――そして、【第七の喜劇】は繰り返され続けるだろう……
7 この身を灼き尽くすのは
6 浄化を謳う欺瞞の焔■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■5 この心を灼き尽くすのは
4 復讐を唄う憎しみの焔■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■3 飢餓と病、疑心と殺戮
2 イドの底に潜む暗黒の時代よ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1 黒き死の如く連鎖してゆけ
『Richard…地獄に堕ちても――信ジテル』
此の物語は虚構である。
■■■■■■■■然し、其の総てが虚偽であるとは限らない。
――そして今、此の地平に宵闇が訪れた……。
終焉へと疾りだす、夜の復讐劇、第七の地平線。
M a r c h e n
蒼白い月が照らす森。
その奥にひっそりと佇む廃墟の教会。
朽ちた墓標が並ぶ墓地に【彼】はいた。
黒い衣装に黒のマント。 その裏地は血のような紅。
金髪にオッドアイと、いかにも女性に人気がありそうな容姿なのだが、抱いている人形が彼を近寄り難いものにしていた。
「あの井戸から這い出てどれくらい経ったんだろうね。
僕が一体誰の復讐をしているのかも忘れてしまったよ」
あるのはこの身を突き動かす、黒い衝動だけ。
『ふふ…それでは困るぞ相棒、これからも我らは復讐し続けるのだからな』
「あぁ、そうだね」
人形が口をきいたとか、その言葉の内容が恐ろしいだとか、そんなことはどうでもいい。
それよりも今は彼らから立ち上る、禍々しい狂気の渦の方が恐ろしい。
「加害者は動機に関わらず、その罪ゆえに復讐を粛々と受け入れなければならない。
自業自得なのだから、嘆いたところで手遅れさ」
ザァ…っと強い風が吹き、教会を覆っていた木々が揺れ月明かりが強くなる。
それこそがこの喜劇が始まる合図。
「僕らに賛同してくれる被害者達も見つかったし、ラムダにも紹介してあげるよ」
宵闇に蒼白く浮かび上がる、七つの死体。
「さぁ…美しい屍人達にご登場願おうか」
逆十字に串刺しにされた【氷の化身】。
無実の罪で絞首刑にされた【海の使い】。
義父に騙され毒殺された【地の申し子】。
迫害の末に事故死した【半天使】。
謀略に巻き込まれ呪われた眠りについた【焔】。
愛する人に裏切られ吊るされた【黒真珠】。
理を通そうとして磔刑にされた【蒼紫の仲介者】。
「死んでしまった今、いくら恨んだところでもう遅い。
だが、僕達に出逢えたのも何かの運命。
君達が未だ誰かを恨むと言うのなら、その復讐に手を貸そう!」
さぁ…唄ってごらん?
死体達は次々に、自分が死んだ経緯を語り出す。
腐りかけ、半ば癒着した唇を抉じ開けながら。
骨の垣間見える顎を動かしながら。
彼は静かに、その【唄】に耳を傾ける。
『成る程…その恨み、よくわかる。
安心するがいい。 我は【殺意を唄う人形】、そしてこのリチャードは【屍揮者】。
お前達に、最高の復讐劇のシナリオを贈ってやる』
『だがその前に、先に一件片付けておかねばな』
――人を殺めて【焔】奪った奴が裁かれず生き延びるなど、許しはしない。
教会の古井戸、その水面に何か映し出される。
あの時リチャードを陥れ、母を火刑台へ連れて行った男達だ。
雲もないのに、その男達目掛けて……、
『「ぎゃあああああああああ!!」』
巨大な落雷が一閃、墜ちた。
『これで集中できる。 シナリオ作りには精神の平穏が大事だからな』
「その通り。 彼らが僕らを恨むというなら、死んで出直してきてもらいたいね。
あ、もう死んでるか。 どの道手は貸してやらないけど」
今はこの七人に贈る、最高のシナリオを。
美しく、自然で、それでいて残酷な復讐劇を。
「…ふふ、だいたい決まってきたよ」
【再誕】を願う声は【暴食】で喰い潰し、【絆と伝説】は【強欲】で鍛えた刃で引き裂く。
【嫉妬】の業火で焼かれるのが【運命】なら、【怠惰】な不条理と不幸が【交響】すればいい。
【生まれた意味を知】ろうとする【傲慢】さは、【正義】の名の下に【色欲】で堕落させよ。
【憤怒】の加害者達よ、その身を以て【守る強さを知】ればいい。
「詳しい内容は追々…順番に君達に伝えよう。
その時まで…その屍体からすべての【紅い葡萄酒】が流れ落ちないように気をつけていてくれたまえ」
そして二人は踵を返し、舞台の準備に向かった。
最初に目指すのは雪深い村と、その裏手にある森。
足の長いリチャードに合わせるように、時折小走りになりながらラムダが追いかける。
『クク…ッ、期待しているぞ相棒。 愚か者達の復讐を手伝うことこそ、我らの復讐!
これなら、永遠に続けられるぞ。』
『何故なら、人間は憎しみ合わずにはいられない生き物なのだからな』
我らの、世界すべてを憎むほどの恨み。
愚かな生きとし生ける者達よ、今こそ思い知るがいい。
目立つはずの緑と金の陰は、宵闇の森へと融けていった――。
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