………。

ワタシは≪第六の書庫≫から其の地平線に≪意識と呼ばれるモノ≫を接続した…。

 

【彼等】は≪より強きモノ≫に流されやすい性質だった。≪運命≫とも≪必然≫とも≪因果≫とも≪摂理≫とも解釈される習性。

波瀾に満ちた人生の果て、二人は尊敬する存在からの愛情を得たいと胸の裡では望みながら、自身の願望に気付けない儘或る奸計を謀り、愛すべき存在を自らの手で貶め壊してしまう……。

 

此の悲劇の結末を左←→右すると予想される≪因子≫。

ワタシは【彼等】のe4baabe6a5bde4b8bbe7bea9を【否定】してみた…。

 

さて、箱の中の猫は、生きているのか?死んでいるのか?

其れでは、檻の中を覗いてみよう―――

 








 

 

 

 

 

唯…星は瞬く

 

 











 

 

 

「……フラれちゃったね」

「……そうだな」

 

去っていく赤い後姿を見つめながら、明確な返事を求める気もなく呟く。

 

「どうする?ヤっちゃう?」

「いや、ドライジュースは良くも悪くも有名だ。解散はすぐ島中に拡がるだろう。

手を出すにはマズいチームになった」

 

 

 







Miau♪ Miau♪

 

 

 







「……なぁ、ひとつ思い付いちゃったんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

 

同時に顔を見合せて、ニヤッとイタズラを思い付いた子供のように笑う。

 

「「東江を裏切ろう」」

 

それからの行動は早かった。

 















 

 

 

≪創世詩≫奏で始めた  ≪神話≫華やぐ時代

語り手は誰ぞ?  語り手は我等!

唄い手は誰ぞ?  唄い手は我等!

≪黒猫四姉妹≫

 



















 

 

 

「俺たちって、『長いものには巻かれろ』で来たけど、自分から事を起こすのってしたことなかったよな」

「ホントホント。あのままの方が楽だったのに、な〜んでこんな事思い付いたんだか」

 

かつて自分たちが東江の命令でやってきた犯罪行為。

東江財閥が陰で行っている人体実験。

プラチナジェイル内で秘かに実行されている闇商売。

その他、数え上げればキリがない諸々を、すべて匿名でネット上にバラ撒いた。

 

政界との癒着もあるから、すぐには警察も動かないだろう。

その代わり、世論からのバッシングへの対応で、しばらくは動けないはずだ。

 

「……て、思ってたんだけどなぁ」

「意外に早かったよね」

 

 

 

 

Where could the love really come from and fade away?

The two men a twin sees who chose the way against “Moira”.

They are the “Nein”.

 

 

 

ナイフを手に襲ってくる男を、躊躇うことなく殴り飛ばす。

視界の端で相棒が銃に弾を込め直しているのが見えた。

 

ウィルスが想定していたよりもずっと早く、東江からの追っ手がついた。

思えば異国の少数民族とはいえ、一族皆殺しにしても揉み消せる力があるのだ。

とはいえ、これ以上二人に機密情報を漏らされても困るのだろう。

東江口封じのため、交渉の余地なく始末するつもりらしい。

 

「それにしてもしつこいな……まるでお伽噺の蠍だ」

「あぁ。なんだっけ、レオンティウス?」

「スコルピオスだ」

 

銃声。同時に追っ手の一人が眉間に孔を開けて倒れた。

続けてトリップが別の追っ手を蹴り倒す。

とりあえずこれで一段落だ。

 

「で、どっち行く?この国来たばっかだし、陸続きで北上?」

「いや、すぐに船で南に渡ろう。まだこの国にいると思わせたい」

「りょーかい」

 

ネットの炎上騒ぎを見届けるとすぐ、二人は海を渡り、碧島どころか日本からも脱出していた。

島を出る前に別れを告げたあの可愛い人は、今も元気でいるだろうか。

 

追っ手を騙すために人目を避けて移動しているせいか、港につく前に夜になってしまった。

発展途上のこの国は街と町の間に何もない。

危険な野生生物はいないはずだから、適当な場所で野宿となった。

 

「あ〜あ、こんな所で寝るとか考えられねぇ……」

「仕方ないだろ。ほとぼりが冷めるまでの我慢だ」

 

透明度の高い泉の傍で火を焚く。

ウィルスが地図を見て今後の行動を思案している間、トリップは暢気にも伸びをしながら周りを散策している。

 

「おー、すげぇ。月がメチャクチャでかい」

「周りに光を遮るものも、余計な光源もないからな」

「あ!ウィルス、ウィルス」

 

トリップが泉のほとりで手招きする。

嘆息して近寄ってみれば、水面に蒼い月が映り揺れていた。

 

「この色、蒼葉そっくり」

「……確かに、あの人の色だな」

 

敬愛する人によく似た色。

ずっと欲しくて、憧れの対象であり続けている人。

 

水面に手を伸ばしそうになったが、今はまず何よりも。

運命共同体となった相棒と顔を見合せた。

 

「また蒼葉さんに会うためにも、まずは逃げ延びないとな」

「俺たちならヨユーっしょ」

 

硬く互いの手を握り合い、目指すべき目標を改めて誓った。

 



たとえどれだけの朝と夜を繰り返そうとも。

どれだけの海と大地を隔てようとも。

いつか必ず、再びあの人に逢おう、と。

 

 

 











 

「おい聞いたか、日本で行方不明者が続出だとよ」

「へ〜、あの平和な国がねぇ。一体世の中どうなってるやら……」

「まったくだ……」

 

寄せては返す波音に紛れて聞こえる、今や遠い国となった故郷の噂話。

一瞬島に何かあったのかとも思ったが、まだ炎上からさして間がない。

いくら揉み消せたとしても、こんなにすぐ東江が動けるわけがないと考え直した。

 

「このままどこかに腰を落ち着けて、足場を固めてから蒼葉さんを迎えに行くっていうのもアリだな」

「いいねー。そん時は南の島にしようぜ。蒼葉寒いのニガテだし」

 

なんて、新婚生活を夢見る乙女のような妄想を、ガタイのいい男二人がしたところでキモチワルイ。

だが悲しいことに、ツッコミ役が存在しなければ、そもそも日本語が解る者もいなかった。

 

「場所が決まったら、オールメイト達にも新しい機体をやらなきゃな」

「AIチップしか持って来れなかったもんね。蒼葉、モフモフ好きだし」

「……ヘビもいいもんだぞ」

 

どちらのオールメイトを彼の人が気に入るか。

くだらない言い合いにらしくもなく夢中になり、ウィルスの足許が疎かになった。

 

「ぅわっ!?」

「ウィルス!」

 

トリップより頭ひとつ小さいウィルスを支えたのは。

 

「おいおい兄ちゃん、この季節に海に落ちたら風邪引くぞ」

 

珍しく、日本語が話せる船乗りだった。

 

「おっ!ドローンのおっちゃんじゃん!」

「知り合いか?」

「前の町の酒場でちょっとね」

「おぉ、トリップのイカサマ坊主じゃねぇか。久しいな、まだくたばってなかったのか」

 

ガハハと豪快に笑う船乗りの言葉に、大体の事情を察した。

どうせ賭博でやらかしたのだろう。

 

「あ、ちょーどよかった。俺たち船探してんだけど、乗っけてくんない?」

「あん時のリベンジさせてくれんなら、いいともー!」

 

 





 

 

 

そうして渡った別の国。

たまたま遭遇した、東江の手に因るだろうライマーたちの脳へのサイバージャック。そして廃人化。

東江への攻撃も兼ねて妨害したいが、あまりにも数が多くて

 

「キリがない」

「だねー」

 

「待ってくれ、助けてくれぇええ!!」

 

脳を……精神を破壊されたライマーの断末魔を、背中に聞き流した。

 

 








 

 

 

     
     

     

     

     

     

     

     

     
     

 

 

 

 

 

やっと落ち着いた南の小島。

きっと今も日本や世界のどこかでは、東江の暗躍による誘拐事件や民族掠奪が続いているのだろう。

 

だが、そんな物はもう関係ない。

相棒と最愛の人が傍にいる。

昔には考えもしなかった穏やかな暮らしを夢想し、幸せを噛み締めてはいけないだろうか?

 

 


 

『別にいいんじゃない?』

 

どこかで、複数の少女の声が聞こえた気がした。

 

 

 



 

「トリップ。蒼葉さん、こういう壁紙好きかな?」

「んー、もうちょい大人しめの方がいいんでない?」

 

大事な人を呼び寄せるための家造り。

危険な日本の、しかも碧島に居させたままよりは、この遠い異国の地へと遠ざけたい。

なんなら彼の家族たる老婆も一緒でも構わない。

 

…………置き去りにした、かつて世話係を勤めた彼の人の兄を思い出す。

あの兄弟には、その力を以て成すべきことがあるのはわかっていた。

だから、兄を見捨て、弟を囲おうとする自分たちは、きっとどうしようもない極悪人だろう。

 

 

けれど…………

 

 

「だから蒼葉さんには白とかの寒色系が似合うんだって!」

「似合うのと好みなのとは別っしょ。実際蒼葉、赤とか黒の服も持ってたし!」

 

大事な人へのプレゼントを巡っての喧嘩すら楽しくて仕方ない。

それこそ、空が黄昏を過ぎて宵闇に染まったとしても飽きないくらいに。

 

「そもそもタエさんも来る予定ならそっちの準備もしないとだろ」

「それこそ蒼葉と一緒に選んだ方がいいんでない?俺たち、あの婆さんの好みとか知んないし」

 

まだ本人たちに話を切り出してもいないのに、気が早いにもほどがあるが。

【家族】で過ごす家造りをしている時は、かつての自分たちの所業を忘れさせてくれた。

彼の人の笑顔で頭が一杯になると、まるで世界が輝いているように見える。

 

 

 

 

俺たちは今、最高に幸せだ。

 

 

 

 








たとえ投げ掛けられた問いに迷い、答えを間違え、世の中に混沌をもたらしたとしても。

唯ひたすらにあの人からの愛情を求め、後悔と嘘を重ねても、星が空から堕ちようとも諦めない。

 

「東江!黄様の野望もここまでだ!

すでに証拠は揃っている……。

これ以上被害者を出さない内に、今ここで黄様を逮捕する!」

 

【いずれ死すべき者たち】がどれだけ俺たちの前を通りすぎ、時代の波に呑まれても構わない。

【英雄】など現れず、代わりに【奸雄】が蔓延ろうが、決められた≪運命≫に従うなんて真っ平だ。

俺たちは、俺たちの道を往く。

 

「果たしてそう上手くいくかな?」

「何!?」

「残念だったね、君の言う証拠はすべて回収させてもらった。

あの二人が余計なことをしてくれたおかげで、本土の警視庁関係者を被験体にできたものでね。

さぁ、君には舞台から降りてもらおう。…………殺れ」

「ぐああ!」

 










誰かを犠牲にしたとしても一向に気にしない。そうして俺たちはここまで生きてきたんだ。

  かみ
『≪運命≫に背く赦されざる咎人』だと謗られようが、それがなんだっていうんだ。
              せかい
故郷より平和より、何より≪地平線≫より、俺たちにとっては唯ヒトリ、あの人だけが至上で至尊なのだから。

 

                                  かみ
それでも「戻れ」と誰かが言うなら、「『あの人』を舞台に上げろ」と≪創造主≫が言うなら、逆に言ってやる。

「そんなに言うなら自分でやれ」と。

 

    かみ    ころ
結果≪摂理≫を≪否定≫した≪地平線≫でも、俺たち二人が揃ってさえいれば何だって出来る。

 

何も畏れる必要などないのだから。

 










「これで日本はすべて私の手に落ちた。諸外国もまもなく白旗を挙げるだろう。

神との賭けは、私の勝ちのようだな……!」

 

 

 

「ずっと頼りにしてるぜ、相棒」

「あぁ、当然だ」



















BACK