――そのパレードは 何処からやって来たのだろうか……
(――そのパレードは 何処からやって来たのだろうか……)













エルの絵本 【 笛吹き男とパレード 】
     〜 Elysion in Tales of the World 〜








嗚呼…そのパレードは何処までも続いてゆく…







ある日の夕方。


むしろそろそろ夜に差し掛かろうかという時間帯。




大変栄えている部類に入る街の入口から、何処からともなく笛の音色が聞こえてきた。
(「おお友よ 罪も無き囚人達よ 我らはこの世界という鎖から解き放たれた!

やがて太鼓や弦楽器の音も混ざり、旋律の輪郭がはっきりしてくるにつれ、その音楽は軽快な舞踊曲だとわかった。
来る者は拒まないが去る者は決して赦さない 黄昏の葬列 楽園パレードへようこそ」)


それはパレードだった。



楽師達も含め行進している者は皆肌が白く、また楽しそうな様子でいる。

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して


先頭で行進を率い、笛を吹いているのは、青みがかった長い銀髪の大男。
先頭で仮面の男が笛を吹く → 沈む夕陽に背を向けて

筋肉質な彼の広い肩には少女が一人座っており、男の吹く笛の音に合わせて歌っている。
パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して


二人のすぐ近くにいる、少女と雰囲気が似ている妙齢の女も、伴奏に加わりバイオリンを弾いていた。
男の肩に座った少女が歌う → その笛の音に合わせて


パレードの参加者に、それらしい共通点は何一つ見当たらない。



男も女も入り交じり、年齢層もバラバラである。

心に深い傷を負った者にとって 抗えない魔性の音…

十六から十八歳くらいの年頃の少年少女達が一番多いようだが、それにしても数が多い。



まるで燃え盛る焔のように紅い髪の女が数人、それぞれ斧や弓、杖などを持って踊りながら通過したと思ったら、

(「やあ友よ 幸薄き隣人達よ 我らはこの世界という鎖から解き放たれた!

続いて今度は、どこか薄気味悪い入れ墨をした、やっぱり気味の悪い道化師達が後を追っていく。
来る者は拒まないが去る者は決して赦さない 仮初の終焉 楽園パレードへようこそ」)


沈みゆく夕陽に背を向けて、その朱い光を受けながらも、パレードは西から東へと進んで行く。


その間にも、列が途切れることはない。



あまりに楽しそうな様子に、思わず踊り出したくなるほど軽快な音楽に、

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して

街の住人達は抗い切れず、次々とパレードに加わっていく。
燃えるような紅い髪の女が踊る → 沈む夕陽を背に受けて


やはりその中でも、十代から二十代の若い世代が最も多いようだ。



この街の住人の、若者のほぼ全員がパレードに加わり終えた所で、ようやく列の最後尾が街に入口の門を潜った。

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して

その頃にはもう、先頭のあの男と少女はすでに、反対側の門から街を去って行っていたが。
《気味が悪い(グロい)》首吊り道化師(Pierro)の刺青(Tattoo)が笑う → あの笛の音に合わせて


そしてちょうどその頃……異変は起こり始めた。



この街で新しく列に加わった者達が、一箇所に固まって市街の中央広場を通過しようとした時。


まさにその場所から、派手な爆音と共に火の手が上がったのだ。



その焔は一気に街全体を呑み込み、夕陽にも負けないほど朱く染め上げた。

心に深い闇を飼った者にとって 逆らえない魔性の音…


人々は逃げ惑い避難しようとするが、街を横断するそのパレードが、東西の入口を完全に塞いでしまっている。


大通りも列が邪魔をして、通行が困難になっていた。



そして、不思議なことにパレードの参加者達は皆…それもこの街の住人であった者達も含めて、


誰もその火事のことなど気に留めたりなどしていない。

笛の音に誘われ 一人また一人列に並んでゆく


至って平然と、笑いながら行進を続けている。
やがてそのパレードは 夕陽を遮って地平線を埋め尽くす…


その中でも、最初からパレードに参加しているらしい一団の中に、特に目立った集団がいた。



喩えば、箱舟を疑い切れなかった女。

(例えば 箱舟を信じた少女)
喩えば、真珠の歪みに気付かなかった乙女。
(例えば 歪んだ真珠の乙女)
喩えば、収穫の手段を誤った娘。
(例えば 収穫を誤った娘)
喩えば、弟を歴史の犠牲にされた姉。
(例えば 妹を犠牲にされた姉)
喩えば、星屑程度の世界に踊らされた少女。
(例えば 星屑に踊らされた女)


この五人はとりわけ、列の中でも異質な存在であり、先頭にいる少女に追従しているかのように見えた。
(誰も仮面の男『ABYSS』からは逃げられない)

バイオリン弾きの女性の、すぐ後ろにいる彼女達の目はどこか虚ろで……。



参加者達はまるで、火事など起きていないかのように行進していく。



例え自分の家が焼け崩れても。家族が助けを求めて咽び苦しんでいても。


自分の衣服や髪に、火が燃え移ったとしても……。
(「御機嫌よう! 可哀想なお嬢さん 楽園パレードへようこそ」)


人数が膨れ上がったパレードが、完全に街を抜け切った頃。


火の手はピークを迎えより大きく燃え拡がろうと、新たな獲物を探していた。

笛の音を操って 一人また一人列に加えてゆく


遠くから見ればその光景は、まるで地平線が夕陽で朱く染まっているように見えただろう。
やがてそのパレードは 夕陽を裏切って地平線を灼き尽くす……






パレードは東へと向かっている。



自分達が通過した街が、自分達の故郷が、今まさに大火によって滅びようとしているのに、


誰一人として振り返ったりはしなかった。


むしろ自らの故郷の存在など、忘れてしまっているようである。




ただ…笛の音に従い、ひたすら行進を続けている。




嗚呼…あの街の住人達は知っていたのだろうか。 先頭にいたあの大男が、前もって街中に発火装置を仕掛けていたことに。


気付いていたのだろうか。 以前からパレードに参加している者達のほぼ全員が、致命傷とも言える傷を負っていたことに。


今となってはもはや確かめようがないが、彼らは知らなかったに違いない。


先頭にいた歌唄いの少女と、バイオリン弾きの女の二人以外の者全員が、実はすでに死んでいる者達であった事実を。









そして今日も、自らの死を知らない亡者達の行進は続いていく……。

嗚呼…そのパレードは何処までも続いてゆく…









――そのパレードは、何処へ向かっていくのだろうか――?
(――そのパレードは 何処へ向かっていくのだろうか――)






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