失って初めて気付く。
陳腐だと思っていたこのフレーズをまさか自分が体験しようとは思ってもいなかった。
そこにあるのが当たり前だった彼女と言う存在が目の前から消え失せて、ようやくその言葉の意味を知った。
『婚約者』という間柄。
『許婚』という絆。
ただそれだけだった曖昧な関係は瞬く間に終わりを告げ、
残ったのは虚無と後悔と新たな決意。
全てが終わり、彼女が望んだ平和が訪れたとき。
その新たなる決意を胸に、彼女の元を訪ねたのがずいぶん前のように思える。
気持ちというには在り来たり過ぎる花束に、ばくばくと脈打つ心臓の音を聞きながら掠れる声で伝えた言葉。
いっそ情けないほど不器用な自分の所業を、うっすらと涙の浮かぶ笑顔で喜んでくれた彼女の表情をきっと忘れる事は出来ないだろう。
そしてようやっと、本当の意味で彼女の『婚約者』となった俺の隣で、今。
彼女は溢れんばかりの笑顔を浮かべている。
「ずいぶん楽しそうですね」
そう言うと、彼女はこちらを向いてにこりと笑って返事を返した。
1度は壊れた、穏やかだったクライン邸の庭園。
今はまた、かつてと同じように花が咲き誇る自慢の庭園へと返り咲いている。
失ってまた取り戻されたもの。
失ってしまう事が終わりではないのだと、ここにも証明してくれるものがいる。
彼女の視線の先で、先ほどから遊び戯れているのはハロ。
特に、初めて会ったときに贈ったピンクのハロが先頭をきって跳び回っている。
一番初めの、『婚約の贈り物』には成り得なかった『贈り物』。
どんなときでも、それこそ肌身離さず連れ歩くほど気に入ってくれたのが嬉しかった。
彼女を失ったと感じていたときでさえ、そばにその存在があることが心の支えだった。
『婚約者』でなくても、『許婚』でなくても、何かしら繋がるものがそこにあるのだと思えた。
だからこそ、貴女を訪れたあのときも、膝の上に乗るあのピンクのハロを見たとき、
泣きたくなるほど嬉しかったんです。
「ハロが、また何かしてるんですか?」
「えぇ、見て下さいアスラン!!ピンクちゃん達、とても楽しそうだと思いませんか?」
そう言って、ラクスがアスランに向けていた視線をハロに戻して、
楽しそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
ピンクのハロと遊んでいるのは、ネイビーにパープルのハロ。
特に初期の方に続けて贈ったわけでもないのに、この3体は今まで贈ったハロの中でとりわけ仲が良い。
こういった広い場所に放されると、決まってこの3体は同じ場所で跳び回っていた。
その中に、時折オレンジだのグリーンだのが入ったりもしたが、ピンク・ネイビー・パープルのうちのどれか1体も欠けた事は1度も無い。
ハロ同士でも、反りの合う合わないがあるのだろうか。
製作者として有り得ないとは思いつつ、その光景を見たときはそんなことを考えた。
「あの3体はいつも仲が良いですね」
「アスランもそう思いますか?」
「ええ、まあ・・・・。いつも一緒にいますし」
「ええ、そうなんです!!」
曖昧に返したアスランの言葉に、ラクスは予想以上の嬉しそうな声で答えた。
いつになくトーンの高い彼女の声に驚いて、怪訝に思ってアスランが首を傾げる。
そんなアスランの仕草を見て、ふふ、とラクスは楽しそうに笑う。
そして、堪えきれないようにさらに声を上げて笑って、そして言った。
「きっと私達の子供の髪は紫色になるのでしょうね、アスラン!」
「こ、子供!?」
いつか聞いたことのある言葉に、いつぞやと同じ位の動揺を示して、
アスランはひたすら戸惑い、顔を紅く染めた。
しかしラクスはそんなことなどおかまいなしに、跳び回るハロを見て嬉しそうに声を上げる。
「だって見て下さい!
ピンクちゃんとネイビーちゃんは、パープルちゃんをあんなに大事にしてるんですもの!」
そう言って向ける視線の先では、ピンクとネイビーの周りをぴょんぴょんとパープルが飛び跳ねている。
確かに、見る人が見れば、そんなパープルをピンクとネイビーが見守っているように見えなくも無い。
パープルを置いてどこかへ行ったかと思えば、ちゃんと後を付いてくるのを待っていたりもする。
それはともかく、彼女が言いたいことは、つまり。
「ピンクが貴女で、ネイビーが俺で・・・・・パープルが子供、だと?」
「はい!!」
今度も、元気の良いラクスの返事が返った。
「結婚式・・・・・もまだなのに、気が早いんですね」
苦笑気味に、少々照れながらそう言う。
前ほど『結婚』という言葉に抵抗・・・というか、照れを覚える事は少なくなったが、
こうして口にする事はやはり苦手だ。
ラクスの方はというと、そういうわけでもないらしいが。
「だって、あんなに仲が良いんですもの!絶対そうに決まってますわ!」
はっきりとそう断言するラクスの瞳には、確信めいた輝きがあった。
そうしている間にも、ピンクとネイビーとパープルの3体は元気に跳び回っている。
ピンクがあちらに行けば、パープルが率先してそれを追い、その後をネイビーが追う。
ネイビーがこちらにくれば、それに次いでパープルとピンクが跳んでくる。
パープルがどこかへ行けば、それを追うようにピンクとネイビーが急いで着いて行く。
まるで親を追う子のように。子を追う親のように。
言われて見ればそうとも見える。と、いうか。
そうとしか見えないようになるから、すごいよなあ・・・・・・。
すっかり『親子』に見えてしまうハロ3体達の団欒っぷりを目にしながら、
アスランは改めてラクスの影響力に感嘆の意を示した。
「・・・・・・・良い親子、ですね」
「きっと、可愛くて可愛くて仕方ないんですのね、パープルちゃんのこと」
「なれるでしょうか、いつか。あんな風に・・・・・・」
ぽつりと、独り言のように呟いたアスランの言葉に驚いたように一瞬ラクスが目を見開いて、
次の瞬間再びにこりと笑って、そっとアスランの肩に首を預けた。
「・・・・なりましょうね、きっと」
「・・・・そうですね」
言いながら眺める擬似的親子―ハロは、
相も変わらず仲睦まじく、揃ってはしゃぎあっていた。
FIN.
―――――――
アスランは親バカ予備軍だと思います(ぇ)
奴はなる。絶対なる。必ずなる。親バカに!!(強調しすぎ)
生まれてくる子がいつぞやヒノエが描いたようなかわゆい女の子だった尚の事!
それこそ箱入りのごとく育てて、いつか娘が年頃になった頃に鬱陶しがられるはず!(死)
女友達とかと、「今日泊まりに来ない?」「あ、行きたい!でもパパが・・」「えー、またあ?」「そーなのー!」とかいう会話をいつか娘は繰り広げるはず!(ないない)
もしくは娘もパパっ子になったりネ!両思い☆(逝ってこい)
以上。『ラスト一週間弱、2人で連載してみよう計画』第2作目でした。
次はヒノエの「静かな夜に」に続く予定。
ヒノエ。今度は締めきり破るの許さんからな。
母さんはスパルタです(誰が母よ)
2003.09.27 stmimi
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