ミッション終了まで:20分

 

「逃げれる場所が増えるなら、やるしかないだろ!」

 

最初にミッションに挑むことを決めたのはシングだった。

現在地も黄泉平坂と衆合花街の間と、かなりちょうどいい。

 

「多分あっさり開くわけないだろうから、先にコハクとかに連絡して手伝ってもらって………」

 

作戦を立てながら、その足は黄泉平坂に向けて走っていた。

 

 

 


同時刻。

 

「え、門って…これよね?」

 

トコトコと地獄門に近付くのは、小柄な体格を生かして、ずっと黄泉平坂の柱の影に隠れていたルビアだ。

柱は人が10人で囲める程に太く、天井も見えないほど高いので、放出されたハンターたちにも気付かれなかったようだ。

 

「あ、あれ?開かないよ」

 

門を開けようと、押したり引いたりとガチャガチャ動かすが、一向に開く気配はない。

よく見るとドアノブに鎖が巻き付いており、南京錠がついていた。

 

「鍵がいるってことかな?………あ、すみませ〜ん!」

 

ルビアが声をかけたのは、ハンターのフライング放出を防いでいた二人。

地獄の門番である牛頭と馬頭だ。

レイモーンの民で見慣れているからか、獣人の怪物にも動じない。

 

「あの、あそこの鍵ってありますか?」

「あら、桃源郷に行きたいの?鍵なら白澤様が持ってるわよ〜。

さっき花街の方へ出掛けられたわねぇ」

「あの神(ひと)すごい女好きだから気をつけてね。貴女とっても可愛いから」

「あ、ありがとうございます!」

 

顔を赤くしての礼は、情報提供へなのか『可愛い』と言われたことになのか。

少し疑問に思うがとりあえず置いといて。

 

無理に動けばハンターに見つかる可能性が高くなる。

ルビアは再度柱の影に隠れると、今聞いた話をメールで一斉送信した。

 



『ルビアです。

今アタシ黄泉平坂にいてて、門のすぐ近くで隠れているんですが、門に鍵がかかってます。

ハクタク様って神様が鍵を持って花街にいるらしいので、誰か貰いに行けますか?

すごい女好きらしいので、女の人は気をつけてください!』



 

 

 

 

 

黄泉平坂から閻魔殿に向けて、全力疾走する男がひとり。

何か叫んでいるようだが、ドップラー効果でいまいち何を言っているのか……

 

「ルゥゥウウウウウクゥゥウウウウウ!!!」

 

……大変よくわかった。

 

「どこだ牢獄!あぁルーク、俺が離れたばっかりに確保なんて!」

 

過保護もここまでくると病気である。

 

「今行くからなルーク!………あ!ちょっと君!」

「ひぇ!?」

 

ガイが肩を掴んだのは、ハンターであるはずのラオティール。

声を聞き付けて確保に来たはいいが、ガイの剣幕にビビって見なかったことにしようとしたらしい。

 

「君はハンターだろ?なら牢獄の場所を知ってるよな?

…というか、俺のルークを確保したのは君か……?」

「ひぃいい〜〜っ(泣)」

 

 

 



RRRRR……

 

【確保情報

 

ガイ・セシル(自分から)確保。

残り30名】

 

 

 

「「「バカじゃねぇの」」」

 

 

 

残る逃走者たちの心がひとつになった。





 

 

 

 

「花街にいる……ハクタク様、ねぇ?

あ、ルビアちゃ〜ん、メールありがとね〜〜vV

俺サママジで頑張っちゃうよ〜〜vVvV

 

安定のゼロスが衆合花街で、門の鍵を持つという白澤を探す。

 

「それにしても、さっすが花街!

可愛いコがいっぱいで俺様困っちゃう〜〜♪」

 

隠れていた妓楼の店先から姿を出し、人混みに紛れて移動する。

周囲は角の生えた和風の鬼女ばかりであるが、鬼は人間より体格もよく、また髪色のバリエーションも豊かであるためか、

西洋風の容姿の逃走者たちが紛れても大して目立たないようだ。

 

「(にしても、女好きなカミサマってどうよ?

まぁミトスだってマーテル様大好きのシスコン天使だったし、案外神なんてどこの世界でも似たようなモンなのかね〜〜?)」

 

自分のことは完全に棚上げか。

 

「(……っと、やべ!)」

 

前方から人混みでもわかるほどの闘気を察知し、慌ててゼロスは物陰に身を潜めた。

 

「―――ですか、貴女方の世界にもいるんですね。女タラシの極楽蜻蛉が」

「まったく。どこの世界にも穀潰しというのはいるものです。確保次第、すぐに性根を叩き直して―――」

 

「(あっぶねー。ルーナのやつ、現地民に聞き込みしてやがる。

どんだけ仕事真面目っつーか殺る気満々じゃないの!)」

 

基本、ハンターは自身で逃走者を知覚(実際に姿を見る、または声を聞く)しなければ確保できない。

が、そこに至るまでのルールは今回明記されていない。

つまり、聞き込みもOKという訳である。

 

黒い道着を着た一本角の鬼と連れ立って、ルーナシエラは通過していった。

どうやら気付かれなかった……というより、話に夢中になりすぎて周りが見えていなかった、という方が正しいか。

 

「―――……ふぃーーっ、行ったか。

ってかそれもしかして俺のことなのルーナちゃん?

(ま、話してた内容だと、こっち方向に例の神様はいないってことだな)」

 

いたらルーナシエラが『制裁』していただろう。

そんな騒ぎは起きていないから、違うということだ。

 

何せ花街は広い。

現時点での逃走エリアの40%近くを占めている。

 

ゼロスはルーナシエラと鉢合わせしないよう警戒しながら、探す方向を別へと変えた。






 

 

 

 

「………………」

「………………」

「(き、気不味いよぅ〜〜!)」

 

花街の入り口で鉢合わせしたのは、ヴェイグ、リオン、ルカの三人だ。

基本的に無口な二人に挟まれて、ルカはすでに涙目になっている。

 

「あ、あの!リオンさん、なんかイライラしてるみたいだけど、どうし……」

「……(睨)」

「ひぃ!?」

「……ちっ、お前にじゃない。ルビアのメールを見たからだ」

「え?」

「メールにあっただろう、『女好きらしいから女性は気をつけろ』と。

僕は神は嫌いだが、女好きで軽薄な男はもっと嫌いだ」

「リオン、少しジューダスになっているぞ」

 

ヴェイグさん、ツッコむところはそこじゃない。

どうやらリオン(ジューダス)はエルレインやフォルトゥナより、ロニの方が見ていてイライラするらしい(笑)。

 

しかし、リオンは黒髪で小柄であるからともかく、

「斬るぞ」

………失礼。ともかく、銀髪に身長もあるヴェイグとルカが固まればさすがに目立つ。

ハンターに見つかる前に無事に鍵を見つけることができるればいいが。

 

「あ、三人共いいところに!」

 

人混みを掻き分けてきたのはジュード。

髪型も服装も医学生時代のデフォルトで、民俗調の全身黒づくめ。

日本地獄にうまく溶け込んでいる。

 

「どうした、鍵を手に入れたのか?」

「それなんだけど………」

 

ジュードに手を引かれ、三人は刑場寄りの区画に移動する。

すると。

 

「冷え性には薬もだけど、温めるのが一番だよ〜〜。

てことで、今夜どう?君みたいな可愛いコはいつでも大歓迎しちゃう〜〜vV

「やぁだ、白澤様ったら〜〜////

 

鬼女のみで構成された人の山の中心から、男の声が一人分。

どうやらこの声の主が白澤らしい。

 

「………これは」

「ぇえ……

「なんというか………」

「ね、僕だけじゃ声かけ辛くて………色んな意味で」

 

ミラがいてくれたら、とジュードが遠い目をする。

さすがにこの女性だらけの中に、男が一人で突撃するには勇気がいる。

 

「で、『みんなで行けば恐くない』作戦か」

「うん……いいかな?」

「時間もあまりないからな、急ぐぞ」

 

一番背の高いヴェイグが鬼女の山をかきわけながら進み、残りが後をついていく。

ようやく山の中心に着いて見れば、白澤とは黒髪の白衣を着た優男であった。

 

「ちょ、何?割り込みはやめて欲しいんだけど」

「いや、あんたが白澤神か?」

「そうだけど?」

「桃源郷への門を開けて欲しい。一緒に来てくれないか。」

 

その瞬間、白澤は心底嫌そうに顔を歪めた。

 

「え〜〜?なんで患者でもない、しかも男の言うことなんか聞かないといけないのさ。

門は開けてあげるけど、せめて女の子たちの診察が終わるまで待っててよ。

あと1時間くらいだから」

 

この神、想像以上のダメ男のようだ。

どこかの誰かを思い出したようで、リオンの短い堪忍袋の緒が切れた。

どこの誰かは知らないが。

 

「お前!こっちは急いでるんだ。さっさとしないと……」

 

ヴェイグを押し退けリオンが前に出ると、白澤の目がリオンに向いた。

そのまま上から下までじっくり見定めると、さっきまでの顔はなんだったのか、デレッと締まりのない笑みを浮かべながらリオンの手を握り出す。

 

「いや〜〜、こんな可愛い娘がいるなら早く言ってよ〜〜vV

うんうん、今すぐ門を開けたげるね♪

あ、ちなみにこの後ヒマ?」

 

「「「「……………………………は?」」」」

 

あまりの変わり身の早さに、四人はついていけず呆然とする。

どうも白澤は、リオンを本物の女子だと思っているようだ。

………走りにくいから、とスタート直後にマントを外していたから、ミニスカ+タイツの女性に見えないことも……ない、のか?

 

「………さすが『胸までタオル』」

「あ、温泉イベントの?」

「公式ってたまにとんでもないことするよね」

 

「その話を持ち出すな!!」

 

その間にも白澤は遠慮なくリオンの腰を抱いたり、さりげないセクハラを続けている。

武器を没収して戦闘行為を禁止しておいてよかった。秘奥義何回分の報復が起きるかもわからない。

白澤は死なないけど。

 

「や、やっぱり鍵だけ貸してくれればいい!

本当に急ぎだから自分で走った方が早い!」

「つれないな〜、でもそんなところも可愛いよvV

はいコレ。使ったら極楽満月って薬局に預けといてくれたらいいからね♪」

 

白澤は鍵をリオンに渡すと、同時にコメカミにチュッと………。

 

「あ、リオンが立ったまま気絶した」

 

誰からでもなく、ルカたちは合掌した。

 

とりあえず気絶中のリオンの手から鍵を回収し、白澤の鬼女の山から抜け出す。

やっとのことで脱出し、なんとなく右側を見ると。

 

「!まずい、ルーナだ!」

 

ヴェイグの声に右を見ると、100mも離れていない場所に藍色の髪の女性ディセンダーが確かにいた。

向こうもこちらに気づいたようで、とんでもない速度で向かってきている。

 

「走れ!」

 

一斉に走り出す三人。

果たして逃げ切れるのか!?

 

 

 

 

 


ミッション終了まで:あと12分

 

 

 

 

2017.09.19

黄泉平坂と衆合花街の間は、ハンターを気にせず走れば7分くらいの距離を想定しています。