雷を制す者
世界を統べる王と成る
【アルカディア皇太子:Σκυαλλ=Λεων】
風にまじって血の臭いがする。
まだ年若いにも関わらず、彼はそれに慣れ切ってしまっていた。
正妃から生まれたというだけで、年の離れた異母兄から王位継承権を奪い。
その母が元々雷神神殿の巫女だったからと、雷神の眷属として祭り上げられ。
そして10歳で迎えた初陣から今まで幾年月、数多くの人間の命を奪い続けた。
(…見事な道化だよな、俺も)
自分に出陣な命を下しているのは、父王ではなく…その裏にいる評議会。
その掌の上で踊っている、自分達や敵軍…。
自嘲の笑みが彼から漏れた。
とにかく人と接するのが嫌で一人でいようとする内に、いつの間にか彼は『孤高の獅子』と呼ばれるようになっていた。
「――か、スコール殿下!」
「…何事だ、フリオニール」
雷神の力が込められているという愛剣を手入れしていると、誰かが自分を呼びに来た。
駆けて来たのは、彼の乳兄弟にして最も信頼を置く臣下。
自分の側についたばかりに評議会から睨まれ、共に戦場を転々とする者の一人だ。
「はっ! 殿下の雷剣と我が軍の武勇に恐れを成したのか、神域を侵していたラコニア軍は、撤退し始めたようです」
「………わかった」
もうすぐここも終戦するだろう。
敵国は間もなく降伏し、アルカディアの属国となる。
(となると今度は東…アナトリアか)
あそこも異民族の侵攻が激化しているという。
次に飛ばされるとしたら、まずそこに間違いないだろう。
(何が神託だ…馬鹿馬鹿しい)
各神殿の巫女を通して下る神託は、抽象的な表現の…一遍の詩のような形であることが多い。
解釈によっては全く異なる内容になるというのに、女神と自己を過信している老人達は、、今頃風神の加護厚き王都で好き勝手やっているのだろう。
『青き銅よりも強かな 鉄を鎧う獣が
風の楯をも食い破り 流る星を背に 運命に牙を向く』
これがスコールが17歳の時に下りた神託。
この時すでに『獅子』の異名を取っていたため、評議会の連中はこぞってスコールを排斥しにかかった。
実際、今アルカディア他各国で主流となっている青銅より、
南方の小国で採掘される鉄の方が頑強であると、当時すでに証明されていた。
しかし、あれから五年経った今でも、鉄はなかなか手に入らないほどの高値。
評議会はスコールがその国と手を結び、謀反を起こすとでも思ったようだ。
権力者が政治や一般の民よりも、まず我が身の安全を優先させるのは、いつの時代も同じことである。
この神託により、スコールは王子でありながら都に帰ること叶わず、
その都の方でも、ただでさえ難攻不落の城壁を、さらに強化する工事を進めているらしい。
「何かお考え事でも?」
「……別に」
頭の中で思考が循環していく内に、つい相手に対してぶっきらぼうになってしまう。
他の人間相手では軽く諍いが起きるのが通例だが、そんなスコールのことをフリオニールはよくわかっている。
「はは、殿下はお疲れのようだ。
ここは我々に任せて、貴方はお休み下さい」
どうせあとは相手の降伏を待つだけで暇なのだ。
フリオニールの言葉に甘えて、スコールは自分に宛がわれたテントに戻る。
鎧を外し、剣を手がすぐ届く場所に立て掛けて横になるとすぐ眠気が襲ってきた。
《雷神の眷属》と呼ばれても所詮は人間。
スコールは疲労から深い眠りへと落ちていった――。
太陽 闇 蝕まれし日
生まれ堕ちる者 破滅を紡ぐ
「……ール、スコール」
あれ? ははうえ?
じゃあちかくにいるのは…ははうえのゴエイキシのウォーリアと、ジジョのセーラ?
ふたりとも、きゅーにやめちゃったんだよなぁ…
「スコール、ご覧なさい…。
雷神の血を分けた、貴方の兄弟ですよ」
「おめでとうございます、殿下!」
「殿下、立派な兄君におなりなさいませ」
きょうだい…? ぼくに、おとーとかいもーとがいるの?
さっきからきこえる、このこえがそうなの?
ふたりぶんあるから…もしかして、りょーほー?
「妃陛下! 王陛下が、例の神託の件でお呼びです!」
「そんな…! あぁ…女神よ、何という仕打ちを…っ」
「××××様! ご案じなさいますな。 ここは私めにお任せ下さい!」
ウォーリア…? ぼくのおとーとたちを、どこにつれていくの……?
目が醒めた時、スコールは夢の内容を忘れていた。
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