衆合地獄・花街。

その一角にある飲食店の片隅で、カイルは自分に宛がわれた携帯電話を握りしめていた。

 

「どうしよ〜…リアラともはぐれちゃったし………。

どこだよここ〜……」

 

RRRRR………メールだ。

 

「うわ!?……え、何?『通達』?」


 

【通達

今回君たちを確保に向かうハンターは、これまでのゲームで登場したアンドロイドではない。

正真正銘、君たちの知己だ。

彼らが君たちの特性を知っているように、君たちも彼らの追跡をかわす方法を心得ているだろう。

うまく相手の行動を読み、逃走に挑んで欲しい。

健闘を祈る】

 








 

「え、ってことは、あれ本物のルーナ達だったんだ」

 

メールを閉じながらコハクは戦略を考える。

たまたま居合わせていたミラが「知り合いなのか?」と問うた。

 

「あぁ、ミラはツイブレからの参加だから会ったことないか。

知り合いっていうか……マイソロに出演したときに一緒に戦った仲間だよ。

四人とも『ディセンダー』っていって……ぶっちゃけチートステータスな人たち。

……あ〜でもそーかぁ…あの四人が来てるってことは………月詠も来てないワケないよね〜……」

 

シング大丈夫かなぁ、お尻無事だといいけど。

そんな心配をし出したコハクに、ミラは頭上に『?』を飛ばす。

 

「そのツクヨミ?というのは、どんな奴なんだ?『尻が無事』とは一体……」

 

 

 



「「「見た目はボン・キュッ・ボンの傾国レベル美女。

中身はセクハラ変態ホモ親父。

ストライクゾーンは6歳〜60歳男性全般の、最強最悪最凶ディセンダー」」」




 

 

 

あちこちに散らばった逃走者たちの間で、かつて彼女(彼?)に会ったことのない参加者への説明文が、ピッタリ一致した。

 

 







残り時間:173分

現在賞金:4200ガルド

 

「お、スゲー。どんどん賞金上がってる」

 

携帯の画面に表示されている賞金額のカウントを見ながら、ルークは地面に腹這いになっていた。

 

ここはスタート地点に程近い、閻魔殿の中庭。

たくさんの金魚草が群生している区画である。

 

ルークは『ドラゴンバスター(ナム孤島のミニゲームで手に入る、全身緑なあの衣装)』に着替えて金魚草の中に突入し、周りの色と同化していた(←保護色か)。

 

「にしても……何だろコイツら。地獄っていうし、魔物かなんかかな」

 

たまに目が合う金魚草たち。

そう、『金魚草』といっても、現世で見かける可愛らしい草花ではない。

1mはあろう茎の上のに、でっぷりとした金魚(魚)がそのまま乗っているのだ。

 

風に吹かれてゆらゆら揺れながら、時折「おっぎゃあああああ!」と鳴き声(?)を上げる。

ちょっと怖い。

 

「(動物?植物?どっちにしろジェイドが喜びそうだな。

てかコレって茎折っても生きてるモン?

そもそも持って帰れるとして、どうやって運ぼう………)」

 

悶々と考えているルーク。

その近くに…………ハンター・アルターク。

 

「(あ、ルーク見っけ)」

 

揺れている金魚草の中で、低い位置で固まっている赤毛がかえって目立っていたようだ。

だが、ルークは気付いていない。

 

「(一応金魚なんだよなコレ。前にナタリアが飼ってたのに似てるし。

あれ?でも金魚って水中の生き物だよな。

周りに水なんて全然ないし………やっぱ草なのか?

でも草だって魔物じゃないと鳴いたりなんかしねぇし………)」

 

ポンッ

 

「え?」

 

肩に軽い衝撃を受けてルークが振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた、銀髪のお団子頭。

 

「え?…………え?」

 





 

 

RRRRR…………

 

【確保情報

ルーク・フォン・ファブレ確保。

残り31名】

 

 

どこかでガイの「ルークゥゥウウウウ!!??」という絶叫がした。

 

 

 

 








その頃。

 

RRRRR………

 

「はい」

「すみません鬼灯さん、お忙しいところ失礼します」

「桃太郎さんじゃないですか、どうしました?」

 

閻魔殿内の高官執務室。

日本地獄の実質トップに君臨する鬼神・鬼灯の携帯が鳴った。

どうやら取引先の天国の漢方薬局の従業員かららしい。

 

「実は明日納品予定の薬なんですが、何一つ手付かずなのに白澤様が花街に行っちゃったんですよ。

どれも手間も時間もかかって、俺じゃまだ調合できないのもありますし………」

 

「ぁんの色ボケ駄獣が。わかりました、時間が出来次第、そちらへ強制送還しておきます」

「あの!本当にすみません!……お手柔らかにお願いしときます」

 

この会話を聞いたゲームマスターが、最初のミッションを発動させた。

 







 

 

 

RRRRR………メールだ。

 

「うわ!びっくりした〜」

 

不喜処の動物獄卒たちと和んでいたロイドだったが、着信音に驚いた犬獄卒に逃げられていた。

 

「えーと、何々?

【ミッション1

黄泉平坂の奥に地獄門を設置した。

残り時間150分までに開門できれば、新しい逃走エリア『桃源郷』が開放される】

え!?逃げれる場所が増えるってこと!?」

 

【ミッション1  逃走エリアを拡大せよ】

黄泉平坂の奥に巨大な門が出現した。

その向こうには、日本冥界と中国冥界の境である仙境・『桃源郷(広さ:ちょっと大きめの複合商業施設1つ分)』が広がっており、開門出来れば以降逃走エリアとして自由に出入り可能となる。

 

門の鍵は桃源郷の管理者である神獣・白澤が持っているが、残り時間150分になると、彼と犬猿の仲である鬼神・鬼灯の手により『場外ホームランby金棒』で鍵ごと桃源郷に送り帰されてしまう。

白澤自身は飛べるので、開門しなくても行き来は出来てしまう。

 

クリアのためには白澤から鍵を入手しなければならないが、ミッションに動くということは、それだけハンターに発見される危険が高くなるということ。

 

果たして逃走者たちは、どう動くのか?

 

 



 

 

残り時間:170分

残り人数:31名

 

 

 

 

脱筆:2014.11.30  加筆修正:2017.09.18