いつの世も 星屑は人を導き 人を惑わす

生を憂う盲目の少年にも 愛と嫉妬に狂う少女にも

その光は同様に降り注ぐ……

















天井が全面ガラス張りとなった一室。

神殿に仕える女官達の中でも、限られた巫女しか入ることを許されないその部屋で、アルティミシアは星空を眺めていた。


闇の中に灯る無数の星。

占星術の術式に則り、星女神の言葉を読み取っていく。


「星女神の馬車は、地へと向う対の風…。

御子が射る矢……嘆くのは、【獅子宮】…?」


見つけた星の、正反対の方向の空を見た。


天球儀や世界地図と照らし合わせながら、先程見つけた星座と対称の位置に見慣れた星を見つけ、

ついで所定の方法で位置を割り出した場所に、大きく鎮座する星を見た。


「詩女神の橋は、紫へと至る終の虹…。

天球の随に…揺れる【双子宮】……運命の随に…堕ちる【乙女宮】……」


どういうことなのだろう。 この星座達の相互関係がわからない。

何度も星空や手元の資料を見比べるが、結果は同じだった。


これらが意味するものとは――。


「…まさか……」


他の星との関係性はまだわからないが、思い当たることがひとつあった。

しかし、もし本当にそうだとしたら……。


「セフィ…私、どうしたら……」


時に天は人を試すかのように、大きな難事を降らす。

それに対し、人は抵抗するどころか疑うことすら出来ず、唯…甘んじて受け入れることしか出来ない。


例えそれが、哀しい運命だと知っていても……。
















そして…闇夜に紛れ、招かれざる客はやって来る。

















「探せ!」


神殿を乱暴に訪れたのは兵装の闖入者。

暗闇に慣れた目を凝らせば、彼らがアルカディア軍の小隊であることがわかる。


どこかで見たことのあるような軍服の男達を、アルティミシアは柱の陰に隠れたまま見ていた。


「貴方がた…夜分突然にいかなる用向きですか」


こそこそと逃げ出す他の女官達とは逆に、凛とした態度で男達に対峙しているのは、

エアリスの教えを忠実に体現しているティナであった。


「ここを星女神の神域と知っての狼藉ですか。 無礼は赦しません!」

「うるせぇ! …お前、ここの巫女か?」


男の言葉に、アルティミシアは耳を疑った。


「我らの主マティウス殿下に、巫女を捧げよとの水神の神託が下った。

貴女に恨みはないが、主のため犠牲となって頂く」

「(あの星並びは、やっぱりそういう意味だった…!)」


極稀に、神々が生贄を求めることがある。


それに対して、犠牲を支払った人間はその神の眷属として迎えられ、強大な力を手に入れることが出来るという。

その代わり神託を無視したり、間違えて遂行した場合の代償も大きい。


そして……。
彼らの言動・星々の並び・神託の内容から、該当する人物は唯一人。


このままではティナが連れて行かれてしまう。

更には神の要求とは異なる人物を差し出したことで、神が怒り、アルカディアにどんな神罰を下すか……。


「(ごめんね、セフィ。 誰かを犠牲にしてまで、私は抗えない)」


儘…運命に従うでしょう……


「待って下さい!

その神託が指している巫女とは、私です。 ティナは一介の女官に過ぎません。

連れて行くなら、私にして下さい!」


「ミーシャ…っ」







唯…星は瞬く









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