――自由か死か…

歴史に刻むのは彼等が生きた戦いの証













あの哀しみの夜から無情にも月日は流れ。

青年の目にはいつしか、昏い焔が宿るようになっていた。


水に映る月を得るために、片割れは神の犠牲となり。

空を飛ぶ鳥のような自由を求めた自分は、どんな海よりも深い絶望を味わった。


実際には水月も太陽の光にかき消され、鳥も嵐によって、為す術もなく地に墜ちるというのに。


すべてはそれらを司る神々の、『摂理』という名の気まぐれや悪戯……。

そんな物を代償を払ってまで欲しくはないと、万物の母に背を向けた彼は何処へ行こうというのだろうか。



気がつけば、“アレ”の親玉であろう黒い巨大な影が、常に自分の背後を付き纏うようになっていた。


『ヤァ、仔ョ。 失ゥコトノ堪ェ難キ痛ミニモ モゥ慣レタカィ?』

「うるさい!」


払っても払っても消えない影。 朧げではあるが、セフィロスにはわかっていた。

『自分はこいつの眷属にされたのだ』と。


大事な者はすべて奪われ、それでも尚生きている自分にも絶望した。

それはもはや、死者も同じなのかもしれない。


何もないのだ。 希望など遺されていないのだ。

もう、自分には……。


「(…いずれ人は必ず死ぬ。 生命とは喪われて然るもの。 それならば)」

せめてもの復讐を。





彼は影の手を取った。












あの日の少年――

運命に翻弄され続けし者――

黒き剣を取った彼の復讐劇が始まる














忌むべき記憶と、目の前の光景が重なる。


後ろ手に縛られ、鞭打たれながら重い足取りで歩く若者達。

中にはまだ子供といえる者までいた。


市場としてはまだ規模も小さい方で、商人も『商品』も、買い手も極僅か。

それでも、幼い頃の自分が受けたものと全く同じに見える。


「おら、さっさと歩けぃ!」

「もたもたしてんじゃねぇよ!」


あれから十年以上経つ。

それでも改善されるどころか、むしろ悪くなっている。


血汐を流しても愚行は繰り返され、不幸は延々と起き続ける。


真に平等であるのは“死”だけであると知っていても、何が奴隷とそうでない者を分けるというのだ。

セフィロスは剣に手をかけた。


「こんのガキ…ブッ殺して――っ!?」


市場に響く悲鳴。 視界一杯の紅。

やがてそれは黒へと変わり、事切れた商人の体を染めていく。


「いつまで繰り返すつもりだ…Moiraよ!」


殺気だって躍りかかる男達を睨みながら、セフィロスは剣を閃かせた。






















地面全体が紅黒く染まる中、彼は黙々と奴隷達を解放していった。

縄を切り、檻を開けるが、それを咎める者はすべて、すでに冥府へと送られていた。


「人は皆、運命の哀しい奴隷だというのに、その奴隷が奴隷を買うなど…笑えぬ喜劇だ」


血溜まりに恐怖しながらも、奴隷達の目は常に彼を追っていた。


見せつけられた強さと、圧倒的なカリスマ性。

研ぎ澄まされた刃のような長い銀髪に魅せられ、体がいうことをきかない。


「お前達はまだ諦めるほどの絶望を知らない。 己が運命に抗うのだ。

無力な奴隷のままは嫌だろう?」


耳が自然と、彼の言葉を吸収していく。


「剣を取る勇気があるなら……」


最後の一人の縄を切った時、彼はその人物に剣を向けた。






「私と共に来るがいい」




























男が去った後、すぐに大勢の奴隷がその場から逃げ出した。

残ったのは僅か数人。

その中には、最後に縄を切られたあの青年もいた。


彼は自由になった自分の手を見つめ、しばらく茫然としていたが……。

やがてその青い目に焔を宿し、立ち上がった。


「お待ち下さい…!」


あとの数人も、彼に続いた。




















――自由か死か…





















     縦
     糸
     は
     紡
     が
     れ
     |
     |























時代は廻る 緑眼の狼と呼ばれし男

各地の奴隷を率いて 異民族が統べる鉄器の国へと奔った



神が持つ永遠に比ぶれば 人間は刹那

冥闇は世界を侵し 英雄達は流る星へと消えて逝く



傀儡と化した王 かつての勇者を射た星屑の矢

其の射手を刺したのは虚皇の罠 其の虚皇を屠ったのは孤高の獅子

死せる英雄達の戦いは未だ終わりを告げず――



東方より来る足音 運命に導かれ やがて二匹の獣は出逢うだろう……






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