あの人こそ、私の『英雄』なのかしら――?
(――彼女こそ 私のエリスなのだろうか……)







(Sacrifice Sacrifice Ah Sacrifice Sacrifice Ah)






  Sacrifice
〜Elysion in Tales of Legendia 〜 SENEL ver.














爪術の素質と年齢。



その条件を充分過ぎるほどに満たしていた俺は、
無邪気な笑顔が  愛らしい妹は

『メルネス捕獲作戦』用に、ヴァーツラフの下で軍の特殊訓練を受けていた。
神に愛されたから 生まれつき幸福(しあわせ)だった


そのせいかどうかは知らないが、当時の俺は、相当荒れていたんだと思う。


実際、水の民の里に潜入してからも、ステラとシャーリィの姉妹以外、誰も俺に近寄ろうとはしなかったから。



狙われているくせに、そうとも知らずに無用心に懐いてくるシャーリィを見て、


俺は最初は、内心馬鹿にしていた。
一人では何も 出来ない可愛い天使


多分それは、子供らしい子供時代を送れなかったがための僻みだったんだと思う。


無邪気に年齢相応に振る舞える、シャーリィが羨ましかったのかもしれない。
誰からも愛される 彼女が妬ましかった


でも、彼女達姉妹と接している内に、いつしか俺も、普通の子供になっていた。
器量の悪い私を 憐れみないでよ…

水の民とか陸の民とか…そういう区別もなくなって、ここに来た本来の目的も忘れていた。
「――惨めな思いにさせる 妹(あのこ)なんて死んじゃえば良いのに…」


だから里が軍に襲われた時、俺のせいだと思った。


俺が作戦のことも忘れて、油断してステラと一緒に結界の外に出たから。
(Sacrifice Sacrifice Ah Sacrifice Sacrifice Ah)


俺がシャーリィの熱を下げるための薬草を採りに行くなんて言わなければ。
あくる日妹は 高熱を出して寝込んだ

全てステラに任せておけばよかったのに…。
ごめんなさい神様 あの願いは嘘なんです


火に包まれた里から脱出する時、ステラは自分が捕まることを覚悟の上で、
懺悔が届いたのか やがて熱は下がった

俺にシャーリィを託したんだ。
けれど今度は母が 病の淵に倒れた


俺が爪術使いだと知っていたから、
母が今際の時に遺した言葉は…

多分…俺が何のためにやって来たのかも見抜いていただろうに……。
「――妹(あのこ)は他人(ひと)とは違うから お姉ちゃん(あなた)が助けてあげてね…」


あいつのためにも、俺は命にかえてでもシャーリィを守ると誓ったんだ。

(Sacrifice Sacrifice Ah Sacrifice Sacrifice Ah)

「お兄ちゃん?」


「ん? どうしたんだシャーリィ。」


「…ううん、何でもないの。 お仕事頑張ってね。」



流れついた先の街で、俺はマリントルーパーの仕事を始めていた。
母が亡くなって 暮らしにも変化が訪れ

正直キツイけど、食っていくためには仕方ない。
生きる為に私は 朝な夕な働いた


軍からの追っ手が来ている気配も今の所ないし、仕事の上司も優しい。
村の男達は 優しくしてくれたけど

何より、家には自分の実の妹も同然のシャーリィが待っている。
村の女達は 次第に冷たくなっていった


生活面が潤っている訳じゃないけど、今まで俺が求めてやまなかった家族的な温もりがあった。
貧しい暮らしだったけど 温もりがあった…

二人で協力して、何とかその日その日の暮らしをしていたし、それなりに幸せでもあった。
「――肩を寄せ合い生きてた それなりに幸福(しあわせ)だった…」

















それなのに、どうしてこんなことになってしまったんだ。 なぁ、誰か教えてくれよ!
それなのにどうして…こんな残酷な仕打ちを…教えて神様!

水の民とか陸の民とか…そういう種族の違いは、争うに足る理由なのかよ!?
妹(あのこ)が授かった子は 主が遣わし給うた 神の御子ではないのでしょうか?

















シャーリィがメルネスとして覚醒し、また静かの海で真実を知った時。
――妹が子供を身篭もっていることが発覚した夜

旅の仲間達は、互いに顔を見合わせ、口を噤んだ。
村の男達は互いに顔を見合わせ口を噤んだ


重い静寂を打ち消したのは、耳を疑うような裏切りの言葉。
重い静寂を引き裂いたのは耳を疑うような派手な打音

パーティーで最も冷静なジェイが放った、信じられない否定的な言葉。
仕立屋の若女将が妹の頬を張り飛ばした音…


「水の民が」 「世界の外」 「僕達と違う」 「気持ち悪い」
(「泥棒猫」 「可哀想な子だと」 「世話を焼いて」 「恩知らず」)


あまりの衝撃に後から思い返しても、断片的にしか思い出せない。


それでも自分達兄妹の、これまでの月日を否定する言葉だとわかった。
――断片的な記憶…断罪的な罵声…


(こいつ…一体何を言っているんだ? 気味が悪い……。)
嗚呼…この女(ひと)は何を喚いているんだろう? 気持ち悪い


頭に血が上り、セネルは反射的にジェイに掴みかかっていた。
ぐらりと世界が揺れ 私は弾け飛ぶように若女将に掴み掛かっていた…

格闘家で腕力の強いセネルが、体重の軽いジェイを殴ればどうなるかは…一目瞭然だった。



年齢の割に小さな体は簡単に吹き飛び、セネルの手には赤いものが付く。
緋く染まった視界 苦い土と錆びの味

周囲からは非難の嵐。 とりわけ、最年長のウィルからの怒声が大きかった。
頭上を飛び交う口論 神父様の怒声


「人でなし」 「セネセネには解らない」 「頭を冷やせ」 「怒らなくても」 「セの字の馬鹿力」 「満足ですか」
(「純潔の」 「悪魔の契り」 「災いの種」 「マリア様の」 「誰もガブリエルを」 「火炙りだ」)








嗚呼…本当の敵はお前達の方だ――!
(「嗚呼…悪魔とはお前達のことだ!」)
















そして、光跡翼で見たシャーリィは最期に、「ありがとう」と笑った……。
――そして…妹は最期に「ありがとう」と言った…
















水の民からの心ない期待。 陸の民からの心ない仕打ち。
心無い言葉 心無い仕打ちが

それがどれだけシャーリィを追い詰め、この決断をさせたのかは想像に難くない。
どれ程あの娘を傷付けただろう

それでもあいつは、あいつら姉妹を騙していた俺さえ赦すほど優しいから、きっと両方の全てを赦すんだろうな…。
それでも全てを…優しい娘だから…全てを赦すのでしょうね…


「――でも、俺は絶対に赦さないからな……。」
(「でも…私は絶対赦さないからね……」)


メルネスはもういないのに、光跡翼が再び稼動した。


まるで滄我が、彼の怒りに呼応するかのように……。



「この世界が、どうしても種族の違いを肯定すると言うのなら。
(「この世は所詮…『楽園』の代用品でしかないのなら

その違いすら含めて全て、平等に海に沈むがいい……!」
罪深きものはすべて…等しく灰に還るが良い!」)









……そうよ。

(「――そうだ」)










――同族を裏切った男。 動かない妹の躯を抱きかかえ。
――裸足の娘 凍りつくような微笑(ほほえみ)を浮かべ

沈みゆく遺跡船。 その波の向こうに『一人の少女』を見ていた――。
揺らめく焔 その闇の向こうに『仮面の男』を見ていた――










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