生まれ来る朝…死んで逝く夜…。
生まれて来る朝と 死んで行く夜の物語(Roman)… (「Laurant」)
廻り巡る生命の≪焔≫の環。
嗚呼…僕達のこの寂0302さは 良く似た色を0302た《宝石(pierre)》
『生』とは何か、『死』とは何か。
『存在』には何らかの意味があるのか。
生まれて来る意味 死んで行く意味 君が生きている現在(いま)
11文字の《伝言(message)》 幻想物語(Roman) 『第五の地平線』
(Ro-man… 「嗚呼…其処にロマンは在るのだろうか?」)
巨大な太陽と月が同時に浮かぶ空の下、広い屋敷の二階に“彼”は居た。
泣きながら僕達は来る 同じ苦0302みを抱き0302めて
艶やかな黒髪に白磁の肌。
笑いながら僕達は行く 遙か地平線の向こうへ
その容姿と小柄な体格から少女にも見えなくないが、彼はれっきとした男性である。
廻り合う君の唇に嗚呼…僕の詩を灯そう… (la
vie)
原色の赤と青のオッド・アイを持ち、目尻から頬にかけて右には『太陽』、左には『月』の紋様が刻まれていた。
彼の名は『エミリオ』。
気がついた時にはすでにこの屋敷に住んでいた者。
そして、『生』も『死』も持たぬ存在。
持たないがゆえ、彼には『生』も『死』も理解出来ない。
そもそも、何故『自分という存在』が存在するのかすらもわからないのだ。
やがて彼はバルコニーから屋内に入り、部屋の隅へと目を遣る。
泣きながら僕達は来る 同じ哀0302みを抱き0302めて
そこにあるのは古びた、それでいて豪奢なデザインの棚があった。
笑いながら僕達は行く 遙か地平線の向こうへ
そこに腰掛けているのは二体の“人形”。
廻り逢う君の唇に嗚呼…僕の詩を灯そう… (la
vie)
彼が自らの容姿に似せて造り、自身がかつて被った仮面(persona)の名を与えたもの。
僕達が繋がる《物語(Roman)》――
「起きろ。 【紫の夜】ジューダス、【青の朝】リオン」
エミリオが声を掛けた途端、人形達はすぐに目を開けた。
そのまま棚から立ち上がると、すぐに造り主たる少年の元へと歩み寄る。
「おはよう」
「おはようございます」
全く同じ顔が三つ。 しかし、本質はそれぞれ異なっていた。
ジューダスと呼ばれた人形は、漆黒の衣装に落ち着いた紫のマントを羽織り、どこか宗教軍の軍人のような出で立ち。
本人も物静かで、成熟した精神を窺わせるような物腰をしている。
リオンと呼ばれた人形は、鮮やかな青の衣装に淡い緋のマントで、一国の騎士のような姿だ。
ジューダス同様落ち着き払っているが、若々しさと活力に溢れていることが見て取れる。
生まれて来る朝と 死んで行く夜の物語(Roman)… (「Laurant」)
そしてその主人たるエミリオはというと、二人とは対照的に、少年らしいカジュアルな格好にコートを掛けているだけだった。
嗚呼…僕達のこの刹那さは 良く似た色を0302た《美花(fleur)》
しかし、何故か彼からは何も読み取れない。
敢えて言うならば……“虚空”。
「Bon soir(おはよう)、…お前達に今、敢えて問おう。
【死の夜】ジューダス、【生の朝】リオン」
エミリオは二人を連れて部屋を出た。静かすぎる廊下を進んでいく。
太陽の風車 月の揺り籠 彷徨える《焔(ひかり)》の物語(Roman)
彼ら以外には誰もいないはずなのに、掃除が行き届き埃一つ落ちていない。
壊れた人形 骸の男 時を騙る《幻想(やみ)》の物語(Roman)
勿論少年達が、この広大な屋敷を自ら掃除しているわけではない。
「生まれて来る意味、死んで逝く意味。 そして『僕』が存在する意味を調べてきてほしい」
やがて三人はある広間へとたどり着く。
何もないガランとしたその部屋にあったのは、一枚の鏡。
右腕には菫の姫君(C'est mademoiselle violette,qui
est dans la main droit.)…
この屋敷から、この世界から出るための出入口。
そ0302て(et)…
今いるこの場所以外、ただ荒野が広がるだけのこの水平線と、“外”とを行き来するための唯一の通路。
左腕には紫陽花の姫君(C'est mademoiselle hortensia,qui
est dans la main gauche.)…
「巡り来る『生』のざわめきと、廻り逝く『死』の安らぎ。
嗚呼…僕の代わりに廻っておくれ…其の世界には――
回り廻る生命のその環の中に、『僕』が生まれ…ここでこうしているに至る物語が在るのかを」
僕が生まれてくるに至る物語(Roman)はあるのだろうか?
そして、二人の手をしっかりと握り締めた。
手を離した時、ジューダスの右頬には“月の揺り篭”が、リオンの左頬には“太陽の風車”が刻まれていた。
いつかこの場所へと戻るための道標。
「さぁ…往っておいで」
(「さぁ いっておいで」)
「「Oui、monsieur(かしこまりました)」」
(「「oui, monsieur」」)
そして、二体の人形は旅立って行く――。
(「廻り来る生の騒めき 太陽の風車」)
(「廻り行く死の安らぎ 月の揺り篭」)
途中でジューダスと別れ、リオンが辿り着いたのはある海辺。
我等は彷徨える 追憶に揺れる《風車(moulin
a vent)》
空中に留まりながら周囲の様子を見ていると、崖の上に二人の人影が見えた。
廻り行く何の地平にも 詩を灯すで0302ょう……
どこか自分や片割れ、そして主人にも少し面差しが似ている女性と、それを支える金髪の男。
よく耳を澄ませていると、二人の話す声が聞こえてきた。
「あの子…結局『あの子』として生きられなかった。
物心ついた時にはもう、【仮面】を被せられていたのよ!?」
「わかってる…俺達みんなわかってるから、落ち着いて。
お腹の子に良くないよ」
「あんなに近くにいたのに…あんなに長く一緒にいたのに気付けなかった!
ゴメンね…護ってあげられなくて…こんな姉さんを許して…××××……っ」
そのまま泣き崩れる女性の姿を、リオンは目を見張ったまま見詰め続けていた……。
此れは――
此れは――
生まれて来る前に死んで逝く、≪冬≫のような少年の物語
生まれて来る前に 死んで行く僕(/Laurant)の物語(Roman)… (「Laurant」)
かつて彼が被った仮面…死ぬ為に生まれて来た≪双子の人形≫の物語
嗚呼…僕達はもう逢えなくても 現在(いま)を生きて往く《憧憬(Roman)》
そして…『現在』を生きてゆく君の物語――
――詠い(/さがし)続けよう → 君が迷わぬように……
(『朝と夜』の狭間 『焔』は揺らめき 『宝石』を掴もうと 『腕』を伸ばし 『風車』が廻れば
『星屑』は煌めき 『天使』が別れし 『美しき』幻想を 『葡萄酒』の陶酔(ゆめ)
に
『賢者』も忌避する 『伝言』の真意 『地平線』は識る)
嗚呼…其処に物語(Roman)は在るのだろうか――?
(右手に死を 左手に生を 傾かざる冬の天秤)
其処に物語は在るのだろうか――?
嘘を吐いているのは誰――?
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