『黒の預言書』 第12巻…741頁……
第十二巻 741ページ…


――二人の【剣士】…沈むのはいずれか……
二人の歌姫 沈むのはいずれか
















沈んだ歌姫















「何だよ! さっきから言うこと酷いぞリオン!」



炎の属性を持つソーディアンのマスター…スタン・エルロンは、
紅の歌姫と称されし フィレンツァ領主 フィレンツァ公爵家の令嬢

その年齢に不釣り合いな仕種で頬を膨らませた。
ロベリア・マリア・デッラ・フィレンツァの『手番(Turn)』


「確かに責任の大きな任務だけどさ、だからこそ緊張しちゃ駄目だよ!
遊戲盤(バン)の上を駒が進む 『聖都フィレンツァ及び南都ナポールタ → 赤の歌姫の後援都市(Firenza Naporta Patrono de Roberia)』

変に焦ったり気負ったりすると、逆に失敗しやすくなるってじっちゃんも言ってたし……」
歌え!『紅の歌姫(Roberia)』 目指す舞台は 『優雅にして華美なる(Elegante e Sfarzoso)』 麗しの王都(Romana)


それに対し、大地の属性を持つソーディアンのマスター…リオン・マグナスは、
蒼の歌姫と称されし ミラーナ領主 ビスコンティエ公爵家の令嬢

そんなスタンを歯牙にもかけず、毅然とした態度で言い返す。
ジュリエッタ・シモーネ・デル・ビスコンティエの『手番(Turn)』


「フン、田舎者独特の思考回路だな。 どこをどう見れば、僕が焦っているように見えるんだ。
代わる代わる駒は進み 『北都ミラーナ及び水都ヴァナラ → 蒼の歌姫の後援都市(Milana Venera Patrono de Giulietta)』

そんな甘いことを言うようで、【英雄志願】とは笑わせてくれる」
歌え!『蒼の歌姫(Giulietta)』 目指す舞台は 『優雅にして華美なる(Elegante e Sfarzoso)』 憧れの王都(Romana)


いつものように繰り返される口喧嘩。


もはや他の仲間達は慣れたもので、フィリア以外は止めようとも思わない。
紅く燃え上がる 情熱の歌声と
蒼く湧き出づる  清廉の歌声と

今回のきっかけは、毒を受けたことを黙っていたリオンが倒れたことによる。


奇しくもルーティのTPも減り回復薬すら切らしていたため、やむなく近くの町に泊まることになったのだが。
華やかな『容姿(Figura)』
穏やかな『微笑(Fuori fuso)』

アイテムの買い出しが終わった途端、リオンが単独ででも町を出発しようとしたのだった。



何とか宿まで連れ戻し、ある程度彼の体力が回復したところで、この喧嘩が勃発した。
私こそが『最高の歌姫(Resina)』


「僕達は一刻も早く、グレバムに追い付かなくてはいけないんだ。


さすがのお前も、この事が分からないほどバカじゃないだろう!?」


「そうだけど……っ! だからって無理をしていい理由にはならないだろう!?


何だってそんなに生き急ぐんだよ!」



その時リオンの脳裏に浮かんだのは、彼にとって唯一絶対の存在。
諸侯を巻き込んで 宮廷に蠢く影は

自分のことを、誰よりも理解してくれている女性の姿。
権謀の黒き『獣(Bestia)』 争いの『宴(Festa)』は続く


「…っ、煩い! 貴様に僕の何が解る!」


「ちょっ……待てよ!」



一人で部屋に引き上げてしまったリオンには、スタンの声も届かない。



『スタン、リオンのことは放っておけ。 結局我々は目的さえ遂げられればいいのだからな』


「そう…だけど……」


『あまり思い詰めるな。 これまでのリオンの行動で、害になったことは一度もないのだからな』



今回は単に、自己管理の問題だから不問。
田舎貴族の娘(Giulietta)  が望むには 不遜な 至尊の寶冠(Tiara)
色惚の年摶コ(Roberia)   が望むには 不遜な 至尊の寶冠(Tiara)


スタンもスタンで、リオンには何か策があるのだろうと、この日以来あまり気にかけなくなった。
頭上に戴くのは 紅の歌姫(Roberia)   こそが相応しい
頭上に戴くのは 蒼の歌姫(Giulietta)  こそが相応しい



(「王妃陛下万歳!(Viva! Evviva!)」)


(Chorus:「Ves, Viros, Wes, Lilis…」 「Eros, Vires, Eris, Viros…」 「Feno, Firis, Feris, Firos…」)









ファンダリアの内戦鎮圧をついでに、とうとうグレバムに勝利。
時はイタニア暦312年 国王モンテフェルトラーノ四世 突然の崩御


「フン…予想していたよりも時間が掛かったな……。」
「見なさいロベリア 今やナポールタの利がお前の手に落ちた」


『神の眼』を取り戻し、一同は飛行竜での凱旋となった。
若き王太子アレッサンドロ アレッサンドロ一世として即位


「あの男もよくやってくれた。 まぁ…死んでしまっては、ろくに礼も言えんがな」
「後はビスコンティエの小娘さえ退けば 晴れてお前が王妃陛下だ」


セインガルドとファンダリアの二国が協同し、封印措置が取られることに。
イタニア『最高の歌姫』を 王妃として迎えるという勅令を発布


「…元々用済みになれば、始末するつもりだったのでしょう?」
「あんな田舎娘に 私が負けるはずありませんわ」


ソーディアン勢の助言もあり、忌むべきこの巨大なレンズは、誰にも存在を知られることなく某所へと隠された。
野心を抱いた地方領主/門閥貴族 各々に歌姫を立て王都を目指し進撃


「フフフ……よく解っているではないか」
「おお そうだとも だが憂いは全て絶つに越したことはない」

「貴方の態度を見ていれば、嫌でもわかります」
「まぁ お父様ったら…」


しかし、その平穏も所詮は一瞬の瞬き。
駈ける駆ける『獣(Bestia)』

セインガルド王宮が管轄する倉庫に賊が侵入。 保管されていた飛行竜一基が奪われる。
高値で売れるなら娘でも売れ 売値は望む得る限り高く


「全ては計画通りに進んでいる…。 後は仕上げを残すのみ」
「下賎な歌姫など身分の卑しい売女も同じ まして逆賊の娘など売女以下の面汚し」


当時夜警を勤めていた兵士により、その賊が自国の客員剣士であることが判明。
猛る猛る『獣(Bestia)』

元よりこの国に、客員剣士は一人しかいない。
敵を売れ 味方を売れ 他人(ひと)の娘など底値で売りつけてやれ


「さぁ…かねてからのお前の仕事だ。 すべきことは…分かっているな?」
「可愛いロベリア…最高の歌姫はお前だよ…」


事態を重く見たセインガルド王は、世界各地に密使を派遣。
咆える吼える『獣(Bestia)』

散らばってしまったソーディアン・マスター達に召集を依頼した。
弑逆を謀った逆賊として デル・ビスコンティエ一門を処刑


「……すべては父上の御心のままに…」
「あら…頼りにしてますわ お父様」


集合したスタン達に、『神の眼』の奪取を依頼。
屠る屠る『獣(Bestia)』

オベロン社幹部、及び逆賊・リオンの追跡と、それに伴う討伐を命じた。
逃亡を図った国賊として デル・ビスコンティエ令嬢を処断
















「下賤な地上の人間よ。 無駄とわかっていながら、何故反抗してくるのだ。
「騙し騙され 殺し殺され よく飽きもせぬものだ

もはや天上の復興などどうでもいい…私に恥をかかせた、忌々しいあの剣共に復讐さえ出来ればな!」
全ては遊戯(Game)に過ぎぬ 予を生み堕とした この世界に復讐する為のな!」


『すみません坊ちゃん、貴方をヒューゴから守れない僕を許して下さい。
「ジュリエッタ…お前は最高の歌姫 我が一門の希望だ

僕は…僕だけは必ず、最期の瞬間まで一緒に居ますから』
私の権力(ちから)が及ばないばかりに すまなかったね せめてお前だけでも逃げなさい」


















追う者と追われる者。
逃げる乙女と 追い駆ける『獣(Bestia)』

一時的なものとはいえ、『仲間』であった者達が、こうも簡単に道を違え、相反することになろうとは……。
紅糸で手繰る 『操り人形(Marionetta)』


すべては【歴史】が定めた【運命】なのだろうか。
繰り返される 『歌劇(Lirica)』 『悲劇(Tragedia)』

今…再び≪悲劇≫と≪喜劇≫が繰り返されようとしている。
紅糸で手繰る 『操り人形(Marionetta)』


「リオン!」



ついに追い付いた、薄暗い海底の巨大な石牢…。


【炎の剣士】の視線の先には、【大地の剣士】が立っていた。
牙を剥いた『獣(Bestia)』 追い詰められた断崖


その小さな体に秘められた悲痛な叫び。 救難信号。


それを読み取ることなく、≪焔≫は全てを焼き尽くした……。
歌を奪われた歌姫 世界までも奪われ…














「(これで地上には空が…俺は『英雄』になれたんだ!)」
(「ロベリア!ロベリア!(Roberia!Roberia!)」 「ロベリア王妃陛下万歳!(Viva!Roberia Evviva!)」)


「…さようなら…マリアン……」
「お父様!!」
















蒼い空…碧い海…崩れゆく外郭…沈み逝く【剣士】…
蒼い空 碧い海 飛び去りぬ白鴉 沈み逝く歌姫


【裏切り者】リオンの没後 【英雄】スタン その名声僅か八年にして
歌姫ジュリエッタの沒後 王妃ロベリア在位僅か三年にして

異端神の聖女・エルレイン 千年前の亡霊・バルバトスらの共謀により 歴史の闇に沈む……
寵妃ビアトリジェ 宰相ガレアッツォらの共謀により 歴史の闇に沈む






















君よ驕ることなかれ


我等 歴史という大海に漂う小舟に過ぎぬ


盛者必衰 沈マヌ者ハナシ

























いつにも増して短めですね(苦笑)。

ネタは大学のサークルにいるオフ友から頂きました☆
言われてみれば、確かにオリDのスタリオはこの曲っぽいですよね。

…今ふと気付いた。 これやっちゃったからには、ジュダ、あるいはゾンビリオンで「海の魔女」やるべきでしょうか(汗)?