない、と申し訳なさそうに謝っていた姿は記憶に新しい。
それに対し、気にしないでくださいと微笑んだ自分の姿も。
仕方がない。
確かに仕方のないことなのだ。
彼に任されている限り、それは彼にしか出来ぬ仕事なのだろうから。
そして真面目な彼は、それを見過ごすことはできない。
常に、いつでも、至極真面目にその仕事に取り組む。
サボって別のことに気を取られる事もない。
ほんの少しだけ仕事をほっぽり出して、どこかに出かけようなどとは欠片も思わない。
それは本当に、ほんの少しだけ悔しいけれど、そんな彼だから愛しいと思うのもまた事実。
2つ並んだカップの1つをデスクに置き、もう一つは自分の手に取ってトレイを脇に抱えた。
そしてそのまま、デスクのそばにある大き目のクッションに腰をかける。
部屋を出ずにそのまま居座ろうとしているラクスの態度に、少し反応を示したアスランだったが、
やはり視線は向けることなく仕事に向かう。
その横顔を、彼女はじっと見つめていた。
さらりと流れる真っ直ぐな髪。
時折うっとうしそうにそれをかきあげる癖。
何かに詰まったときは、眉間にしわを寄せて頬杖をついて小さく唸る。
そんな動作を、ひとつひとつ見つめていた。
床に置かれたクッションに腰掛けているラクスにとって、デスクに向かうアスランを伺うには、どうしても顔を上げる必要がある。
あまり長時間見上げていると、さすがに首が疲れてくる。
首に疲れを感じたときは、一息ついて手の中におさまるカップの湖面を見つめた。
なみなみと注がれた薄い褐色の紅茶の海を見つめると、そこには自分の顔が映っている。
数秒湖面の自分と見詰め合って、その行動にも飽きた頃、こくりと一口口に含んで、飲み干した後また顔を上げる。
変わらず紙面に向かう横顔。時々文字を走らせるように動く腕。
しばらく見つめて、飽きた頃に俯いてため息をつく。
そしてまた湖面を見つめて紅茶を飲んで、無意識に顔を上げて・・・・。
そんな動作を5回も6回も繰り返し、またふうと息をついて下を向いたとき。
ふと、頭上から震えるような微かな笑い声が降り注いだ。
「・・・・・?」
不思議に思ってもう1度顔を上げると、机に突っ伏して必死で何かを堪えている様子のアスラン。
ますます何が何だかわからなくなって首を傾げると、それに気付いたらしいアスランがこちらを向き、
苦笑めいたものを浮かべつつなおも笑いながら掠れた声ですいませんと謝った。
「すい・・・・っません。笑うつもりは・・・なかったんですけど・・・・・・・・」
言いながらも、腹を抱えて必死で笑いを抑えているアスランの態度が腑に落ちなくて、
やはり首を傾げて視線で説明を求める。
すると、2度深く息を吸い、吐いたアスランがやっといつもの落ち着きを取り戻し、
にこりと微笑みながら体をこちらを向けて、言った。
「退屈、ですか?」
そう言ったアスランの笑顔が優しく、そしてどこか申し訳なさそうで、
彼が何を言わんとしているのかが、瞬時に理解できた。
見上げては、顔を下ろし。下ろしてはまた見上げる。
気付いていたのだろう、そんな一連の動作を。
聞こえぬよう小さくついたため息すら、全て気付いていたのだろう。
だから、あからさまに退屈そうに同じ行動を繰り返す事が可笑しく。
そして、退屈な思いをさせてしまっていることに申し訳なさを感じている。
「いいえ、そんなことありません・・・・・。
・・・・アスランこそ、私がここにいて、とても邪魔だったでしょう?」
「いいえ、そんな!俺はただ貴女に退屈な思いをさせてしまって申し訳ないと・・・」
「これは私が好きでしていることなのですから、アスランが気になさる事はないのですよ?」
「しかし・・・・・」
そう言っても、なお辛そうに目を伏せるアスランににこりと笑いかける。
それに苦笑を返したアスランに、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべ、でも、とラクスが声を上げる。
「でも、本当は少しだけ、退屈でした。ほんの、少しだけですけれど」
悪戯のバレた子供の浮かべるそれのような笑顔のラクスに、
一瞬毒気を抜かれたように呆けたアスランが、苦笑ではない笑顔を今度こそ浮かべた。
「・・・・では、どこかでかけましょうか?」
「本当ですか!?」
「ええ。休憩がてら・・・・・。たまには、外に出てお茶をするのもいいかと。
ああ、もちろんラクスの淹れてくれるお茶に不満があるわけではないですからね!?」
慌てて取り繕うアスランの姿が可笑しくて、声を上げてラクスが笑う。
そして、その背後に見えた広げられた書類の束を見とめて、ふと眉をひそめてアスランの見上げる。
その意図するところを理解したアスランが、肩を竦めて言った。
「仕事は・・・まあ・・・・・・・・何とかなりますから」
「・・・・本当ですか?私のために貴方が後で大変な思いをするのでしたら、私・・・・」
「いえ、そんなことは!・・・・正直、俺もそろそろ飽きてきた頃だったんですよ」
そう言って、行きましょうとラクスの手を取った。
嬉しそうな声を上げ、返事を返してラクスもそれに倣う。
退屈な時間に別れを告げ。溜まった仕事はひとまず置いて。
とりあえず、しばし休息・・・。
FIN.
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爆笑ザラ氏が書きたかった。書けなかった!(ショック!)
机につっぷして笑うザラ氏でいっぱいいっぱい!誰かイラ描いて!ヒノエー!(無茶な!)
よく考えたらこの小説、矛盾点いっぱいなんですよー。
まず状況。アスランの仕事中にお茶を運ぶことが可能と言う事で、結婚後な感じがひしひしと。
が、しかーし。
アスラン敬語使用。敬語仕様。そんな、他人行儀な!
まあ・・・・そこらへんは深く考えないで下さい。
作中でも深くつっこんでないでしょ?(はぐらかしたらしい)
2003.09.23 stmimi
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