「貴方の手は魔法の手ですのね」




聖母の微笑を湛えたラクスが紅茶のカップ片手にそう言うと、何を言われたのかと瞬時に理解しきれなかったらしいアスラン顔が一瞬呆けて、次の瞬間顔を紅く染め上げて下を向いた。




「い、いきなり何を仰るんですか」




必死で照れを隠そうと紅茶を啜るアスランをくすくすと笑いながらいいえとラクスが答えると、そんな態度が少し気に入らなかったのか、悔しそうな表情を彼が浮かべる。
少し眉間に眉が寄ったのを見てさらに笑みを深めたラクスだったが、しばし笑ったあとはまたにこりと微笑んで、そして静かにテーブルに置かれていたアスランの手を取った。




「初めてお会いしたときはオカピを助けてくださいました。
次にお会いしたときはハロをくださいましたでしょう?
ですから、貴方の手は魔法の手なのですよ」


「そんな、魔法だなんて大げさな・・・・・」


「大げさなんてことありません!
オカピもハロも、私にとって大切のお友達なんですもの。
私、本当に嬉しかったんですのよ」




ありがとうございます。
そう言って微笑むと、困ったようにはにかんで、アスランも微笑み返した。




「私、貴方のこの手が大好きです。
貴方のこの魔法の手が、これからもずっと、たくさん、私の大切なものを築き上げてくださるような気がするんですもの!」


「ラクス・・・・・」




嬉しそうに語るラクスに、感極まると言わんばかりの余韻に浸っているアスラン。
そんな彼を見上げて、ですから、と笑顔で彼女は一言告げて、そして続けた。




「ですからね、アスラン。私、貴方のこの魔法の手に、お願いしたいことがございますの」


「何ですか?僕に出来ることなら・・・・・」




何でもおっしゃってください。と言外にそう含んでアスランが返答を返す。
その言葉を待っていましたといった風にラクスは嬉しそうに笑って、言った。




「私、ずっと考えていましたの!
ハロに通信機能のようなものをつけることは出来ませんか?」


「通信機能・・・・・・ですか?」


「ええ!もし通信機能をつけることが出来ましたら、これまでよりずっとたくさん、アスランとお話出来るようになるでしょう?」




ぱちん、と手を叩いて楽しそうに語ったラクスを見ながら、アスランの内部葛藤が始まった。

確かに通信機能などつければ連絡が取りやすくなるかもしれない。
しかしそうなると、自分も常にハロを近くに飛び回らせておかなければならなくなるではないか。
それは正直、かなり間抜けである。
いっそハロではなく、また別の送受信用小型機械みたいなものを開発するか。
いや、それはさすがに時間が・・・・・・・・。




「あ、いや、ラクス・・・・。それは・・・・・・さすがに・・・・・・・」


「まあ・・・いけませんでしたか?一生懸命考えたのですけれど・・・・・・」




恐る恐る切り出したアスランの言葉に、多大なるショックを受けたように表情を固くして、ため息混じりにラクスが頬に手を当てた。
しょんぼりと下がる肩が弱弱しくて心に痛い。
ああ、しかし。ここで折れてしまえばまた貴重な睡眠時間が・・・・・。




「これで少しは寂しさが紛れるかと思いましたのに・・・・・・・」




憂いを帯びた歌姫の独り言は、婚約者の胸にずしんと重く圧し掛かった。

ずるい。この言葉はずるい。
そう思ってはみるものの、普段ほったらかしにしている手前文句は言えず。
ここで口を開けば墓穴を掘るだけだとわかってはいても。
居た堪れなくなったアスランが苦々しく口を開いた。




「わ、かりました・・・・・・・。何とか・・・・・・・・・頑張ってみます・・・・・・・・」


「まあ!!本当ですか、アスラン!?」


「ええ、まあ・・・・・。とりあえず、やれるだけ・・・・・・・・・」


「ありがとうございます、アスラン!!」




これで後には引けなくなった。
もう完成したかのような喜びっぷりに、「やっぱり無理でした」という言葉は許されない事を悟ったアスランだった。




「ふふ、実はまだありますのよ。貴方の魔法の手にお願いしたい事は」


「まだあるんですか!?」




つい声を上げてしまった事に気がついて、空いている片方の手ではっと口をおさえた。
しまったと思い恐る恐るラクスに目をやるが、そんなことは気にしないとばかりに彼女は未だ笑みを湛えている。
ほっとしたのも束の間、いつもなら癒されるだけのその笑顔が、今は何だか怖い。




「ずっと考えていたのですけど、オカピの耐久精度を上げる事はできませんか?」


「・・・・・・もしかして、また乗って一緒に散歩しようとか考えてます・・・・?」


「ええ・・・・・。アスランに言われましてからずっとガマンしてきたのですけれど、やはりオカピは足が遅くて・・・・・私、いつも途中でつまらなくなってしまうんです。ですから・・・」


「やはり乗って散歩がしたい・・・・・・・・と?」


「はい!」




言わずとも伝わる以心伝心が嬉しいのか、はたまた魔法の手の活躍が楽しみなのか。
どちらにしても、彼女の楽しくて仕方ないといわんばかりの笑顔が眩しくて痛い。
この期待に満ちた目に、俺は抗えるのか。
アスランは悩んだ。期待に満ちた視線を一心に受けながら悩んだ。
睡眠を取るか、彼女の笑顔を取るか。自由時間を割くか、彼女の笑顔を諦めるか。
悩みに悩んだその間、わずか1秒。




「・・・・・・・・・・・・・・・貴女がそれで喜んでくださるなら・・・・・・・・・・・・」




男の意思は弱かった。




「ああアスラン!!私、本当に嬉しいですわ!!」


「あー・・・・・・そうですか・・・・・・・・・・・・・」




眩しいくらいの彼女の笑顔を直視できずに、彼は明日からの過酷な日々を思い浮かべて背中で泣いた。
いや、何も言うまい。それで彼女が喜んでくれるなら。
少しの睡眠時間と引き換えに彼女の笑顔が手に入るなら安いものじゃないか。
決意に似た諦めを胸に、彼はそう自分に言い聞かせた。



男アスラン。
彼は未だ、自分が手玉に取られている事に気付いていない。






完。
―――――――――――

「男を手玉に取れ」 by.アスラン・ヅラ


ラジ種ネタ。
せっかくのアスラン・ヅラさんからの助言でしたので、男(アスラン)を手玉に取らせてみました、ラクスに(笑)
ラクスは傍目から見るとしっかりアスランを手玉に取ってはいるものの、本人自覚なし、というのが理想。
あ、でも自覚在りで手玉に取ってるのもなかなか楽しいかもしれない。
そうなると、結婚後はかかあ天下ですね(爆)
でも夫はそのことに気付かない。平和な家庭の完成です。うん、オッケイ(いいのか)

正味な話、どうしてアスランはハロに通信機能をつけなかったんだろう。
ロック解除よりはずっと有効利用できると思うのですが・・・・?
・・・もしかして実はついてる?私が気付いてないだけ?(汗


2003.09.09 stmimi


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