「「………すっげ〜」」
目の前に広がる花畑や広大な桃の果樹園に、スタンとカイルは目を丸くした。
今までの逃走エリアが正真正銘の『地獄』であったことに対し、この桃源郷は正真正銘の『天国』である。
「リアラとか来たら滅茶苦茶似合うだろうな〜……」
「ミントとかコレットも来れたら良かったのにな」
おっとり清楚系の女子たちには、確かにこの風景は似合うだろう。
しかし、残念ながらミントとコレットは不参加。リアラは今閻魔殿エリアにいる。
さらに言えば、このおっとり親子も似合わなくもない。
「……て、あれ?」
「ん?あ、ジュード?」
親子が地獄門近くの草むらの中に、グッタリと横たわる黒いモノを見つけた。
前のミッション後にバテて死んだ(笑)ジュードだ。
「おーい、ミッションお疲れ」
「ありがとうジュード、お陰で逃げやすくなったよ!」
「…………」
「……あ、回復した方がいいかな?」
「でも父さんも俺も回復技持ってないよ?」
「ジュード〜、自分で自分に回気功とか出来ないのか?」
無理言うな。
「どうしたの?」
地獄門から声がした。
今一番いて欲しい回復術持ち。地元では『天使』の異名もとっていたシェリアだ。
「そんな風に呼ばれてたの私!?……て、そうじゃなくて!
ジュードじゃない。もしかして、さっきのミッションで体力切れ?」
「そーみたい。シェリアって確か回復術持ってたよね?」
「ぇえ…?この場合、普通の回復と蘇生のどっちやればいいのかしら……?」
疑問はごもっとも。
しかし、開放されたばかりのエリアとはいえ、あまり固まって長居はしたくない。
ましてやここはまだ地獄門の前。
ハンターも入ってくれば、すぐに発見されてしまう。
「とりあえず、レイズデッド……!?」
「見つけた〜〜!!」
詠唱が終わり天使の幻影が現れると同時に、甲高い声が門から聞こえた。
猛スピードで迫って来る銀髪のお団子頭。ハンター・アルタークだ。
「術、失敗してたらごめんなさい!」
「ぅわ!?」
「あ!カイル!?」
「………………………え?」
術の途中で逃げ出すシェリアと、つられて走り出すスタン。
その勢いに着いていけず転倒するカイルに、蘇生したてで状況がわからないジュード。
「と〜う♪」
そんなカオスな逃走者団子の中に、飛びつくようにアルタークが両手を広げて飛び込めば。
結果は明白である。
RRRRR……
【確保情報
カイル・デュナミス、ジュード・マティス 確保。
残り27名】
「……………なんか、主人公ばかり確保されてないか?」
閻魔殿内の人気のない廊下。
クロエの独り言が空しく響いた。
その頃。
「あ〜〜、まだ頭痛いよ。本当に手加減って言葉を知らないよね、あの朴念仁!」
「俺からしてみれば100%白澤様の自業自得です」
「桃タロー君ひどい!」
桃源郷の薬局『極楽満月』で、白澤はようやく引いたタンコブの跡を押さえながら鍋を掻き回していた。
結局あの後鬼灯に場外ホームランされた白澤は、現在急ぎで薬を作っていた。
「はいはい。
でも白澤様、いい加減告白して玉砕するなりなんなりしてくれないと、鬱陶しいんですけど」
ボチャンッ
薬匙が鍋の中に落ちる。
ギギギと音がしそうな動きで振り返った白澤の顔が赤いのは、鍋の湯気や熱のせいではないようだ。
「なななななな………ナニヲ言ッテルノカナ桃たろー君?」
「分かりやすすぎだろアンタ」
ため息と同時に桃太郎は持っていた生薬を下ろす。
「嫌い嫌い言いながら、暇があれば構いに行くし。
薬の納品の時には、わざわざ手作りのお菓子や疲労回復薬をオマケしたり。
女の人にもやらないことを、あの鬼灯さんにだけしていたら、誰だって気付きますって」
色々と駄々漏れだったことを今更ながら指摘され、白澤の顔はますます赤くなる。
「う〜〜……なんか、恥ずかしい」
「多分みなさん知ってますよ。気づいてないのは当のお二人だけです」
「……桃タロー君、どうしたらアイツとイチャイチャできると思う?」
「知るか」
「弟子が冷たい!」
本格的にいじけ出した白澤を白い目で見る。
このままではいつまで経っても薬は出来ない。めんどくさい爺である。
「アンタそれでも百戦錬磨(笑)のスケコマシですか。
いつものナンパテク(笑)はどうしたんです?
今までのアプローチで気づいてもらえなかったなら、方向を変えてあからさまに迫ったらいいじゃないですか」
なげやりにも程がある口調で言ってやれば、さっきまでのは嘘泣きだったのかとばかりに白澤の表情が変わる。
「そっか、そーだよね!引いてダメなら押してみろ!
さっさと押し倒して既成事実作っちゃえばいいんだよね!」
「(あ、これアカンやつ)」
妙な方向に吹っ切れてしまった白澤を見ながら、桃太郎は鬼灯の報復が自分に来ないよう、それは必死に祈ったという。
残り130分。
「な?シングだって思うだろ〜〜?」
「はぁ…………」
花街の一角でゼロスの愚痴に捕まったシングは、ひたすらミッションでおいしいとこ取りをしたジュードへの恨み言を聞かされていた。
「ミッション成功させてミラにアピールしといて、それで確保だぜ?
ミラの性格からしたら、ジュードへの好感度うなぎ登りよ。
ほんとズルくな〜〜い?」
「ジュードはそんなつもりでミッションやったわけじやないと思うけど………」
「かー!シングはいいのかよ?大事なコハクが『ジュードさんステキ!』てなっちまっても」
一瞬考えた………が、何故か『味噌』という越えられない壁がある以上、大丈夫な気がしてきた。
「うん、コハクなら大丈夫かな」
「マジかよ〜、すげぇなその信頼!」
ふと、ゼロスがシングの背後を見て
目を見開いた。
だがそれも一瞬で、すぐに元の表情に戻る。
そのままさりげなくジリジリと後退するが、シングはまだ気付いていない。
「むしろ俺達の知ってる女の人ってみんなしっかりしてるから、逆にそういうのは…………て、ゼロス?」
「っ!?じゃあなシング!後は任せな〜〜!」
「え?」
ポンッ
シングの肩に軽い衝撃が。
見れば藍髪の女性ディセンダーが、慈母神のような笑顔で立っていた。
「牢獄の場所は分かるな?閻魔殿の正門前だ。
じゃあ、迷わないように行くんだぞ。
…………待てこの穀潰し神子がぁぁあああああぁぁぁぁぁ(ドップラー効果)!!」
慈母神から般若に顔を変えたルーナシエラの後ろ姿を、シングは回らない頭でポカンと見ていた。
RRRRR……
【確保情報
シング・メテオライト 確保。
残り26名】
「……また主人公が確保されてる」
主人公ポジションの奴は目立つのか?と、クロエは自分の相方が心配になった。
だが、シングの名誉のために言っておこう。
『だいたいはゼロスのせい』だと。
【牢獄deトーク】
ルーク「結構時間経ってんのに、まだこんだけしか確保されてないんだな」
ガイ「まぁ最初の方に確保された俺たちが言えたこたじゃないがな」
シング「あはは……; でもこの調子だと、誰かが逃走成功する確率ってかなり高いよな」
ルカ「そうだね。もしかしたら二人以上出たりして(笑)」
?「何呑気なこと言ってんのよアンタたち」
ルカ「!その声は!」
スレイ「アニメの宣伝で来てみたけど、面白そうなことしてるんだな!」
ベルベット「まったく、アンタたちそれでも私たちの先輩?」
カイル「あ〜!ZとBのメンバー勢揃いじゃないか!」
ジュード「あ、アイゼンさん。汗引きました?」
アイゼン「ここにフェスティバルネタを持ってくるな」
エドナ「お兄ちゃんこそメタ発言はやめて」
ガイ「どうしたんだ?そんな大所帯で」
ロゼ「さっきも言ったでしょ?『ゼスティリアX』の宣伝!まぁついでに先輩方の陣中見舞い?」
エレノア「正直、大人数でぞろぞろと伺うのはどうかと思ったんですが………」
デゼル「この土地特有の生き物も見てみたかったしな」
ロクロウ「地獄ならどんな強いヤツがいるかと思ってな!」
マギルゥ「ぶっちゃけエレノアとアリーシャも、天国産の桃スィーツ目当てじゃぞ♪」
アリ&エレ「「それは秘密の約束です////!」」
ミクリオ「………そのスィーツを作るの、多分僕なんだろうな」
ライラ「ふふ……楽しみにしてますわ♪」
ライフィセット「でも、あと二時間くらいで20人以上残ってるんでしょ?本当にたくさん逃げ切れそうだね」
ザビータ「甘いぞマオ坊。むしろこれからが勝負だ」
カイル「え?そうなの?」
ベルベット「確かに、スタミナ的にはそろそろピークよね」
ジュード「過去のゲームからしても、ミッションも厄介なのが出てくると思うよ」
ルーク「どっちにしろ、今の内に時間かせいで、逃走人数は保たせたいよな」
ロクロウ「でも本当に面白そうだよな。俺たちも参加したかったぜ」
ザビータ「まったくだな」
この会話を聞いたゲームマスターは、システムを新たに追加した。
RRRRR……
【通達
新しいシステムを追加した。
残り時間が130分になると、Zより導師一行8名、Bより災禍の顕主一行6名、総勢14名が『通報者』としてゲームに参加する。
通報者は逃走者を見つけると、笛を鳴らして居場所をハンターに教える。
ハンターだけでなく、彼らからも上手く逃げてくれたまえ】
新システム『通報者』の追加
たまたま遊びに来た新タイトルメンバーが、通報者としてミッションに参加することになった!
彼らは残り時間130分〜30分の間、逃走者を見つけるとホイッスルを鳴らし、ハンターはその音を聞き付けると、全力でその場に確保に向かう。
もちろん通報者も、逃走者の追跡が可能だ。
実質ハンターの追加に準ずるこのシステム。
果たして、逃げ切れるのか!?
2017.11.29