「刃のような銀髪に緑の目……、あの者と戦ってはなりません」
「何故です、母上」
出陣の準備をしていたスコールの元に、敵将の身体的特徴を知った王妃が止めにやってきた。
銀髪も緑眼も淘汰されやすい遺伝子。
よってそれらを併せ持つ者は大変珍しい……知り合いか何かなのだろうか。
「貴方は平凡な生より、英雄としての死を望むというのですか」
「母上…死すべき者達が、私を待っているのです」
「行かないでおくれ、あの者は……っ」
「はっ!」
「レオン! 嗚呼…スコール=レオン!」
そして――【歴史は駈け廻る】
「セーファ将軍に続けぇえ!!」
紅く燃える戦場。
名を変えたセフィロスは各地で解放した奴隷達で一軍を築き、今、アルカディアへと攻め入ろうとしていた。
「小雨がちらちらと煩わしいな……」
敵軍が射る矢の雨をそう揶揄したのは、最初に彼についていった金髪の青年。
彼は側近として、軍師として、セフィロスの側にいた。
「はは。 奴等、安全が保障されてるトコからじゃねぇと、ろくに弓も射れないみたいだな」
茶髪の青年が笑う。
彼は一個師団を率いる隊長首席である。
「弓兵は相手にしなくていい。
ルーネス亡き今、奴等はただの雑魚に過ぎん」
「将軍、あちらさんの指揮官はどうやら……」
「猪突猛進しか知らない馬鹿のようだな」
「先に言うなよ!」
最後まで続けようとした言葉を横取りされ、茶髪の青年が年齢に似合わず憤慨する。
セフィロスは敵軍の実力や攻勢、戦略などを読み、見極め、判断した。
「クラウド! お前の部隊は左。 バッツ! お前の部隊は右から回れ。
挟撃するぞ!」
「了解」
「オッケー!」
そして彼は、故郷に火を放った。
冥府の王より授かった剣の前では、どんな者であれ只の屍と化す。
ささやかな夢や未来さえ、与えてやる隙など許しはしなかった。
変わり果てた彼等のその唇に接吻する者は、故郷に残してきた愛する人ではない。
唯…飢えた禿鷹が屍肉を啄むのみ。
名実共に死神達を率いた彼は次々と同胞を屠り、ついに風の王都への侵攻を開始した。
「久しいなぁ、イリオン…我等、忘れはしまいぞ!
お前を守る楯が、誰の血によって築かれた物かをなぁあ!」
「号令を閣下ぁー!」
「突撃ぃいい!!」
一方その頃。
「陛下! イリオンが落ちました…!」
「何?」
「件のセーファ率いる、奴隷部隊の仕業のようです…っ」
別の戦場にも王都落城の伝令が伝わり、その場にいた者を戦慄させた。
評議会の傀儡と成り果て、民に圧政をしていた父王が暗殺され、紆余曲折を経て即位したスコールだったが、
相変わらず王都にはあまり帰れず、こうして伝令によってでしか故郷の情報が入って来なかった。
しかし、それにしても……。
「(馬鹿な…風神の加護篤いあの城壁を……)」
「風神が軍属、英雄エクセデスをも討ち倒すほどの武勇!
奴もまた陛下と同じく…神の眷属なのやもしれませんぞ!」
そして、スコールは決断した。
「セシルは東夷に、ゴルベーザは北狄に各自備えろ!
俺はイリオンへ戻る…フリオニール、供を!」
「「「はっ!」」」
「大丈夫だ、俺達は【雷神に連なる者】…全員生きてまた逢おう!」
戦場を駈け抜ける白馬。
スコールは道中、各地で負け色の濃い自軍を鼓舞して回る。
「諦めるな! 運命は残酷だが、彼女を怖れるな!
女神が戦わぬ者に微笑むことなど、決してないのだからな!」
そしてそれは、セフィロスの軍も同じだった。
落ちたとはいえ、まだイリオンには抵抗するアルカディア軍が残っている。
その排除に苦戦していた。
「怯むな! 人間は皆、何時までも無力な奴隷などではない!
戦うのだ、気紛れな運命と未来を取り戻す為に!」
女神の手に導かれ、【遂に出逢いし二匹の獣】。
「奴がアルカディアの…憎い地の国王…ミーシャの仇!」
「勇者ラグナが仔、スコール=レオン。 俺が相手になろう!」
「望むところだ!」
奪い合うのは時代の覇権などどはない。
人間の生命など、流星の煌めきのごとく、過ぎ去ってしまえばあまりにも刹那。
それでも尚、銃剣と長剣の鍔鳴り合いが終わらないなは、それが【運命の女神】の意向であるが故。
例え英雄と呼ばれようと、人の身である以上…去り逝くのが運命。
そして…銃剣は弾き飛ばされる。
「セーファ…アルカディアの同胞であるお前が何故、東夷の侵略に加担するんだ」
「祖国が私に何をしてくれた…? 愛する者達を奪っただけではないか!
笑わせるなぁ!」
怒りに任せ、拾った銃剣を槍のように投げる。
刃を本来の主に向け、真っ直ぐ飛ぶ其れの前に立ちはだかるのは。
「おやめなさい!」
「母上!? …っ、がぁあ!」
「ああっ!」
スコールが咄嗟に抱き込んでも無意味。
勢いのついた流さのある刃は、簡単に二人をさし貫いた。
崩れ落ちる影。
か弱い手がセフィロスに向かって伸ばされる。
「レオン…セフィ……おやめなさい………ぁぁ……」
事切れた母。
最期の言葉と幼い日の記憶が重なり、薄れ行く意識の中、スコールはすべてを悟った。
「…そういう、ことか……Moiraよ……っ」
そして、獅子も旅立った。
「…どうして……」
黒い影が二人から何かを抜き取るのを見ながら、残された一人はただ立ち尽くす。
もう誰も知らないはずの本名。
それに由来する相性を、見ず知らずの人物に呼ばれた。
……違う、見ず知らずではない。
現に先の王妃の死に顔は、妹の最期の表情とよく似ていて………。
「ぁ…あ……あああああああ!!」
突き付けられた真実が受け入れ難く、頭を抱えて崩れ落ちる。
近付いてくる馬の足音が、どこか夢のようだった。
「俺を置いて逝くな! 言ったろ、お前を殺すのはこの俺だ!!
スコー―――っぐ! が…ぁ…」
呼ばれるであろう名を聞きたくなくて、セフィロスは愛刀を閃かせ馬ごとそれを切り裂いた。
金髪の男の死体は、母子の死体の手前に横たわり……それを無感情に見つめる彼は。
「(……あぁ、そうか)」
すでに、正真正銘…本物の死神と化していた。
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