麗らかな日だった。
テラスに注ぎ込む光は柔らかく、そよぐ風が木々を攫って立てる音がささやかで。
会話らしい会話がないにしても居心地の悪くないその場所は、
時折かちゃりとカップを手に取る音が聞こえるくらいだった。
向かい側に座るラクスの手には、今日贈ったばかりのハロが優しく抱かれている。
毎度毎度変わり映えしないとは思いつつ、
喜んでくれるのでつい持ってきてしまうそれを、彼女は本当に大切にしてくれている。
彼には、それがとても嬉しかった。


ふと、手の内にあったハロを放して、ラクスがかちゃりとカップを手に取った。
他のハロ達の輪に加わるべく野をかけるハロを、
まるで我が子を慈しむように見送るラクスの姿に、我知らずアスランの顔にも笑みが浮かぶ。
そんなアスランの方ににこりと笑みをやり、
ラクスは何かを思い出したかのようにぱちんと胸の前で手を叩いた。



「そういえば・・・・・」

















[ IF… ]



















時は××××年。
とある少年が手にしたスケルトンハロは、好奇心溢れる幼心を鷲掴みにした。


透明なボディの中で忙しなくうごめく機械を形作る部品達。
まるで命を―感情を持っているかのように振舞うそれらに多大なる興味を抱いた少年は、いつしか工具を手に取り、分解しては組み立て、組み立てては分解するという遊びを覚えるようになる。

そしてだいたいの構造を覚えた少年は、自らの手で1からハロを作り上げたいと考えるようになった。



「がんばりなさい」



子供の成長を温かく見守る父の励ましを背に受けながら、少年は一心不乱にハロ作りに熱中する。
そう、それはまた新たな機械オタクがこの世に一人誕生した瞬間だった。
熱中する余り食事すら忘れてしまう事に対して心配する母の声は心に痛かったが、それでも少年は手を休めなかった。


そして三日三晩が過ぎ。



「父さん!やった!できたよ僕のハロが!!」

「すごいじゃないか!」



感極まり極上の笑顔を浮かべる少年。
力強い抱擁で息子を迎える父親。

心温まる家族の光景である。




翌日、少年は自ら作り上げた自作ハロを持って登校する。



「僕が作ったんだ!」

「すっげー!」



少年とハロは校内で一躍名を馳せることとなった。




さて、人がやったとなると自分もやりたくなるのが子供心を言うもの。
少年に倣うように一人、また一人とハロの研究に勤しむ子供が増えてきた。

子供が何かに熱中すれば、気になり出すのが親心。
いつしかハロ作りは、親子の絆を再確認する場となっていった。






そして巻き起こるハロブーム。






ピンクに始まりネイビーに終わる、という従来のカラーリングはいつからか進化を重ね、
迷彩から豹柄まで多彩となり、ハロは子供の心を捉えて離さないマスコット的存在となった。
『一家に一台ハロ』『語学学習機能搭載』などを謳い文句に爆発的ヒット商品となったハロは、街の至るところで常に見かける存在となっていった。
『ハロに集えば平和が訪れる。』
もはや平和の象徴にまで上り詰めたハロだった。が。






「ハロ!俺のハロが車に!!」

「僕のハロがどっかいっちゃったぁ!」

「私のハロ返してー!」

「違う!ハロは生きてるんだ!機械なんかじゃないんだよ!」





度重なる事故・盗難・ハロ生存説などの事件が多発。
ハロに関する裁判が時を経るごとに増え、新たな条約を作らねばならぬという状況に陥ることとなる。

様々な問題を抱える事となった企業はハロ・プロジェクトから手を引き、今後いっさいハロの製造・販売を行わない事を表明。
やがて数々の問題を引き起こしたハロを気味悪がる人がハロを無断投棄する『捨てハロ』が社会問題となり、一世を風靡したハロは没落の一途を辿る事となった。












































「・・・・・ということがいつ起こってもおかしくありませんね、という話を、
先日メイドの方たちとしておりましたの」














ちょっと待て。
心の中で盛大にいれたツッコミを、声に出す勇気は今の彼には無かった。

のほほんと楽しそうに語る目の前の天使に視線を合わせることが出来ず、
彼は今、カタカタと震えそうになる手を必死で抑えながら手にしたカップの湖面をじっと見つめている。
初めは何の話だろうと幾ばくかの興味を持って聞いていた話は、中盤を過ぎた辺りから前を向いて聞けなくなっていった。
何でだ。どうしてそんな話になるんだ。いくらなんでも飛躍しすぎだろう。
ぐるぐると回る疑問の言葉を何度も反芻しながらも、何とか平静を保とうとすっかり冷たくなった紅茶を口に運ぶ。
これは毎回毎回会うたびにハロを持ってくる事への抗議なのだろうか。
いや、そんなはずはない。それならそうとはっきり言う機会はいくらでもあったのだから。
ということは、これは本当に何でも無い日常の一コマの一会話に過ぎないのだろうか。
だったらもっと嫌だ。




「あの、ですね。ラクス」

「はい?」

「それは、誰が最初に始めた話なんですか?」

「私ですわ。会うたびにハロを頂けるのなら、いつかスケルトンハロも頂けるのでしょうね、と話をしておりましたの」

「それがどうやってあんな話にまで飛躍したんです!?」

「だってあんなに可愛らしいんですもの。
いろいろな人に見てもらいたいですね、と言ったら
誰でしたかしら、『でしたらコンサートに来て頂いたかたに1度プレゼントされてみてはどうですか』と言い出した方が居て・・・・」

「気がついたらあんな話になっていた・・・・・と?」

「はい!」




それにしたって!
飛躍に飛躍を重ねたハロの末路に、作成者アスランはささやかな悲しみにくれた。




「自分から始めたお話でしたけれど、ハロがそんなことになってしまったらとても悲しいですわね・・・」




ほう、と頬に手を添えて憂いを帯びた瞳を伏せてラクスは言う。
あんたが言うなと危うく声を上げそうになるのを必死でこらえて、そうですねと相槌を打った。




「初めはまだ良かったですのに、最後には社会問題にまでなってしまって・・・・。
アスランったら、どうやって責任取るおつもりですの?」


「俺のせいなんですか!?」







いくら次のカラーリングに困っても、スケルトンだけは避けよう。
その日固く心に誓ったのだと、後に少年は語る。






終幕

―――――――――――


もしもアスランがスケルトンハロを作ったら絶対こうなる。(なりません)

第1作目がいきなりこれか!とお思いの方も多いでしょうが。大丈夫。
かく言う私も思ってます(ダメじゃーん)
でも、こういう夫婦漫才なアスラクも私の中ではアリなんです(笑)
天然ラクスにつっこみアスラン。ああ素敵夫婦漫才・・・・(帰って来い)


2003.09.01 stmimi



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