Neid






















「硝子の棺。 眠る【姫君】。
君は何故、この境界を越えてしまったのか。

さぁ、唄ってごらん…」



























『真雪の肌は白く、黒檀の髪は黒く、血潮のように溢れる才能』。
ある年の冬に母がそう望み、その通りに生まれた僕。

まるで女が生まれることを望んでいたみたいで最初は何となく不快だったが、執事曰く、

「姉君のことがありましたから、もし女子でも捨てられることのないように、との奥様のお気持ちの表れでしょう」

ということだったらしいから、気持ちは全く反対になった。

男を望んでいた父に殺されかけ、捨てられた姉。
もし僕が女だったとしても、戦いの才能があれば二の舞は回避出来る。

僕を捨てたくないという気持ちは勿論、姉のことも気にかけてくれていたという訳だから、これほど嬉しいことはない。

実際僕が男とわかった時、母は大変喜んだそうだ。
親子として暮らせる、その望みが叶ったのだから。

…しかし、僕が生まれて間もなく、母は身体を壊してしまい。
物心つく頃には、遠くへと逝ってしまった――。










「ベルセリオス。 この世界で一番、才に溢れるのは誰だ?」
『それは貴方、天上王陛下でございます』










唯一残った肉親である父は、僕を道具としてしか見ていない。
『生きたければ強くなれ』と言い聞かせられ、『役立たずは必要ない』と脅され、絶えず剣の修行に明け暮れた。
時折亡くなった母が恋しくて堪らず、肖像画や使用人に縋ったこともある。

一人で思い出を抱きしめて、部屋の隅で小さくなる。
そんな月日を重ね、やがて成長期を迎えた――。












「ベルセリオス。 この世界で一番、才に溢れるのは誰だ?」
『それは貴方、天上王陛下――でしたが。
今では彼、少年客員剣士』
「何だと!?」











「レンブラント! 彼女を一体どこへやった!?」
「マリアンでしたら、すでにダイクロフトの方へ行って頂いています」

海底洞窟での件で、運良く別の避難経路を見つけて助かった僕。

洞窟で死ぬか、助かってもソーディアンマスター達に手を貸さないことを条件に、マリアンを返して貰うはずだった。
しかし、実際にはマリアンは地上に帰って来ておらず、逆にレンブラントが刺客として送られてきた。

「話が違う! 僕が協力すれば、無事に安全なところへ逃がしてくれるはずではなかったのか!?」
「私も本当は人質など卑怯な手は使いたくなかったのですがね――」

「ならば何故!」
「ヒューゴ様は、すべてにおいて一番でいたいらしいのです。
未来に無限の可能性を秘めた貴方が邪魔なようで……」

あの男にしては意外な理由だ。
だからといってこの命、以前ならともかく、そう易々とくれてやる義理もない。

マリアンを取り返し、かつ生き延びるためには――。

「それなら僕は姿を消し、二度と世の表舞台には出ないと約束しよう」
「それなら私にも策があります。
その辺の獣でも、臓器だけなら身代わりに出来ましょう」












そして、僕が流れ着いたのは――。












宵闇が迫る中、迷い込んだ見知らぬ森の中の、小さな……やたらメルヘンちっくな村。
雰囲気の異質さにツッコむ気力もなく、僕はその中にある無人の家で眠り込んでしまった。












「あー! 見たことのない人がいるニャ!」
「「「誰だニャ?」」」

「死んでるニャ?」
「ううん、まだ生きてるニャ!」
「どーするニャ?」
「「「う〜〜〜ん……」」」

「こーいう場合は大抵、王子様がチュ〜すればいいニャ?」
「? この中に王子様はいないニャ」
「……この際ニャー達でもいいかニャ?」
「「「それニャ! ん〜〜……」」」



「今起きる!!(←大焦)」













最悪の目覚めを回避した僕の前にいたのは、やたら肉球を自慢する7人のうるさいねこにん達で。

「何だ貴様は!?」
「私はIdolfried・Ehrenberg、イドと呼んでくれたまえ」


その後ズル賢い父(の中身)の謀略により、幾度か死にかけたが、その都度、奇跡的に復活し続けたのであった。

「貴様なんぞに用はない、“英雄”はどこだ!?」
「君のような低能な男に、教える義理はないね」
「うるさい!」

※一部、物語の本筋とは関係のない文章が、流れている可能性が御座います…。















「もし、そこの可愛らしい坊や」

ある日のこと。
僕が窓辺で本を読みながら留守番をしていると、年老いた老人が外から声をかけてきた。

こんな森の中のこんな村でも、たまに行商人が来る。
老人もまたその類いだろう。

「悪いが誰も中に入れたり、物を買ったりしないように言われている。
ついでに、僕は坊やと呼ばれる年齢ではない」
「おや、それはわるかった。 留守番かい? 偉いねぇ」

老人は朗らかに笑うと、提げていた籠から林檎を取り出した。

「どうだい、真っ赤に熟れた林檎だよ。 買うのでなく貰い物なら構わないだろう?
味を村中に宣伝してくれないかい?」

「悪いな、貰い物もNGだ」
「おや心配性だねぇ。 なら安全性を確かめる意味で、このジジイと半分にわけないかい?」
「まぁ、それなら…」

悪魔の誘いと知らず、僕は林檎を受け取ってしまった――。

「あ、美味し……っ!?」
「、ハハハ!」










「ベルセリオス。 この世界で一番、才に溢れるのは誰だ?」
『それは貴方、天上王陛下!』
「ふふ…アーハッハッハッハ!」


















































「成程、其れで君は騙された訳だね?
ならば、ある男の特殊な性癖を、君の復讐に利用してみようか。

さあ…もう暫し、運命の相手は夢の世界で待つものさ…」






















「うおー! 俺の…俺の理想の嫁さんは、一体どこにいるんだーー!!」
「うるさいよ! 愚痴ならよそでやりな!」

ある雪国の宿屋。
彼はやけ酒を煽りながら、仲間の女性から手痛い粛正を受けていた。

「またナンパ失敗したんだ」
「いい加減諦めればいいのに〜」

他の旅の同行者達は、いつものことなので止めに入らない。

「未来に期待のチビっ娘にも、過去は可憐だっただろう婆さんにも声をかけて、見事に玉砕!
何故だ…俺ほどすべての女性を愛する男はいないというのに!」
「だからじゃない?」

冷静なツッコミがクリティカルヒット、彼はそのまま床に沈んだ。
しかし、ここでめげては兄貴分の沽券に関わる。 弟分にはすでに彼女がいるのだから!(←関係ない)

「カイル…俺は決めたぞ」
「え?」
「俺はこの旅の最中に、真剣に嫁さんを探す! お前も協力してくれぇえ!」
「ぇえ〜〜!?」

巻き込まれた弟分の嘆きを尻目に、彼のやる気は燃え盛った。















そうしたある日。

宵闇が迫る中、迷い込んだ見知らぬ森の中の、小さな……やたらメルヘンちっくな村。
その中の一軒が妙に気になり、彼は扉を叩いた。




そこで彼は、出逢ってしまった。

「――天使だ」


閉ざされた硝子の中で、黒い死装束に身を包んだ美少年。
眠るように死んでいるその少年は、今までナンパしてきたどの女性達よりも美しかった。

「やっと見つけた。
俺が女の子達にフラれ続けて来たのは、全部お前に逢う為だったんだ」



「な、なぁ。 その死体…俺に譲ってくれないか?」
「にゃ?」
「ファンダリアの王様に似てるにゃ!」
「てことは王子さにゃ?」
「どうするにゃ?」
「「「いいんだにゃ!」」」















「さあ、もうすぐあの阿呆共がやらかすよ…」

「慎重に運んでくれよ、俺のハニーvなんだから」
「「はいはい」」

「心の準備は宜しいかな?」

「にしても、18年もよくこんな綺麗に保てたわね〜。 ……解剖しちゃおうかしら?」
「お、おい!?」

「【お姫様】」









「今起きる!!(←大焦)」


「「うわぁ!?」」


















「さぁ、復讐劇の始まりだ!」

























時空を越えて辿り着いたダイクロフト。 義父はすでに、かつての仲間達と対峙していた。
そんな彼に、僕は靴を差し出した。
天才科学者の知恵を借りて造られた、とっておきの靴――。














『魔性の肌は白く、黒曜の髪は黒く、焔のように燃え盛る才能』。
妬いたのがお前の罪なら、











     灼けた靴で――

            死 ぬ 迄 踊 れ !
























「ギャアアアアアアア!!」



「あはは! 何ですかそれ、もっと上手に踊って下さいよ。
せっかく可愛い息子が、将来の伴侶を連れて来たのですから!
ははは、アーハッハッハッハ!!」





「…何てこった……」


































『リチャードよ、この世界で一番残忍で狡猾なのは誰だ?』
「それは勿論、【死告人形】ラムダだよ」
『よくわかってるではないか。 アハハハ!』






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