旅をするようになって、多くの物を見聞きするようになった。
その中にはもちろん、幼い頃から見ていた、あの黒い闇も……。
実際、先程すれ違った旅人の背後には、付き従うようにソレが控えていた。
本人は至って元気そうだったが…近い将来、不慮の事故か何かに巻き込まれてしまうのだろう。
「自分の運命を知らずに生きる…か」
自らに残された時間も知らず、風のように自由に行き交う彼らに、
少なからず、憧れにも似た感情を抱くことがある。
女神の悪戯でソレが見えてしまう自分には、到底あそこまで旅を楽しむことは出来ないだろう。
「ミーシャ……」
今はとにかく、生き別れた妹と。
セフィロスは新たな情報を手掛かりに、ただひたすらに足を進めた。
東方国境防衛戦に参加するため、スコールは自軍を率い、女王アレクサンドラ率いる女傑部隊と交戦していた。
血と煙の臭いが充満する戦場で、彼は信じられないものを見る。
「サイファー!? あんた、どうして……」
彼はかつて、共に武芸を学んだ同門。
アルカディア軍の小隊長として北方に駐留していたが、東方国境戦…つまりこの戦争が始まった頃から、小隊ごと行方不明になっていた。
それが今こうして、敵方の捕虜として自軍にいるといいことは……。
「祖国を裏切って、北狄と通じていたのか…」
「はっ。 どんな理由があろうと、女を殺すなんざ俺の美学に反するからな。
笑いたきゃ笑え。 そんで『裏切り者』として始末すりゃいいさ」
あくまで自身の信念を貫こうとし、いっそ清々しいまでに居直るサイファーに、スコールは軽く眩暈がした。
幼馴染みで、年齢もさほど変わらない。
なのに彼は自らの立つ場所を好きに決めることが出来、自分は評議会に躍らされるまま……。
彼は、こんなところで死なせていい人材ではない。
「…断る。 かつての友人を斬れるような、安い剣を俺は持っていない」
「へ〜、いいのかよ皇子サマ? ……気に入った!
いつかそのバカ高ぇプライド、俺様がへし折ってやる!」
「ミーシャ、風邪ひくよ」
「あ、ティナ。 ほら見て、山が綺麗ですよ」
星女神の神殿に来てから、もう何度目かの秋。
山々はすっかり朱に染まり、稜線も茜空に照らされ輝きを増す。
どこか懐かしい景色に、アルティミシアは幼い日の記憶を呼び起こした。
『ずっといっしょにいようね』
『うん!』
『いこ、ミーシャ』
『セフィ〜』
「セフィ……」
記憶の中ではまだ舌足らずだった兄。
風の都で再会した時には、あまり会話することはなかった彼も、生きていれば立派に成人しているだろう。
「大丈夫…絶対生きてる……」
どこかにいるであろう魂の片割れ。
彼もまたこの景色を、自分達を見守る双星を見ているのだろうか。
西方駐留軍ではすでに、スコールの戦績が話題の中心となっていた。
誰もが次の王を褒め讃える中、一人…奥歯を噛み締める男がいた。
マティウスである。
「あんな女の…雷神に連なる血がそんなに大事か……。
スコール=レオン…貴様さえ生まれて来なければ……」
口許を手で覆い、誰にも見えないよう歪んだ笑みを浮かべる。
「妾腹と蔑むなら蔑むがいい。 世界の…王になるのはこの、私だ…!
ククク…フハハハハハハ!」
星は瞬き、地上を照らす。
死すべき者達は醜い争いを繰り返し、自らの同朋を冥府へと送り続ける。
廻る廻る、運命の回転木馬。
輪廻は地平線を跨ぎ、物語を久遠に紡ぎ続けるだろう……。
泣き虫だった兄…彼が剣を取り、己が道を貫く戦士となるならば。
お転婆だった妹…女神の言葉を詠む巫女となった彼女は楯を取るのだろうか。
誰も知らないところで歯車は廻り続け、いずれ…次の地平線へ繋がる扉となる。
その時、歴史は語るのだろう。
【死せる者達の物語】を……。
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