あの人こそ、私の『英雄』なのかしら――?
(――彼女こそ 私のエリスなのだろうか……)















  ield
〜 Elysion in Tales of Destiny 〜 STAN ver.














家出同然で村を飛び出して来たけど、憧れのダリルシェイドには罪人として来てしまった。


でも、俺は全然気になんてしていない。



だって、すごく綺麗な子が仲間に入ったんだから。


だけど……リオンがマリアンさんを気にしているのは、ちょっと注意して見ればすぐに解った。



でも関係ないもんね。 うん。


これから先のことはどうなるか判らないんだし、こうなったら熱烈猛アタックだ!












「リオ〜〜ン!」



ダリルシェイドを発ってからというもの、スタンは得意の“過剰スキンシップ”で、毎日のようにやたらとリオンを構い倒した。
一人娘は せっせと種を蒔く

それはリオンを嫌っているルーティでさえ、あの小さな少年が見ていて可哀相に思える時がある程のしつこさで。
変わらぬ過去に 訪れぬ未来に


何度手厳しくあしらっても、“懲りる”とか“めげる”ということを知らないのかと疑いたくなるくらいだった。



「えぇい欝陶しい! 僕はお前のような奴は大嫌いだといっているだろう!」


「でも俺は好きなんだしさ。 仲良くしよーよ♪」


「断固ことわる!」



ストレイライズ神殿の件を王に報告し終わっても、ずっとこの調子だった。
不毛な行為と 君は笑うだろうか?

緊迫した状況だというのに全く気にした風でもない。
それなら君は 幸せなんだろうね…


何度もディムロスから「TPOを弁えろ」と叱責されたがどこ吹く風。


まったく効果が表れなくとも、スタンはスキンシップの手を緩めなかった。
根雪の下で春を待つの 夏が過ぎれば実りの秋ね…


そのあまりの様子に、さすがのマリーも引いてしまう程に。



しかし、そんな関係に変化が起きた。
成果…収穫…それは果実を産む (harvest harvest it yields fruits. )

カルバレイスでスタンが庇って以来、リオンの彼に対する態度が柔和になったのだ。
最も遅い収穫…それは甘い果実を産む (lala latest harvest it yields sweets. )


勿論それは、あくまでスタンの剣の技量や性格などを認めただけであり、別に友人関係から発展したわけではない。



それでもスタンは小躍りするほど喜び、スキンシップも更にエスカレートした。
一夜限りの 情事(ゆめ)でも構わない

自然と二人でいる時間が増え、リオンもスタンの前では笑うようになってきた。
それをも女は 永遠に出来るから


彼にだけ見せる年齢相応の笑顔や仕種に、何度鼻血が出そうになり、押し倒したくなったことだろう。


スタンはそんな本能を、何とか理性で押し止め、手堅く外堀を埋めていった。



「アンタって本っ当〜にリオンが好きよね〜〜。」



ノイシュタットで休憩中、ルーティがからかい半分で言った。
不毛な恋と 君は笑うだろうか?


見ていて判りやすいフィリアは勿論、ルーティもまたスタンに対し特別な感情を持っていることは、勘の鋭い者はすでに気付いていた。
やっぱり君は 幸せなんだろうね…

最初にアトワイトが気付いたらしいが、初めて知った時にはかなり驚いたらしい。



それでも、周囲から自分に向けられる感情…特に好意には恐ろしいほどに鈍いスタンは、そんな女性陣の気持ちに気付きもしない。


元々彼自身がリオンしか見ていないこともあるのだろうが、それでもここまで来ると神憑り的な鈍さだ。



「あぁ!


……俺妹居るしさ。 あれくらい年離れている相手には、無条件で構いたくなっちまんだよなぁ。」



まさか本当のことを言う訳にもいかず、何とかして適当にはぐらかそうとする。
凍える夜は夢を見るの 夏が過ぎれば想いが実る…

しかし馬鹿正直に表情に出ていたせいでか、スタンの感情の大まかな内容は、簡単に感づかれてしまった。



「ふ〜ん…。 ……ま、いいや。


あのクソガキに愛想尽かされないように、せいぜい頑張んなさいね。」


「へ!? あっ、ちょ……っ、ルーティ!?」



顔を赤くしながらルーティを追うその様子に、スタンの本心は周囲にバレバレだった。
結果…収穫…それは果実を産む (harvest harvest it yields fruits. )

二人以外には各々のソーディアンと、イレーヌ邸に仕えているメイドくらいしか居なかったのがせめてもの救いか。
最も遅い収穫…それは甘い果実を産む (lala latest harvest it yields sweets. )


ディムロスもアトワイトもその辺りの分別はつけているため、不用意にリオン本人やシャルティエに漏らすことはないだろう。



スタンはリオンのことが、好きで好きで仕方なかった。


いつまでも側にいて欲しい。 ずっと隣りで笑っていて貰いたい。
(「3」)…不安定な数字 (「3−1」)…模範的な数式


全てが終われば、一緒にダリルシェイドで仕事をしよう。


そうでなくても、一度リオンをリーネの村に連れて帰って、リリスを始めとする身内みんなに紹介するのもいいだろう。
問題となるのは個の性質ではなく 唯…記号としての数量


まだグレバムに対して後手後手に回っているのに、今の内から将来設計をするなんて。


しかもまだ本人に想いを伝えていないのに、気が早いにも程がある。



だが、今まで長閑な村から出なかったこの青年にとっては、ささやかではあるが大きな夢だった。
世界が安定を求める以上 早くどれか一つを引かなければ…


















そんな純朴な夢を、小さいながらに大切な願いを。
何故人間(ひと)は恋をする 相応しい季節(とき)に出会えないの?

運命は嘲笑うかのように狂わせた……。
嗚呼…お父さん(dad)…お母さん(mam)








「――それでも私は幸せになりたいのです……」










「リオン!?」



オベロン社廃工場・『ライブラW』。


その地下の海底洞窟で追い付いた時、自分達の前に立ち塞がったのは。



紛れもなく、愛おしい彼の人で。



彼自身の言葉やヒューゴの態度からして、マリアンが人質に取られていることは想像に難くなかった。


しかし、ヒューゴがどこかで見ているかもしれないと思うと、下手なことは出来ない。



身を切るような想いで剣を打ち合わせている間も、スタンは、普段とは掛け離れた速さで考えていた。



(クソ! 何かないのかよ!?
恋心 甘い果実 真っ赤な果実 (sweets lala sweets lala まっかなfruits.)

リオンもマリアンさんも助けられて、しかもヒューゴの行動も阻止出来る方法は………!)
もぎ獲れないのなら 刈り取れば良いと…


そして、思いついた。 考えついてはならない方法を。


選んではいけない、実行してはならない手段を。



マリアンを救出出来て、なおかつリオンを手に入れられる方法。


どうしようもなく愛おしい少年を、自分だけの物に出来るその方法は……。
恋心 甘い果実 真っ赤な果実 (sweets lala sweets lala まっかなfruits.)


(……ごめん、マリアンさん、みんな。 それから…リオン……。 俺、バカだから、これしか思いつかないんだ……。)
嗚呼…でもそれは首じゃないか……


そして金髪の少年は、いつもの彼とは打って変わって無表情になり。


自らのソーディアンを、目標に向けて一気に振り下ろした……。


















愛された者と、愛されなかった者。 一番不幸なのは誰?
二人の♀(おんな) 一人の♂(おとこ) 一番不幸なのは誰?

落ちた『果実』が階段を転がり落ちる音。 それは、余剰な数字が引かれる音。
落ちた果実…転がる音 余剰な数字…引かれる音

「3−1+1−2」
(「3−1+1−2」)

――最後に現れたのは『一人の少女』。
――最後に現れたのは『仮面の男』

彼らが消え去った後、仄昏い洞窟に一人取り残されるのは誰?――
彼らが消え去った後 荒野に一人取り残されるのは誰――











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