音を立てぬように身を起こすと、静かにこの場を立ち去ろうとする貴方の背中が見えました。
いつから貴方はこうやって、私から逃げるようになったのでしょうね。







「アスラン」



小さく声をかけると、部屋を出ようとしていたアスランの背が大げさに震えた。
驚いたように身を翻し、信じられないものを見たように目を見開いている。
そこまで驚かなくても、そう思ってうっすらと笑った。



「すみ・・・・・ません、起こしてしまいましたね」



居心地の悪そうに言葉を紡ぎ、申し訳なさそうに顔を伏せる。
貴方はいつもそうやって、何でもない事で謝ってばかり。
気にしていないと言えば言うほどさらに謝るものだから、いつもいつも、逆に困ってしまいました。
そんな小さなことが貴方らしくて、今のこの状況が、懐かしいとすら思えてしまう。



「いいえ、気にしないでください」

「・・・・・すみません」



ほら、また。やっぱり貴方は、謝るのですね。



「アスランのせいで起きたわけではないのですよ」



再度そう言うと、今度は何も言わずに辛そうに眉をひそめた。
昔はただ、困ったように苦笑するだけだったのに。
それでもその後は、その苦笑を消して微笑んでくれたのに。
今はただ、困ったように目を伏せて、避けて、視線を逸らす。
今のように辛そうに眉さえひそめる。
どうして、いつから貴方の笑顔は、そんな辛みを帯びるようになってしまったのでしょう。


思って、余りに簡単すぎる問いかけに不意に笑いが込み上げた。



ああ、そうか。



「初めから、起きてましたから」



私のせい、なのですね。



















その言葉を聞いて見開かれた目を、何か遠い世界のものを眺めているような気分で見ていた。
驚き喘いでいる姿が異質のもののようにも思えて、ひどく不思議な気分がした。



「初め、から・・・・・起きて・・・・・・・・!?」

「はい」



眠っている、フリをしました。
はっきりとそう告げると、なお動揺したようにアスランが息を飲んだ。
どうして、とかすれた声で言って、再度声を漏らす。



「どうして、そんなことしたんですか!?」

「貴方が来たからですわ、アスラン」



そう言うと、ひどく傷ついた顔をして、1歩後ろに後ずさった。
ぎゅっと拳を握り、何かを堪えるように、搾り出した声でやっと、何かを唱える。



「・・・・・そんなに、俺と話すのが嫌ですか」

「アスラン」

「だったらどうして!呼びとめたりしたんです!どうして放っておいてくれないんですか!!」



有らん限りの悲痛な叫びが耳について、痛い。
こちらを見ようともしない彼の表情は、俯いてしまっている為によく見えなかった。
だけど何故だろう、こんなにも怒りを露にしているのに。

泣いている、と思ったのは。






「・・・・・・いいえ」



少し気を抜くと震えてしまいそうになる声を必死で抑えて、やっとそれだけ告げた。



「いいえ、違います。――――違うんです」



きゅっと、ソファに置いた手を結んで、耐えた。
声を荒げればきっと、何もかも壊れてしまうと思った。自分自身も、彼も。全て。



「だってアスラン。貴方がここに来たときもし私が起きていたら、貴方はどこかへ行ってしまったでしょう?」



ぎこちない会話を交えて、もしくは無言のまま、置いて行ってしまったでしょう?



「もし、あのとき私が目を開けてしまえば、止めてしまっていたでしょう?」



頬にキスを落とすことなく、去って行ってしまったでしょう?








貴方も。私も。何も変わらないのに。
変わったのは周りの環境だけなのに。

ただそれだけで離れていってしまうなんて。変わっていってしまうなんて。

















「アスランは私のことが、もう、嫌いになってしまいましたか?」



問いかけると、怯んだように身を竦めて、視線を逸らしながら、彼は言う。



「それは貴女の方でしょう」



吐き捨てるように告げられた言葉が痛くて、さらに強く手を結んだ。




「では―――――私が怖いのですか?」




強く、そう問う。
はっと顔を上げたアスランと目があって――逸らされた。
立ちあがり、顔を背けて苦い顔をしているアスランの顔に手を添えて、無理矢理こちらを向かせる。
かち合った瞳が、弱く揺らいでいた。




「アスラン」



呼びかけると、びくりと身を震わせた。
こんなにも、怯えてさせてしまうほど―――――私は変わったのだろうか。貴方の中で。




「私は、私ですわ」




ゆっくりと、言い聞かせるようにそう告げた。




「貴方の記憶にある私も、今こうしている私も、同じ私なのです」









貴方も。私も。何も変わらないのに。
ただ、貴方の中の私が変わってしまったというだけで離れていってしまうというのなら。



それほどに、それ以上に、悲しい事があるでしょうか。









「私の瞳は、それほど貴方にとって厳しいものなのですか?」



ただ開いているだけで、背を向けたくなるほど。厳しい、辛いものなのだろうか。
もう、微笑みかける事すら出来ぬほど、目を背けたくなるようなものなのだろうか。







「アスラン、お願いです」



添えていた手を離して、あわせていた視線をおろして、絞り出すような声で告げた。





「私を、見て下さい」








小さくかすれた声が力なくそう告げて、何かが崩れ落ちた後のような静寂が舞い降りた。







FIN.
―――――――――

アス←ラク? てゆかやっぱりここはどこ。

お題13の『キス』の続編。続けるなっつーの。
前作が余りにもアスランかわいそうだったので続けて書いたというのに、
書いたら書いたで余計辛くなってしまったと噂に名高い続編です(死)
この分だとまだ続けないと収集つかない・・・・どのお題でやればしっくり終わるかな。



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