時を運ぶ縦糸――


命を灯す横糸――



其を統べる紡ぎ手……


其の理を《運命》と呼ぶのならば――




















母なる者は命を運び


冥王は其を奪い続けた




仔等の天秤を傾けるのは


背に纏う黒き闇の重み




朝と夜は幾度も繰り返し


邂逅と別離が世界を彩った




地に蔓延りしは生者の群れ


































冥 府































――ピチャン



光の届かぬ地の奥底…。 固く閉ざされた門の先…。

重く立ち込めたる闇の中に“彼”はいた。


暗黒の中で自ら光を発しているような長い銀髪を翻し、『王』たる彼は岩の回廊を進む。

その歩みを促すかのように、無数の黒い影が道を譲っていた。


間もなくここに、新入りが二人やってくる。

その歓迎の宴の準備のために、彼は自らの弟妹を呼びに行っていた。


闇に同化するが如く黒い衣服と、骨そのものの白い顔ばかりの眷属達の中で、彼らの存在は酷く目立つ。

何せこの中でまだ血肉があるのは、彼ら三人だけなのだから。


弟妹達は王とは真逆の金糸の髪をしており、顔立ちが似通っていなければ、とても彼の身内とは思えない。


「…何か用?」


弟が王に問う。

髪と同じ色をした彼の尻尾が揺れた。


「わかっているんだろう? 新入りの歓迎会の準備を頼むよ」

「またなのね…。 まったく、ここのところやけに多いじゃない」


妹が呆れたように上を見上げる。


彼女が見つめるのは、岩が剥き出しの天井ではない。

その先にある、光が溢れる世界だ。


「仕方ないだろう? 今地上では、愚か極まりない争いが続いているんだから」

「それが原因の奴ばかりじゃないけどな」


弟が妹の意を汲んで続ける。


先日は、醜い権力争いに敗れた不運な歌姫。 その前は、両手どころか全身が血に染まった花嫁。

皆眷属達に導かれ、この闇の中へと堕ちて来た。


最近特に多いのは、相手が他人であれ自分自身であれ、“人間”の手によって故意に殺められた者――。







ギィ……







遠くで門が開く音がした。

例の新入りが到着したのだろう。

「ほら、もう来たみたいだよ。

今回は二人とも、僕みたいな綺麗な銀髪をしているから、丁重におもてなししてあげてね」

「ナルシスト……はいはい、わかったよ」


弟妹の金髪が闇に溶けていったことを見届けると、彼は口許を弧に歪めた。

それはいっそ、妖艶なほどに。



……彼は『王』。

真の名など、とうの昔に忘れ去った。


ただ…彼のその性質から何時の頃からか、人間達からは“死神”と呼ばれるようになっていた。


「さぁて……冥府の宴を始めようか」


彼の銀糸もまた、闇に溶けていった――。






























死すべき者…即ち人間


其に寄り添う者として 母なる者は“
”を生んだ




他の神々からは虐げられ 常に遠ざけられた


人間からは畏れられ 恒に忌み嫌われた




光ノ射サヌ冥府ノ闇デ 我ハ永キ時ヲ悩ミ続ケタ



我ハ何故ニ生マレタノカ?


我ハ何故ニ殺メ続ケルノカ?





母上――



貴柱ガ命ヲ運ビ続ケルノナラバ










嗚呼…
Θハ――――







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