「私、結婚式は6月がいいですわ」



それは何の変哲もないいつもと同じお茶の時間。
これまた突拍子もなく突然そんなことを言い出したラクスに、
アスランは危うく口に含んだ紅茶を吹き出しそうになるのを必死でこらえた。



「ジューンブライド・・・・・ですか?」



少し乱れた呼吸を整えながら、苦笑してアスランが答える。
それに、はい!と嬉しそうに答えて、ラクスは胸の前で指を組んだ。



「私、結婚式のジンクスについていろいろ勉強しましたのよ」



うきうきと語る目の前の婚約者を愛しいと思いつつ、彼女も十分忙しい人なのに、どこにそんな時間があるんだろうという疑問が頭の中をふと過る。
彼女がフリーで、しかも自分が会いに来れない時間を、その勉強とやらにあてていたのだろうか。
そう思うと申し訳なくて、アスランはますます苦笑を濃くした。



「ジューンブライドのジンクスの由来、というものを調べましたの。
6月の守り神である女神様は家庭や子供の守護神で、その6月に結婚をした花嫁は女神様の加護を受けて、生涯幸せな結婚生活を送ることが出来るんだそうです!」



本にそう書いてありましたわ。と続けて、楽しそうにラクスが笑う。
アスランはと言うと、思ったよりも本格的に『勉強』していたらしいことに驚いて、
そして素直に感心して、我知らず目を見開いている。
『勉強』といっても、雑誌の隅にお粗末に書かれてある記事を読んだとか、人に口頭で聞いたとか、そんなものだと思っていたのだ。
まさかこんな風に、女神だの何だのまで調べているとは思ってもみなかった。



「ずいぶん細かい事まで調べたんですね」

「ええ!私、他にもいろいろと幸せになるためのジンクスを勉強しましたのよ!
例えば・・・・・アスランはサムシング・フォーというのを御存知ですか?」



サムシング・フォー。

サムシング、といえば結婚式に青いものを身につけると幸せになれるサムシング・ブルーというものがあるが、それと似たようなものなのだろうか。
そういう考えには行き付いたものの、いまいち確信が持てなかったためにいいえと答える。
するとラクスはますます嬉しそうに笑って、嬉々として語り出した。



「何か古いもの、何か新しいもの、何か借りたもの、そしてブルーの色をウェディングの日に花嫁が身につけていると、生涯幸運がつくという言い伝えですわ!
古いものは謙虚の心。新しいものは真っ白な未来。借りたものは隣人愛。そして、ブルーの色は幸を呼ぶ色を示しているんだそうです」



ふふ、と零れんばかりの笑みを浮かべるラクスに、
世の花嫁と言うのは、誰しもが皆これほどまでに幸せそうに笑うのだろうか、と、
慈愛に満ちた視線をアスランは向けていた。



「ですから私、結婚式には新しいドレスに古いネックレスをつけていきます!
ブーケは青いお花にして・・・・。
古いものはどうしましょう。そうですわ、イザークに頼んで何か借り・・・」

「ラ、ラクス!!」



突然挙げられた、あまり彼と仲のよろしくない同僚の名を聞いて、思わずアスランが声を上げる。
話の途中で入った制止の声に、ラクスはきょとんとした視線をアスランに向け、どうかしたのかと尋ねかけるように首を傾げた。



「何もそこまでしなくても・・・・!」



6月の花嫁にドレスやネックレスに青いブーケ。
そこまではまだいいとして、かの同僚にいったい何を借りると言うのか。
ラクス自身が頼めば彼もきっと快く何でも貸し与えるだろう。
けれどその後、アスランにネチネチ何かを語る事はまず間違いない。



「何故ですか?私、幸せになりたいですのに・・・・」



一番反対されたくない人間にそう言われてしまったのがよほどショックだったのだろう。
先ほどまでの楽しそうな笑顔は消え去り、力なく落ちた肩がしゅんとしている。
その姿を見ているのは心に痛くて、アスランは慌てて言葉を紡ごうと口を開いた。



「や、ですから・・・・・その・・・・・・・・・・」



言いたい言葉はすぐそこまで出かかっているのに、どうしても口にまでは出てくれない。
曖昧に言葉を濁し、段々と顔を紅く染めるアスランを覗き込むようにラクスが軽くラクスが身を乗り出すと、観念したようにラクスの目を見つめて、アスランが再度口を開いた。



「そんなものに頼らなくても、僕が貴女を幸せにします・・・・・・・必ず」



小さく、けれどはっきりと紡がれた言葉を聞いて、一瞬目を見開いたラクスが、
次の瞬間満面の笑みを浮かべて、小さく眉をひそめた。



「ふふ・・・。私、ジンクスに頼ってばかりで大切な事を忘れていました」



苦笑気味にそう言って、テーブルの上で組んでいたアスランの手の上に、自分のそれを優しく重ねた。



「幸せになりましょうね、アスラン。私達2人で、必ず・・・・・」

「・・・・・・はい」



添えられていた手を握り返して、アスランは力強く頷いた。





FIN.
――――――――――

まるで逆プロポーズのようだ(爆)
強いなあラクス嬢・・・・。

これ書くために必死こいてジンクス調べたのは私です。
いろいろあるもんなんだなあ・・・・・。


2003.09.03 stmimi


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