廻る回る《緋色の風車(Moulin Rouge)》綺麗な花を咲かせて
躍る踊る《血色の風車(Moulin Rouge)》綺麗な花を散らせて
「あの村です」
草木も眠る丑三つ時。
その丘の上には大きな騎馬兵隊がいた。
人数は三十に達しているだろう。
彼らの視線の先には、この数には不釣り合いなほどに小さな村。
首領と思しき男は不敵に笑う。
「よし…行くぞ! ターゲット以外の村民は皆殺しにして構わん!」
大声量の雄叫びと共に、騎馬隊は丘を駆け下りた。
一直線に脇目も振らず、ただ…村を目指して…。
―小さな掌に乗せた硝子細工…
小さな掌に乗せた硝子細工…
其の宝石を『幸福』と謳うならば…
其の宝石を『幸福(しあわせ)』と謳うならば…
其の夜の蛮行は時代にどんな爪痕を遺し…
其の夜の蛮行は時代にどんな爪痕を遺し…
彼等にはどんな傷痕を残したのか…
彼等にはどんな傷痕を残したのか…
運命に翻弄される弱者の立場に嘆いた少年は…
運命に翻弄される弱者の立場に嘆いた少年は…
やがて『力』を欲するだろう…
やがて『力』を欲するだろう…
其れは…強大な力から身を守る為の『楯』か?
其れは… 強大な力から身を守る為の『楯』か?
其れとも…より強大な力でそれをも平らげる『剣』か?―
其れとも…より強大な力でそれをも平らげる『剣』か?
「な、何だ!?」
突然の爆音にチェスターは跳ね起きた。
真夜中だというのに、何故か窓の外が秋の夕方のように朱く明るい。
隣りのベッドで寝ていたアミィも、自分と同じようにして目を覚ましたのだろう。
枕を抱えたまま呆然としている。
「お兄ちゃんっ、何…コレ…!?」
「わからねぇ…とにかく外に出るぞ!」
着替えもそこそこに、チェスターは弓を掴むと妹の手を引いて家を飛び出した。
瞬間、自分のすべての感覚を疑った。
家の外に在ったのは、いつもの見慣れた村ではなく…。
何が起こったのか 良く解らなかった…
炎上する家。 逃げ惑う人々の悲鳴。 肌を照らす火の熱。
家畜を屠る時のそれとよく似た音。 何かイヤなモノが焼ける臭、い……。
泣き叫ぶ狂乱(Lune)の和音(Harmonie) 灼けた屍肉(にく)の風味(Saveur)…
「何、だよ…コレ……」
無意識の内に、アミィの手を握る力が強まる。
それほどに日常から…否、人の世から掛け離れた景色だった。
朱く染まった視界の果てに、親友の家がぼんやりと霞んで見えた。
クレスは無事なのか、おじさんやおばさんは。
何が襲ったのか 良く解らなかったけど…
だがその前に、このままここにいるのは危険だと、本能的に悟っていた。
唯…ひとつ…此処に居ては 危ないと判った…
「アミィ、逃げるぞ!」
「え!? でもクレスさん達が……」
「あいつらなら大丈夫だ! それにこのままだと、俺達もヤバイ!」
僕は一番大切な《宝物(もの)》を
まだ迷っている妹の手を引っ張って、全速力で走り出す。
持って逃げようと → 君の手を掴んだ……
「目標と思しき村人を発見!」
「追え! 決して逃がすな!」
どこかで男の声がした。
何者なのか、何が狙いなのか。 まったく見当がつかない…訳がわからない。
それでも、たった一人残された大切な家族を守るために、ひたすら走り続けた。
こんな状況では木製の弓は意味がないから、焼け崩れる民家を避け、奴らの仲間であろう者の目をかい潜り。
嗚呼…訳も解らず息を切らせて走っていた二人
ただ、村の外を目指して……。
欲望が溢れだすままに暴れて奴等は追い掛けてくる……
やがて森に辿りつく。
星屑を辿るように…森へ至る闇に潜んだままで…
村が燃える明かりのせいで、星空が霞んで見えた。
村の奥深く、世界樹ユグドラシルの近くまでやって来ると、さすがにここには来ないだろうと、二人で茂みの中に隠れ潜む。
訳も解らず息を殺して震えていた二人
あれだけ徹底して破壊されたのだ。
アミィには前向きに言っていても、他の生存者は絶望的だろう。
チェスターはその中に、せめてクレスだけは含まれていないようにと強く願った。
絶望が溢れだすことを怖れて強く抱き合っていた――
「クソ…っ、何なんだよ一体…!?」
「クレスさん達…無事なんだよね…?」
「あぁ…アイツがそう簡単にやられるはずが
ザシュウッ!!
不意に、隣りでイヤな音がした。
頬に何か、生温い液体がつく。
一瞬何が起きたのかわからなかった。
宙を舞う妹の小さな体。その向こう側にいる巨大な馬と、それに跨がる甲冑の男。
手には赤黒く濡れた剣が……。
不意に君の肢体(からだ)が宙に浮かんだ →
「ぅわぁあああああ!!」
一気に現状を理解したチェスターはパニックを起こし、更なる森の奥へと逃げ去っていく。
すぐに男の部下らしい者が後をおったが、この先は地元民でなければ必ず道に迷う樹海…到底追い付けはしないだろう。
怯え縋るような瞳(め)が ← 逃げ出した僕の背中に灼きついた……
「…逃げて……っ、お兄……」
馬の嘶きと同時に、肉の潰される音がした。
―狂0105しい≪季節≫を経て…少年の≪時≫は流転する…―
狂0105[お]しい《季節(とき)》を経て…少年の《時》は流転する…
気付けば朝になっていた。
村は全焼し、跡形もなく…それこそ柱一本残っていない。
襲撃者も去っていったその跡地に、彼は無数の墓を築く。
廻る回る《緋色の風車(Moulin Rouge)》灼けつく《刻(とき)》を送って
親友は、親の使いで街に行っていたため無事だった。
躍る踊る《血色の風車(Moulin Rouge)》凍える《瞬間(とき)》を迎えて
最後に妹“だったモノ”を埋めた時、途方もない後悔が押し寄せてくる。
大事な家族を…かけがえのない妹を、たった一人で逝かせてしまった。
嗚呼…もし生まれ変わったら 小さな花を咲かせよう…
両親を亡くした時、ずっと傍にいると誓ったのに――。
ごめんね…次は逃げずに 君の傍で共に散ろう……
「ごめん…ごめんアミィ…っ!」
それはまるで、神に懺悔するかのような姿。
兄の手により葬られた妹が『上』へ昇っていく姿もまた、まるで≪天使≫に導かれているかのようで。
(Moulin Rouge)
そのすべてを見届けると、死を司る紫の人形は、次の水平線へと旅立っていった……。
其処に物語は在るのかしら――?
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