重い足取りで赴いた、宛がわれた自室の扉を開けた途端広がった目一杯の鮮やかなピンクに、不意を付かれて思わず後ろへ飛び退いた。
悲鳴にならなかった叫びを音のない声で上げると、それに呼応するように懐かしい音が響いて、ぽん、と掌に掛かる重み。





「ピンクちゃん!?」




久しく電源を入れていなかったはずのハロが、そこにあった。




「どうしましたのピンクちゃん。貴方・・・・・・」

「ハロハロ!ラ ク スー、ゲンキカー!!」




掌でころころと回り、嬉しそうな声を上げるハロを、ただただ驚きの表情を浮かべてラクスが見つめる。
確かに自分は電源を切っていたはずだった。
ハロは自分の大事な友達で何より尊いものではあったけれど、それでも戦争の緊張感の中で能天気に飛び回られてはさすがに困る、という理由で、しぶしぶ切ったのだ。
しばらくは忙しさにかまけて電源を入れるどころか姿すら見えなかったのに…。
今になって、どのようにして、電源が入って動き回っているのだろう。




「・・・・・・私と遊べなくて、つまらなかったのですか?」

「ハロハロ!」




苦笑を浮かべてそう問うと、少し怒ったような調子でハロが答える。
さんざん感情がないと言われたハロであったけれど、こうしてみるとやはりそうとは思えない。
質問にはそれ相応の抑揚を持って答えるし、おいでと手を出せば呼ばれるままに手に乗ってくる。
ころころと転がって、名を呼んでくれる。
寂しい日は傍に居てくれた。一人の夜が苦ではなくなった。









『こういったもの お好きかな、と思いまして』








不意に、はにかみながらそう言った彼の顔が浮かんで、胸が詰まった。








「ごめんなさい、ピンクちゃん。
今は少しだけ時間がありますから、今まで遊べなかった分、いっぱい遊びましょうね」



そう言ってハロを放すと、ぴょんぴょんと飛び回ってハロハロと声を上げる。
その声が可愛くて、ほんの少し懐かしくて、見つめる笑みに寂しさが過った。



「何をして遊びましょう。鬼ごっこは2人ではつまらないですし・・・・。
お散歩もだめですよ。皆さんの迷惑になりますからね」

「ハロハロ!!ダイジョーブ!」





・・・・・・・『大丈夫』?


今まで、ハロがこんなことを言ったことがあっただろうか。
ふとそんなことを思った。



「何が大丈夫なんですの?ピンクちゃん」

「ハロ!ラークースー、マカセロー!!」

「任せろ・・・・と、言いますと?」




いつになく多弁なハロに首を傾げつつ語りかける。
すると椅子に腰掛けるラクスのまわりを飛び回っていたハロが突然ラクスの手の中に収まり、見上げるような形でラクスを見つめた。




「ハロ ラクスー ゲンキカー? ムリスルナ!!」

「ピンク・・・・・ちゃん?」

「ムリスルナ!! ハロ シンジロー!」




そう言ってころころと回るハロを見つめて、ラクスが絶句した。
怒っているようにも聞こえる、少し強めの口調のハロの言葉が信じられなかった。

今まで聞いたことのない単語達。
いくら友達だと言い張っても、いくら感情があるとは思っていても。
話しかけているだけで言葉を覚えるわけがない事くらいはわかっていた。
だからこそ、いつの間に―――これだけの言葉を覚えたのか。
考える限り、そんな間は在りはしなかった。




「ピンクちゃん・・・・・どうしましたの?一体何が・・・・」

「ダイジョーブ!ハロ、マカセロ!!」

「ですから、何が・・・・ですの?」

「ハロ!ラークースー、アイシテル!!」


「!!」





ハロが言った言葉が思考を支配して、一瞬何も考えられなかった。
危うく取り落としそうになったハロが手の内から逃げて、飛び回る姿を呆然を見つめていた。









ダイジョーブ

マカセロ

ムリスルナ

シンジロ


アイシテル














『簡単な単語を登録してあるんです。まだ増やす事も出来ますよ』













「アス・・・・・・ラン・・・・・・・・・・?」









記憶の中で、微笑みながら彼が囁く。
言葉で伝える事が苦手で、それでも喜ばせようと奮闘してくれた彼。













大丈夫

任せてください

無理はしないで

信じて





愛しています




















ハロに、託したのですか?
貴方の想い、全部。口にしてくれたことなど、1度もなかったのに。








「ずるい、ですわ・・・・・・・・」




かすれる声でそう言って、おいでとハロを呼ぶと、応える様に手に乗ってきた。
一番初めに彼に貰った、大切な友達。




「ピンクちゃん・・・・・・。貴方がそう言うなら、私、無理しません。
信じます。信じてます、皆さんを。大丈夫ですよね。信じてます。
だから、任せてるんですもの。信じてるんですもの。
私も、ピンクちゃんが好きですよ。愛してます。私も・・・・私も・・・・・・・・・」



















「・・・・・・・・アスラン・・・・・・・・・・・!」







強く抱きしめるように腕の中に閉じ込めたハロが、小さくもがく動作が愛しかった。
慰めてくれているような気がして、嬉しくて苦しかった。




搾り出し呼んだ名前は言葉になり切れずにかすれて消えて、頬に涙の痕が一筋、残っていた。






FIN.
―――――――――

本編の予告が悔しかったので、意地でもエターナル艦内でアスラクやってやりました。
意地です。意地。どうだまいったか(知らんて)

自分では伝えられないのでハロに単語登録させてラクスに伝えるアスランの図。
どうやってラクスの部屋にいるハロを強奪したのかは謎。
吹っ切れた人間は、時に何をしでかすか分からないものなのです(何それ)

アス→←ラク。・・・・・切ないね、本当にもう!!!(泣)


2003.09.07 stmimi


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